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第147話 お兄ちゃん

 さて、遠方へのダンジョン出張も3日目となりました。

 といっても、最終日は直帰するだけです。

 3日目はダンジョン攻略を行う必要は無く、帰ってゆっくりと休んでも良いことにとなっています。


 こういう遠方へのダンジョン攻略の時には、皆で「帰る最中に遊びに行こう」とか「飲みに行こう」みたいな陽キャムーブを繰り広げる冒険者も非常に多いですね。

 まあ私はとりあえず帰って爆睡、という流れが大抵でしたが。孤独な大人は物寂しいものです。


 今回はパパ――三上 健吾の車に乗せて貰う予定となっていました。過去形です。

 私達は車を運転することが出来ないので。イナリちゃんなんて、そもそもアクセルに脚が届きません。絵面は可愛いんですけどね。



 ですが、今回は私は直帰しません。

 


 

 駅前のロータリーで降ろして貰った後、私はウィンドウ越しに声を掛けました。

 

「私は電車で帰ってきます。気をつけてくださいね」


 私は運転手であるパパに声を掛けました。すると、パパは何処か申し訳なさそうにぺこりと会釈してきました。なんですか、ちょっと情けない態度しちゃって。


「あー……まァ、よォ。何かあったら連絡よこせよ」

「大丈夫ですって。少し個人的な用事を済ませてくるだけですから」


 そう簡単な受け答えをした後、続いて後部座席に座っている恵那斗とイナリちゃんに言葉を掛けます。

 2人に対しては、私のこれからの行動について話していません。というよりも、理解の追いつかない可能性が高かったので、説明を省きました。どう行動をとれば良いのか、まで情報が纏まってから伝える予定です。

 なので、当然と言えば当然なんですけど、恵那斗もイナリちゃんも私が降りたことに困惑しています。


 恵那斗は窓を開けて、私の様子を窺うように眉を顰めつつ言葉を掛けてきました。


「琴、どうしてここに残るの?」

「ごめん、恵那斗。今は言えない……というよりも説明が難しい」

「……そう。また教えてくれるのよね」

「うん。少し確認したいことがあるんだ」


 恵那斗に心配掛けてしまったのは少し罪悪感がありますね。ですけど、私にとってはどうしてもこの目で確かめないといけないことだったので。

 特に、私の夫である恵那斗にはこれから起きる状況を、すんなりと受け入れてくれる自信がありません。イナリちゃんだってそうです。


 まあ身も蓋もない理由を言えば……私のフラットな視点で判断したいので、2人が居るとノイズになっちゃうんですよ。

 ある程度周りと思考が解離している自覚はあるので、1人の方が動きやすいです。


 恵那斗の隣に座っていたイナリちゃんはいても経っても居られなかったようです。ひょいっと頭を覗かせたかと思うと、むくれた顔を向けてきました。


「ぬぅ、水くさいではないかっ、琴ちゃんや。昨日から様子がおかしいぞ、儂らは家族のようなもんじゃろっ。何故隠す!」


 ……と、尻尾をぶんぶんさせながら自らの主張を訴えてきます。周りの人に見られてはいけないので、恵那斗は「ちょっと!」と慌てて車内に追いやっていましたが。


 にしても嬉しいことを言ってくれますね。家族、ですか。

 思わず頬が緩んでしまいます。


 

 異災の日に、両親の命は奪われ、孤独の身となった私ですが。

 ”女性化の呪い”によって、いつの間にか私にも家族と呼べる人達が集まっていたんだなあ、ってふと感傷に浸ってしまいました。

 

 名ばかりと言えばそうなんですけど、三上さんは今となってはパパのような存在です。ちょっと中身は残念ですが。

 イナリちゃんだって、おじいちゃんでありながら世話焼きが好きな、ちょっとだけお母さんのような役割にも見えます。狐耳幼女という外見ですが、一周回って似合っています。


 恵那斗は……言うまでもありませんね。ずっと、長く寄り添ってくれた、私の大切なパートナーです。


 いつの間にか、私の周りには色んな人達が集まっていました。

 傍から見ると、随分と不思議な関係で出来ているものだって思います。


 すごく、大切な人達です。


 

