第157話 【おまけ】魔法銃:中編
「お疲れ様でーすっ!ギルドから魔法銃使用テストの依頼を受けてきましたーっ!」
「ん?あー……えっと。え?ギルドから派遣されたのって……君達?」
「はいっ!お願いしますっ」
「……ええっと……冒険者証、見せてくれる?」
なんというか、懐かしい扱いですね。
魔法銃を手渡してくれるはずの業者さん達が、どういう訳かきょとんとしています。お互いに目配せし合ったかと思えば、微妙な顔色をしていました。
今回はダンジョン攻略前に業者さんから武器を受取り、レクチャーを受けた後に自由にダンジョン攻略を行う手筈となっています。
一応、イナリちゃんもいるので例の如く、他の冒険者がいないダンジョンを選択してもらいました。
ですが業者さん達はお互いに顔を見合わせた後、訝しげな顔を見合わせました。
……なんだか久々にこのリアクションをされましたね!?
はい、いつものことです。
もう読めてますよ?
「はいっ。どうぞ!」
なんとなく予想が出来ていたので、私は財布から冒険者証を取り出して手渡しました。
正直、もう慣れちゃいました。
確かに見えませんよね、少なくとも一社会人としてダンジョン攻略を行う冒険者には。
遊びに来た女の子にしか見えないのが悲しいところです。ちーん。
「……あー……本物、ですね」
「本物ですよ!こう見えても冒険者ですっ。資格番号を照合してもらっても良いですよ」
そう堂々と胸を張ると、業者さんは慌てて頭を下げてきました。
張るような胸ないだろ、とか言うのはナシですよ。
「し、失礼しました。では、武器を準備させていただいていますので……」
冒険者証が正真正銘の本物であることを確認した業者さんは、申し訳なさそうに平謝りしてきました。
まあ、今回はパーティ編成を間違えていると言えば間違えています。せめて鈴田君がいれば話がスムーズだったんですけどね。
改めて私はパーティメンバーである、ゆあちーとイナリちゃんへと視線を送ります。
「ことちー、慣れてるね」
「この場においては非常に助かるのじゃが……なんというか、複雑じゃの」
現役16歳女子高生冒険者と、狐耳と尻尾を隠した外見小学生高学年の冒険者は、お互いに顔を見合わせました。
やっぱりパーティ編成間違えていますって。
ちなみに今月のシフトを組んだのは我らが部長、加月部長です。シフト組むの下手くそか。
傍から見れば若い女の子3人組です。
中身を知れば納得しますよ。
……それを伝える手段が無いのですが。うう、世知辛い。
今回は恵那斗は不在ですが、呪い三人衆はこういう対応面で不便を被っています。基本的に他の冒険者がいないダンジョンでの攻略がメインとなるのは、こういう面倒な手続きという理由も大きいです。
まあレアケースなのは否定しません。学生冒険者はいるにはいるんですけどね。
ゆあちーみたいにレベルアップが爆速な冒険者というのは非常に珍しいです。
その分、ステータスの成長度合いも少し抑えられている気がしますが。
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「まず、確認しますね。魔法は体得しているでしょうか」
魔法銃を取り扱っているスーツを着込んだ女性の職員さんは、そう質問を投げかけてきました。名札には「前園」と書かれています。
「ん?」
うん?魔法銃を取り扱うのに、魔法について聞いていくんですか?
