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第152話 大台

「まァよ、とりあえず琴男は俺んところで世話するわ」

「ぬ?儂らの家で面倒を見た方が良いのではないかの?」


 パパがお兄ちゃんを連れて帰ろうとしたところで、イナリちゃんがそう割り入ってきました。



 パパもお兄ちゃんも、私が勝手に言っているだけですけどね。私の呼び名が状況をややこしくしている自覚はあります。えへへ。


 改めて説明しておくと、三上パパは実のパパではありません。

 琴男お兄ちゃんとも血が繋がっている訳ではありません。あ、このメタトロンの身体と、という意味ですよ?

 改めて状況を説明するとややこしくなりますね!!一体誰のせいでしょうか!!


 

 イナリちゃんの提案に対して、パパは苦笑を漏らして首を横に振ります。


「お前らンとこに琴男を置いたら余計ややこしくなるわ」

「……うぬ、それを言われると否定できんの」

「つーか、お風呂嫌いが居るところに預けさせられる訳ねェだろ」

「……ぬ……!」


 パパがそう言葉を返すと、イナリちゃんは尻尾をぴんと伸ばして黙りこくってしまいました。私としても耳が痛いところです。

 私達は揃いに揃って、生活能力が壊滅的なダメ人間連中です。あっ、恵那斗が「私を仲間に入れないでよ」という目でこっちを見てきました。ごめん。


 にしたって、私としてもあんまりパパのところに置いておきたくない理由があるんですよね。


「でも、パパだっていきなり琴男が魔王の力ばーんってなった時に対処できないじゃないですか」

「ばーんってお前……」

「一番分かりやすい表現ですし。パパはもう戦っちゃダメですよ」

「痛いとこ突いて来やがンな、ったくよ……」


 だって事実ですもん。

 パパ、1回危うく自分が死亡診断書を書かれる対象になる所だったんですよ?パパの実の娘さんになんと説明すれば良いのか、琴ちゃんは困ってしまうところでした。


 「始めまして、パパがお世話になりました」なんて挨拶してみてくださいよ。隠し子案件ですよ。


 ……え?私がパパと呼ぶのを辞めればいいだけ?

 ……琴ちゃんは、47歳男性で聴覚が衰えているので分からないですね。んふふ。


 こういう女の子の見た目を利用(悪用)して色々と暴走できるのは楽しいですね!



「あー……ったくよォ……」

 

 しかし、私の予想通りと言いますか。パパは上手く反論することが出来ず、頭をわしゃわしゃと掻きむしってしまいました。

 さて、大人しくお兄ちゃんを渡してもらいましょうか。47歳男性の戸籍を正式に獲得できるかもしれない琴男を利用すれば、合法的にお酒を購入できるかもしれませんし!

 一応法的には「生きてきた年齢」を優先されるはずですので、琴男は若い見た目の47歳男性という称号になるはずです!素晴らしい。ぱちぱちぱち。


 私からすれば、魔王案件よりも攻略すべき問題なんですよ!お酒が買えない問題というのは!

 ……あの、「4年待てば戸籍上20歳になるだろ」というツッコミはナシですよ。そういう問題じゃないんです。

 

 正直、魔王をただ倒すだけなら簡単です。琴男目掛けて“琴ちゃんキャノン”をぶっ放せば終わりですから。

 倫理度外視なら何やっても良いんですよ。

 

 それが出来ないから面倒なんですよ!現実における魔王討伐は想像よりも100倍めんどくさいです。

 優秀な冒険者を集めて、長い旅路を経て、強大な力を覚醒させて、世界の巨悪に立ち向かう……なんて話じゃないんですよ。


 現実の冒険者はただの社会人です。うう。

 魔王と戦って周囲に被害を及ぼすことのない環境を作る必要があります。

 なので、他企業とのアポイントを取ったり、地域への避難勧告まで出す必要があります。もうこの時点でダルいです。


 その上で、魔王を琴男の中から確実に引きずり出すことの出来る方法だって見つけ出さなければいけません。

 更に言えば、完全に魔王を消滅させて安全を確保しないといけないんですよね。


 「魔王討伐の為に経済活動に支障が出てしまう」というのが問題点です。なるべく日常生活に大きな穴を開ける自体は避けないとなんです。もうこの時点で無理難題ですよ。普通にキレそうです。


