第156話 【おまけ】魔法銃:前編
「魔法銃、ですか?」
「うんうん。お得意様からのお願いでさぁー。ちょーっと実戦で使ってみてほしいんだってねぇ」
「時代に逆行していますね……」
「だからこそ、狙い目だって睨んでいるみたいだね。まあ、どこの企業もそんなもんだよ」
今、私は冒険者部署の部長である加月 有久さんとお話をしています。筋肉ムキムキバーコードハゲの朧月夜部長です。ぷぷっ。
そんな彼から突然どんな話を振られたかと思えば、「魔法銃の使い心地について意見が欲しい」とのことでした。
まあ、ファンタジー風に言えばクエストですね。そう言い換えなければ楽しくないので、私は頭の中で時々言葉を変換しています。
ファンタジー感を消し去って説明すると、“使用実態調査”と言われる、商品を顧客に使用してもらうことによって課題点を明確にしようとするものです。
好きな装備と好きな戦闘スタイルだけでダンジョン攻略しても良いかと言われれば、そういう訳でもないのが面倒なところですね。社会人の側面が混じっています。
魔法銃。
魔法を扱える人材が貴重であった頃、魔法杖の前駆体として開発された武器のことですね。
銃弾状に加工した魔石を、専用の銃身を用いて射出することにより魔法を発現させるというメカニズムを持ち合わせています。細かい部分は今回省略します。
メリットは、誰でも簡便に攻撃魔法を発動させることができるという点です。
魔法をまだ十分に会得していない冒険者も、実質無詠唱で魔法を発現させることが出来ます。まあ当然、火力としては熟練の冒険者のそれには劣りますけどね。
ですが裏を返せば「魔法を会得した者にとっては、不要の長物となる」という意味でもあるんですね。
時代と共に、魔法杖が普及し、魔法銃が衰退した理由の大きな要素としてはそこにあります。
魔玉をあつらえた魔法杖の方が、高い汎用性を持ち合わせているのですから。汎用性に劣る魔法銃は衰退する宿命にありました。
魔法銃本体に加え、専用の銃弾を製造するコストが非常に高かったのも原因のひとつですね。
一度形として完成させれば、定期的なメンテナンスのみで事足りる魔法杖。
対して、銃弾を補填しなければいけない上に、装備一式が嵩張るというデメリットを持った魔法銃。
ハッキリ言って、使用感は雲泥の差というやつです。
私は好きなんですけどねー。
ロマンだけじゃあ、現実に抗うことは出来ません。
「まあ、無理にとは言わないけどね。試してみて、あんまり魅力に感じなかったらそれもまたひとつのデータだし」
「んー……私、魔法銃って使ったこと無いんですよね。や、気になってはいたんですけど、実際に手に持つ機会が無くて」
魔法銃自体にはロマンを感じて好きなんですよ。
ですけど、実戦で使えるかというと話は別です。準備が面倒ですし、今となっては魔法を覚えているのでどうしても、威力的に見劣りします。
“琴ちゃんキャノン”のような高火力ぶっぱが出来ない時点で、正直私としては楽しくありません。
まあそんなこと、仕事である以上大っぴらには言えないですけどね。
仕事である以上はちゃんとやります。なんだかんだ収入に関係するので。
「じゃあちょうど良い機会なんじゃないかな。ちょうど土屋さんも気になるって言っていたし」
「ゆあちーも?」
「うん。彼女も“選択肢の1つになるなら”って興味を持っていたよ。立派だね、あの子も」
「……むぅ」
うーん、ゆあちーは相も変わらず立派に高校生やっていますね。47年の人生を無為に過ごしてきた私としては、非常に耳が痛いです。
魔法使い研修にも積極的に参加していましたし、選択肢の幅を広げる為に努力を重ねているのが垣間見えます。神童という名前にかまけないのは偉いです。
……戸籍年齢で言えば、同い年なので劣等感があります。
うう。
なんだか焚きつけられているようで非常に複雑な気分ですが、まあここは部長の顔を立てておくことにしましょう。
「まあ、試すだけならただですもんね」
「うん、その意気だよ。銃弾は経費で落とせるから、好きに使ってね」
「無料で使えるのは助かります」
……まあ、無料で使えるなら良いか。
経費で扱って良いというのなら、多少なりとも琴ちゃんなりの使い方を思いつかなければ損というものです。
仕方がありません。
琴ちゃんなりの発想力を用いて、魔法銃の新しい扱い方を模索していくこととしましょう!