 ……だからこそ、この世界に訪れた異変。

 それを確かめに行きたいんですよ。


 例えもう、ベテランに見られないとしても。

 それが、私の仕事ですから。



「じゃあ、行ってきますね」


 そう私はパパの車から離れるように、静かに踵を返しました。


 ----



「……このホテルですね」


 パパは、田中 琴男に対して「駅前のホテルに泊まれ」と言伝したようです。多分、携帯も持ち合わせていないんでしょうね。一応私の”アイテムボックス”の中には、業務用端末も入っていますが……中身を共有しているにもかかわらず、それを取り出さなかったのは最低限空気を読んだからでしょう。

 元、私の思考なのである程度憶測は付けることが出来ます。



 正直「ホテルがいくつもあったらどうしよう」という懸念事項はありましたが、幸いにも駅前のビジネスホテルは1つだけでした。

 正直言って私なら、値段が安かったらラブホテルにでも泊まるんですけどね。案外、おひとり様で泊まれるプランを用意したホテルだって存在するので。

 まあ、現在は入っちゃダメなんですが。法に触れる見た目です。


 一応、琴男の行動パターンなら理解できるので、そこまで視野に入れていましたが……ホテルが1つだけなら探す手間が省けるというものです。


 という訳で、私はホテル前に配置されたベンチへ腰掛けて、ぼーっと黄昏れつつ琴男を待っていました。

 しばらく待ちぼうけを喰らったところで、見覚えしかない外見の人物がホテルから出て行くのが見えます。


 ぼさぼさの癖っ毛を伸ばした、気だるげな雰囲気を纏った10代後半と思われる少年。まるで他人に無関心と言いたげな、陰険なオーラを纏っています。

 なんだか、他人視点で見たら分かりやすいんですけど、私ってこんなに他人を遠ざけるような雰囲気だったんですね。30年越しの気付きです。


 そんな彼はきょろきょろと、まるでどこぞの犯罪者みたいに周囲を伺っていました。


 辺りを見渡している最中、彼と私の視線が交差します。

 

「……」


 琴男の身体がぴたっと硬直しました。

 ですが私は特に悪いことをしている訳ではないので、なるべく穏やかな表情を作って右手を上げました。


「久しぶりだね、琴男。元気してたかな」

「……誰だか知らないな」

「ちょっと、無視はさすがに失礼じゃないかな。こんな美少女が待っているというのに、無視はちょっとないんじゃないかなあ!?」

「うるせぇ何でここに居やがんだ!どっか行けよクソチビが!」

「その口の悪さは誰の影響なのかな!?あっこら逃げるな!!」


 田中 琴男は私を見るなり、まるで化け物でも見たかのように逃げ出そうとしました。なので無理矢理しがみついて引き留めます。

 なんでこんな毛嫌いされてるんですか。心当たりないですよ!……ないですよ?うん。

 同族嫌悪ってやつなんですかね!同族も同族、同一人物ですが!!


 私はこの男からこってりと情報を絞り出さないといけないんですよ!

 逃がしませんよっ。


「お前なんでここに居やがる!ストーカーかっ!?」

「誰が好き好んで琴男のストーカーなんてするのかな、需要ある?」

「……っ、それを言われると……まあー……」

「妙に自尊心が低いところまで再現されてるの、なんかやだなー……」


 うーん。

 他人視点で、過去の自分を見るの……物凄く嫌です。

 人の振り見て我が振り直せ、って言うじゃないですか。男性時代の琴男が情けないリアクションをしているのを見る度、「うわあ……」ってなっちゃうんですよね。

 