 そしてメディア対策に魔王討伐後の事務処理に……考えるだけで「魔王討伐辞めようかな」って決意が揺らぐようなことばかりです。

 バーッと思いつく限りでこれだけの課題が上がります。魔王討伐関係ない要素多すぎますね。これが現実です。


 まあ言えば、大型プロジェクトみたいなもんです。


 とりあえず今度、全日本冒険者協会にも情報を共有しなければいけませんからね。

 大人のやり取りは苦手です。琴ちゃんはやりたくないので、基本的にそう言った話はギルドに丸投げしようと思います。


 うーん……、パパのところに預けても問題のない案が無いことはありませんが。正直、それを出すとお兄ちゃんが取られてしまうのであまり言いたくありません。


「な、なあ……ちょっと良いか」


 ですけど無慈悲に、同じ案に辿り着いているであろう琴男がおずおずと手を上げました。

 なんだか、お兄ちゃん……人と関わることに以上にビビっている印象を受けます。私、こんなにコミュ障だったんですね。


「あー……なあ、その……冒険者証あるだろ。俺の身体の中にあるMPがどれくらい溜まってるか……経過を確認していけば良いんじゃないか?それだけでもだいぶ違うだろ」

「ちっ」

「おい、琴。今舌打ちしたか?」

「してないよ。べーっ」

「反抗期かよこいつ」


 あー……だから黙っていたんですよ。考えるふりして、一生答えに辿り着かない感を出すつもりでした。

 お兄ちゃん、妙なところで律義ですね。一体どこで私達は別人になってしまったのでしょう。


 で、ですが私はまだ諦めていません……っ!


「で、でもっ。冒険者証って琴男のはもうないんじゃ」

「じゃあよォ、俺の冒険者証貸すから使え」

「なああああああああ!!」


 パパーーーー!!

 パパが善意で琴男に冒険者証を貸し出してきました。うう、全てが私の悪い方向に噛み合っていきます。

 合法的にお酒を確保できるかもしれない計画がとん挫していきます。47歳戸籍を合法的に振り回せる予定が……。


「お、サンキュ三上」

「お前を琴きゅんとこ行かせたら絶対ロクなことにならないからなァ」

「だろうな。あいつの目を見てみろ、“お酒を買う手段が……”みたいな顔してるぞ」

「俺には分かんねェけどよ……尚更あいつらンとこ行かせられねェな」

「全く同意だ」


 う、目論見までバレてしまいました。

 皆がシラケた目でこっちを見ている気がします。どうしていつもこのような扱いを受けるのでしょうか。うう。

 琴男は薄情です。少しくらい、同じ人格から生み出された存在として慈悲を与えてくれても良いと思うんですよ。こんな可愛い可愛い妹の為にお酒を恵もうという気持ちにはなりませんか?

 なりませんか、そうですか……しゅん。


 私はあきらめきれないので、じっと恨みを込めて琴男を睨みます。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんはお酒を買おうと思わないの?ちょっとくらい”アイテムボックス”に入れてくれても良いんだよ?」

「生活習慣改める良い機会だろ。せっかく健康な肉体になったんだ、リベンジマッチだよ」

「おかしい……別人だ……別人だ……」


 うう、どうしてですか。裏切られた気分です。

 あれですか。

 お兄ちゃんは言えば、「人生やり直し」みたいな感じだからですかっ。


 私が悪いみたい例みたいな言い方は、良くないと思うんですよっ。不本意です。


「ほらよ、琴男。冒険者証貸してやる」

「お。ほんと悪いな」

「まー俺はもう、使う機会のないモンだからよ」

 

 そんなやり取りをしている間に、琴男はパパから冒険者証を受取っていました。出ましたね冒険者版の体組成計。

 “幻惑魔法”の応用によって、疑似的に私達の視界にステータス画面を表示させる文明の機器です。


 状態異常の魔法も使いようによっては、新たな時代を生み出す為の糧です。

 例えば“麻痺魔法”だって、現代医療においては麻酔代わりになったりしますし。こういった新技術は大抵、医療と絡んできますね。


 ただ魔法の構造を充分に理解できていない人物が安易に魔法を使おうとしても、効果が十分に得られないという問題点は残っていますね。やはり魔法が普及した現代でも勉強は必要不可欠です。魔法の効果は学習量に比例します。