ゆあちーとイナリちゃんは素直に質問に対して「覚えています」と頷きました。あ、イナリちゃんはまだ変装モードを解いていません。対外向けです。
ですがちょっと気になる前置きですね。
「覚えていますが……魔法銃に関係あるのでしょうか?」
「はい。今回取り扱っていただく魔法銃は、魔法杖の要素を組み込んだものとなっています」
ふむふむ、魔法杖の要素を組み込んだ魔法銃ですか!それは少し興味があります。
これまでのような、ただ“魔法を組み込んだだけの弾丸”とどう違うのでしょう。
「……ほう」
「おっ、関心を持ってくれたみたいですね。分かりやすいなぁ……」
そんな私の関心をくみ取ってくれた、前園さんはにこりと微笑みました。ストレートロングの長い髪が似合う、どこかあどけなさの残った笑みが眩しいです。
「うん。じゃあ説明しますね。魔法銃の弾丸に使用されているのは、魔石ではありません。魔玉のメカニズムを採用しています」
「……どういうことです?」
魔玉って……魔法杖の、先端に取り付けられるあの宝石のことですよね。
魔玉には“構造魔法陣”という、魔法を発動させる為の構造式のみを書き込んだ技術が適応されています。
構造式に高濃度の魔素が接触することによって、はじめて魔法が発現されるという技術ですね。
大体の魔法杖には「効果増強」などの構造式を組み込まれています。仕事のお供、魔法杖。
これまでの魔法銃では、銃身そのもので魔法を選択する形となっていました。“炎弾”の構造式を組み込んだ魔法銃であれば、“炎弾”を射出出来ると言ったものです。
もっと要約すれば、魔法使い以外でも疑似的に魔法が使える。
それが従来の魔法銃の特徴だったんですね。
ですが、魔玉のメカニズムを採用しているというのはどういうことでしょう。
私が首をかしげると、前園さんはくすりと微笑みました。
「ふふっ。興味を持っていただいて、職員冥利に尽きるというものですよ。最近の冒険者さんって、大体魔法が使えるじゃないですか。多分、そこのお2人も使えるんでしょうけど」
前園さんは、ちらりとゆあちーとイナリちゃんへと視線を送りました。
「……こっちを見るでない」
「おじいちゃん、なんで隠れてるの」
「やかましいわい」
ボソボソと、イナリちゃんとゆあちーは会話を繰り広げていました。
イナリちゃんはあんまり人の視界に映ることを恐れているのか、ゆあちーの影に隠れています。
なんだか人見知りする女の子にしか見えないのが、これまた可愛いですね。行動の全てが誤解を生んでいます。
私も人のことは言えませんが。
傍から見ると姉妹にしか見えない2人に対し、前園さんはおかしそうに「ぷっ」と吹き出しました。
「さて、話を続けます。今回の魔法銃は、“魔法使い向け”をコンセプトとして製造されました」
「魔法使い向け、ですか」
「はい。実演してみますね」
それから彼女は、魔法銃のマガジンを取り出し、専用の弾丸を装填。それから、ダンジョン内の修練場に配置されたダミーへと銃口を向けました。
両腕をしっかりと伸ばし、安定した姿勢を取っています。
普段からレクチャーを行っているからでしょうか、姿勢がすごく綺麗です。映画のワンシーンみたい、動画に収めたいです。
前園さんの、凛とした声が響きます。
「“炎弾”」
その詠唱を文字通りトリガーとして、銃身から火花を散らして弾丸が射出されました。魔玉と同様の機能を持った銃弾は、大気を突き破る勢いで加速。飛び散った火の粉だけが、その銃弾の軌跡を描きます。
“炎弾”を付与した銃弾は、瞬く間にダミーへと着弾。小さな爆風を生み出し、微かにそれを揺らしました。
「じゃあ、次に行きますね」
前園さんは、魔法銃を構えながら再度詠唱します。
「“氷弾”」
先ほどとは異なる、別種の魔法を詠唱しました。
「……ん!?」
あれ、銃身とか弾丸とか入れ替えたりしていませんよね?!