 なんというか、蛙化現象?みたいなものでしょうか。いや……まあ立ち位置的に、琴男はおたまじゃくしみたいなもんですけど。


 おたまじゃくし現象ですか、ぷぷっ。

 

 別に自分自身のことが好きだったという訳じゃないんですけど、こうして見ると改善点が分かりやすいですね。

 琴男の立ち振る舞いから、行動の改善点が見えるというのは便利です。


 

 私達がぎゃーすかとホテルの前で言い争っていたものですから、迷惑だったようですね。

 ホテルの中から、どこかやる気のなさげな雰囲気を纏った受付の女性が出てきました。当直明けでいかにも死にそうな顔をしています。目がガンギマリです。

 

「っすう……あー……彼女さんとのやりとりならよそでやって欲しいんすけどぉー……」

「はっ!?誰がこんなチビと彼女って……!!」

「そういう見せつけるの良いんでぇー……お願いしますねぇ」

「~~っ!っぐ……!!」


 そう一方的に言い放った後、受付の女性はホテルへと戻っていきました。当直明けにすみません。

 お疲れ様です。


 ホテル受付の女性の後ろ姿を見送った琴男は、しばらく硬直していましたが観念したようですね。

 ため息をついた後、私へと向き直りました。


「まあ、やっぱお前なら来るよな」

「当たり前だよ。君には色々と吐いてもらわないと」

「ずいぶんと陰湿な妹を持ったもんだ」

「お兄ちゃんほどロクでもない人格じゃないよ」


 お互い、皮肉を交えつつも“妹”なり“お兄ちゃん”なりと、また余計な呼び方を増やしていきます。

 外見的な立ち位置で言えば、この呼び方がしっくりきますね。


 しばらく私と琴男は睨み合っていました。

 しかし、ほぼ同時に観念したようにため息をつきます。こんなことまでタイミングぴったりなのは嫌です。

 本当に兄妹みたいじゃないですか。このやろう。


「……とりあえず、長話になるんだろ。そこで良いか」


 と、琴男が提示したのはチェーンの牛丼店です。


 良い訳ないでしょうが!

 ……という心のツッコミが全力であふれ出てきたので、私は琴男へと反論します。


「お兄ちゃん、女の子を連れて牛丼店に行くって?さすがにそれはナンセンスだよ、ナンセンス」

「はあっ!?お前ワガママだな!じゃあどこが良いんだよ」

「ほら、遠くにカフェ見えるでしょ。そこが良いかな」

「カフェで腹は膨らまねぇだろ。やっぱがつんと肉だって」

「うーわっ、センスないなー……」

「なんかお前に言われるとすげぇ腹立つ……」


 なんか、本当に駄目ですねこのお兄ちゃん。

 こんなのと同一人物って言われるのは非常にムカつきます。


 なんか顔見てると腹が立ってきました。

 という訳で何の脈絡もなく蹴り上げます。 


「えいっ」

「おわぁっ、お前何すんだっ!」


 若干八つ当たり気味に琴ちゃんキック(つまり金的)を仕掛けると、琴男は目を丸くして後ろに飛びました。ちっ避けられたか。

 なんかその様子が情けなくて面白かったので、「ぷっ」と吹き出してしまいました。


 やっぱお兄ちゃんリアクション芸人のセンスあるよ。

 

「なんかムカついたから」

「お前それマジで止めろ……怖いわ」

「なんで同一人物にまで怖いって言われなきゃならないの。私悪いことしてないのに」

「……なんで、こうも中身が変わってしまったんだろうな」


 なんで琴男にまでこんなこと言われないといけないんでしょう。琴ちゃんは不本意です。

 ちょーっと“女性化の呪い”に掛かってから、女性としての体験を経ただけなのに。

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― 新着の感想 ―
人格変わりスギィと思ってたけど、メタトロン(少女)の体に琴男の記憶をコピーしたと考えると思考とかがクソガキになるのも納得。
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