 恵那斗の“睡眠魔法 ”における「身体機能の一部を眠らせる」という使い方が一番分かりやすい例ですね。


 ……ほぼクセで解説しちゃってました。そんな気分じゃないのですが。しゅん……。


 そんな魔法技術の利器である冒険者証を手に取った琴男は、例に漏れず合言葉を告げました。


「あー……ステータス・オープン」


 恐らく、琴男の眼前にはステータス画面が表示されているはずです。

 それから琴男は指を空中で滑らせました。恐らく、“ステータス送信”の項目をタップしたのでしょう。


 一応ダンジョン外と言えども、使用者が魔石を使用していれば“幻惑魔法”の付与により他人にステータスを確認させることは出来ます。

 今の琴男は、魔石を使用した状態と同じである為、“幻惑魔法”を付与できるという仕組みですね。


 という訳で、私達にもステータス画面が表示されます。

 あ、名前はパパの名義で表示されちゃったので省略します。


 

Lv:105

HP:1047/1047

MP:1/523

物理攻撃:748

物理防御:935

魔法攻撃:249

魔法防御:875

身体加速:123

 


「……ん?レベル105?」

 

 え?

 え?


 私の今のレベル、24とかですよ。

 

 昔の私、こんなにステータス高かったんですね?“女性化の呪い”に掛かるまで、ロクに自分のステータスも見ていなかったので気付きませんでした。

 その馬鹿みたいに突出したステータスに唖然としたのは私だけではありません。


 

「……なに、これ。大台超えているじゃない」


 恵那斗が茫然とした声音で、ぽつりと呟きます。


 

「……ぬぅ。常軌を逸しておる。琴ちゃんや、お前さん……とんでもない冒険者じゃったんじゃの」


 イナリちゃんも表示されたステータスに対して、困惑を隠せないようです。

 尻尾がぷるぷると揺れています。



 恵那斗とイナリちゃんに関しては終始困惑しっぱなしです。ほんとすみません、こんな兄妹で。

 え?主に私のせいだろって?ぐうの音も出ない正論はやめてください。琴ちゃんは泣いてしまいます。




「とんでもねェな、お前……前にステータス確認した時よりもレベル上がってるじゃねェか」


 人事部ということもあり、冒険者のステータスを確認しなければならない立場にある三上パパも、そう驚嘆とした声を上げていました。


 そんな中で、話題の渦中である琴男は愁いを帯びた表情で、明後日の方向を向きました。

 頬を掻きながら、彼はポツリと呟きます。

 

「……まさかよ、レベル上げが世界の為になるだなんて思わないだろ。だけど、俺にしか出来ないことだからな」


 そう照れくさそうに語る琴男は、何だか眩しく見えました。

 

 なんか、私の知らない内に琴男がめちゃくちゃ立派になっていました。

 私も環境が違えば、目の前の人物みたいになれていたのでしょうか!


 皆から尊敬の目を浴びたいです。

 ちやほやされたいんですよ私だって!私が皆から向けられるのは尊敬どころか冷ややかな視線だけなので!琴ちゃんは悲しいです。きゅう……。


 恵那斗が私の肩をポンと叩きます。


「琴、今から変なことを言うわね」

「恵那斗ぉー……何?」

「琴男を見習いなさい」

「恵那斗ぉ!?!?」


 彼氏が私の肩を持ってくれません。

 どうしてでしょう。


 これでも超火力を持った冒険者なんですけど!

 ほら!ファンタジー作品なら、すごい火力で数多の敵を一掃する凄い冒険者とかいるじゃないですか!

 あんな感じの立ち位置だと思うんですよ私だって!

 

 ……たまにシフトの都合で、園部君とか鈴田君とか、ゆあちーとかとパーティを組んでダンジョン攻略するんですけどね。

 皆口をそろえて言うんですよ。

 「悪役っぽい」って。

 おかしくないですか?

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