☆
「ことちー!」
「むきゅっ」
ダンジョンへ向かう為に、駅のホームで合流することにしていた私は、唐突にゆあちーに抱き着かれました。
あの、恥ずかしいんでやめてほしいです。ほら、周りの人達も見ています。
「ことちー久しぶりー、元気してたー?」
「う、うんっ。元気だよ。だから、あの、頬ずりは止めて欲しいな」
「んーやっぱりことちーは癒しだなあ……研修以来の組み合わせだ―……ん?」
ゆあちーはそこで、私の隣に立っている人物に気付いたようです。
頬ずりするのを止めて、ちらりとその人物を“見下ろし”ます。
しばらくの硬直の後、ゆあちーは再び顔をぱあっと明るくさせました。
「おじいちゃーーーーんっ!!わあ、おじいちゃんだあーっ!!」
「ぬ、ぬぅっ。由愛ちゃんや、抱き着くのはやめんかっ。年上を敬わんかっ」
「んー……抱き着きがいある……可愛い……」
「……琴ちゃんや。どうにか出来んか?」
イナリちゃんは縋るように私の方を見てきました。つぶらな瞳が私を捕まえて逃しません。今日も今日とてイナリちゃんは可愛いです。
そうです。
ゆあちーにとってのおじいちゃんこと、イナリちゃんです。本名は金山 米治です。もはや忘れられがちな気がしますが。
当然狐耳と尻尾は表に出せないので、変装セットであるキャスケットと大きなリュックサックを身に纏っています。
なんだかんだ、イナリちゃんのデフォルトになっていますね。時代に即した狐っ娘です。
彼女はゆあちーの猛攻撃を受けて、「しゃーっ」と威嚇していました。まるで猫です。狐だけど。
ですが本気ではないのは一目瞭然です。本気を出したら誰も近寄れなくなっちゃうんですけど。私は、定期的にその殺気を浴びせられています。
「由愛ちゃんやっ!儂を一体何だと思っておるっ。儂はじゃの、64年の人生を生きてきた……」
「分かってる分かってるっ、よしよし」
「ぬ、ぬぅ……じゃから子ども扱いするのは止めんか……んん……んっ……」
イナリちゃんはムスッとした顔で反論していましたが、ゆあちーに頭を撫でられた瞬間に全身が硬直。
ぷるぷると身体を震わせてされるがままとなってしまいました。
どうやらゆあちーの手が一番敏感な部位である耳に当たっているようです。目をきゅっと瞑ってしまいました。可愛い……。
そんな愛くるしいイナリちゃんを見ることが出来て、ゆあちーは満足したようです。
「はー……」と感嘆の声を上げた後、スマホを開きました。
どうやら専用のアプリを開いているようで、冒険者部署間で共有している、業務用ファイルが開かれています。
その中にある「使用実態調査」のファイルを選択。今回の業務に関係するデータを確認していました。
「ん、ダンジョンで待ってる業者さんに言えば、魔法銃を用意してもらえるって」
「そうなんだ。私も使ったことないから、楽しみだな」
「えっ、ことちーも?使う機会無かったの?」
「んー……結構お金掛かるから……」
「貧乏性……」
「う、うるさいな。もーっ、ダンジョン行くよ!」
「あっ、逃げた」
図星を突かれて耳が痛いです。だって「ああこれぐらいお金飛んだんだ……」って気分になるの嫌ですもん!
聞いてくださいよっ。
そりゃあ、魔法銃だって一時期は拘って使用している冒険者も居ましたよ。
流行に逆らったマイナー使いというのは、いつの時代だって存在します。私だってマイナー装備とかはロマンを感じて好きですし。
確かに組み合わせ次第では、マイナー装備でメジャーに渡り合えることも余裕であるので、一切油断できないんですよね。
今回の業務内容は「魔法銃の使用感調査」という部分に集約されます。
ですが私としては、それに加えて「新たな使い方」も見出していきたいと思います。
「それじゃあ行きますよっ。おーっ!」
「ことちー、乗り気だなぁ」
「由愛ちゃんや。放っておくのじゃ、あの阿呆は話を聞かん」
むっ、しれっとイナリちゃんが失礼なことを言ってきました。
一応仕事ですからちゃんとやりますよっ?
にしても、案外珍しい組み合わせかも知れないですね。
業務マニュアル上では、「パーティ内に30レベル以上の冒険者1人以上を結成すること」とされています。今回はゆあちーが40レベルを超えているので、そこのボーダーラインは突破できています。
ですが、高レベルと言えどもゆあちーは高校生です。実質的な責任者は私かイナリちゃんです。
「琴ちゃんや」
「はい?」
「さすがに魔法銃は壊すでないぞ」
「なっ、私を何だと思っているんですか!」
「経費クラッシャーか何かじゃと思っておるが」
「……」
あまりにもひどい扱いだと思います。
琴ちゃんは悲しいです。