私の疑念などお構いなしに、再度前園さんの詠唱をトリガーとして魔法銃から銃弾が射出されました。
大気を穿ちながら加速するそれは、今度は凍える霜を軌跡として描きました。
紛れもなく、放たれたのは“氷弾”のそれでした。
“氷弾”を付与した銃弾は、再びダミーへと着弾します。刻んだ弾痕の周辺には、微かに凍り付いた傷が刻まれていました。
なるほど、興味深い技術ですね。
ですが私が質問を投げかける前に、ゆあちーが手を上げて質問をしました。
「あの、銃弾入れ替えたりしていませんよね?」
さすがのゆあちーも、その魔法銃には興味津々なようです。ですがさすがに銃口を覗く訳にはいかないので、遠目からまじまじとその魔法銃を見つめています。
そんな年相応の好奇心が面白かったのか、前園さんは柔らかに微笑みました。
「はい、使っていませんよ。これ自体に魔玉が組み込まれているようなものなので、この魔法銃があれば好きな魔法を射出できます」
「へーぇ!!すごいです、ちょっと触っても良いですかっ!」
「どうぞ。あ、引き金にロックを掛けますね。うっかりトリガーを引いてしまうと危ないので」
「あっ、すみません」
前園さんから魔法銃を受取ったゆあちーは、興味津々と言った様子でその本体を触っていました。
ファンタジーの雰囲気に寄せたのでしょう。洗練されたボディは、一般的なハンドガンのデザインとは大きくかけ離れています。
ごてごてとした装飾を模した、魔法陣を象ったデザインが特徴的です。持っているだけで楽しくなるような魔法銃ですね。中二病に嬉しいデザインです。
しかし、魔法銃そのもので完結するのではなく「魔法を扱える冒険者のみが扱うことの出来る魔法銃」ですか。正直、その着想は思いつかなかったです。
魔法杖に居場所を奪われた魔法銃ですが、なるほど。たしかにこのシステムであれば選択肢の一つとして考慮することも出来ます。
誰でも扱える武器ではなく、専門性を持たせたものへと転換させる。
用途を絞ったのは賢いですね。
正直、誰でも扱える魔法銃のままだったら、私も興味は持たなかったかもしれません。
任意の魔法を、弾丸として射出できる。
それなら、色々な用途が思いつくというものです。
……ですが、今の私の関心は、魔法銃にありません。
「あの、前園さん……ですか?」
「ん?はい。何か気になることでもありました?」
「や、実演するためとは言え……“炎弾”と“氷弾”を使えるんですか」
「まあ、仕事ですからね」
「……」
うーん、それだけで「そうなんですね」と腑に落ちる答えではないんですよ。
冒険者でもない人が、そう2属性の攻撃魔法を扱えること自体、すごいことです。
私の知り合いの中で“炎弾”と“氷弾”を扱える冒険者というのは麻衣ちゃんしか知りません。全日本冒険者協会の職員の。
結構、とんでもないことなんですよ。
私だって、炎弾を会得するのに苦労しましたし。思い出してくださいよ、一番最初に射出した地べたに転がった“炎弾”。
なので、少しこの「前園 穂澄」という名前の職員さんには興味があります。
そんな視線を感じ取ったのでしょう。前園さんは肩をすくめて微笑みました。
「……えっと、同じ魔法使いなら、気になりますよね?」
「そりゃあ、当然です」
「やっぱりかー、あははっ」
前園さんは、どこか幼さの滲んだ声を上げて笑いました。
それから「ここだけの秘密ですよ」と前置きした後、右手をダミーの方向へと突き出します。
すると、私でさえも知らない現象が目の前で巻き起こりました。
「……ん!?」
まるで、1から作り出すかのように、どこからともなく浮かび上がった光の欠片が彼女の右手に集まっていきます。
その光の粒子が象っていくのは、1本の杖。
いつの間にか、彼女の手にはそれが握られていました。
赤い魔玉が嵌め込まれた、木製の貧相な魔法杖です。
彼女はそんな魔法杖をダミー目掛けて突き出したかと思うと、静かに詠唱しました。
「“灼熱弾”」
「はえ?」
次の瞬間、世界は橙色に染め上げられました。
貧相な木製を飾る魔玉から解き放たれたのは、うねるような灼熱の渦。
まるでダンジョンを飲み込まんとする巨大な蛇の如く襲い掛かる紅蓮の炎は、瞬く間にダミーを飲み込みます。
突如として呼び起こされた高火力の魔法が、辺り一帯を橙の光に染め上げます。
「っきゃ!?」
「ぬぅ……!?」
ゆあちーとイナリちゃんも当然、そんな高火力の魔法が解き放たれるとは思っていませんでした。
2人はぎょっとした様子で前園さんに視線を送ります。
「……」
ですが、そんな視線を受けても前園さんはどこ吹く風と言った様子です。
流れるようなストレートロングヘアが、爆風の余波を受けて激しくなびきました。
やがて巨大な獄炎に飲まれたダミーは、土煙を舞い上げます。大気を吸い込まんとするが如く生み出された“灼熱弾”は、炎どころか稲妻さえも迸らせています。まるで、魔法で作られた暗雲のようにも見えました。
そんな“灼熱弾”は、一定以上の大気を飲み込んだところで急激に霧散。火の粉を散らしながら、虚空へと溶けて消えました。その衝撃の余波が、再び軽く私達の髪を揺らします。
「……さすがに、鈍ったかな」
前園さんは、そんな“灼熱弾”を見送って、ぽつりと呟きました。
……鈍った……?
“灼熱弾”に呑まれたダミーは、黒焦げになっていました。衝撃の余波が生み出した風によって、微かにそのシルエットが崩れます。
“琴ちゃんキャノン”よりは幾分か健全な火力ですが、それでも魔物を屠るには十分な火力を持ち合わせていました。
そんな火力を以てして、「鈍った」ですか。
彼女は、一体——。
「……冒険者、だったんですか?」
「まあ、それに近いかな」
「近い?」
「秘密、だよ」
そんな言葉を交わした前園さんは、悪戯染みた笑顔を向けました。長い髪で顔を隠しつつ作り出す笑みは、どこかあどけなさが残っていて可愛らしかったです。
茫然とする私達をよそに、彼女は「皆さんはこれを使ってくださいね」と足元に置いていた、段ボールに梱包された魔法銃を手渡してきました。
段ボールのデザインには、魔法銃を模した簡素なイラストが描かれています。家電製品の梱包に見えないこともありません。
「私は外に出ていますので……テストを終えたら返品をお願いします」
「あっ……はい」
「あ、あと……ダミーを壊したことは私から連絡しておきますね……っと」
そう告げた前園さんは、右手に持っていた魔法杖を何のためらいもなく空中で手放しました。
あまりに何のためらいもなく空中から落とそうとするものですから、反応する間さえありません。
ですが、次の瞬間。
「……えっ?」
前園さんが持っていた魔法杖が、空中で光の粒子となって消えてしまったのです。初めからそこに何もなかったかのように、魔法杖は虚空へと溶けて消えました。
謎に謎を呼ぶ女性ですね!?原理不明の行動をしないで欲しいものです。
もしかすると、私のまだ知らない謎の技術を持っていたりするのでしょうか。
ですが、前園さんは何も言うつもりはないようです。
「あ、今回のことは企業秘密ということで」
そう、最後に告げた後前園さんは修練場から姿を消しました。
どうやら、ダンジョンから出て外で待っているようですね。
……この世には、どうやらまだ私の知らない謎が多いようです。
茫然と彼女の後ろ姿を見送った私の隣へと歩み寄ったイナリちゃんは、ぽつりと呟きました。
「……琴ちゃんや、世界は広いの?」
「全くですね。あの職員さん、ただものじゃなかったですね……」
「ぬぅ。ただの1職員で居させるのが勿体ないわい」
私達が次に視線を向けた先には、真っ黒こげになったダミーがありました。
魔法銃を提供してきた職員、前園 穂澄さんが放った“灼熱弾”の余波によって破壊されたものです。
あれだけの火力を余裕をもって解き放ち、それでいて「鈍った」などと評価できる人物。
正直、彼女の素性について気になるところはありますが。まあ、知る機会があるかと言えば怪しいところですね。
「……すごいね。私も負けてられないな」
そんな彼女の姿を見届けたゆあちーは、きゅっと固く口を結んで前を向いていました。
どうやら彼女を焚きつける結果となったようです。
「ことちー、私達も負けてられないよ。何事も経験だよね」
「うん!”アイテムボックス”とか飛ばしてみたいな」
「それはあんまりお勧めできないけど……」
私がそう返事すると、ゆあちーは微妙な表情を浮かべました。
あれ?そういうことじゃないんですか?
ですけど、実際に”アイテムボックス”を銃弾で飛ばしたらどうなるのでしょう。気になりますね。
まあ……本来の用途を、みんな忘れているかもしれませんが。
”アイテムボックス”って、手に入れた道具を亜空間の中に格納する為の魔法なんですよ。
本来は決して、武器として扱われるものじゃないんですけどね。今更ですが。
私のやり方がおかしいだけです。えへへ。
前園 穂澄さんは著者の過去作における登場人物です。おまけなので、ゲスト出演です。(作者)




