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第144話 【おまけ】サイコパス診断

「ねー!皆でサイコパス診断やらない?」


 イナリちゃん宅へと遊びに来たゆあちーは、開口一番にそんなことを言いました。

 あまりにも突拍子もない提案なものですから、皆して首を傾げます。や、まあ私は存在自体、何となく知っていますが。


「ふむ?サイコパス診断……とはなんじゃ?」


 イナリちゃんの質問に対し、ゆあちーは得意げに胸を反らして答えます。

 したり顔のゆあちーも可愛いですね。相も変わらず私達に元気を振りまいてくれます。

 

「おじいちゃん、よくぞ聞いてくれましたっ。サイコパスかどうか試す、ってやつだよ!最近ね、クラスの皆とやってみて楽しかったから、どうかなーって思ったの!」

「ほう!そのようなものがあるのかっ」

「うんうん、私がサイトから拾ってお題出すから、皆で回答してみてねっ」


 早速ゆあちーは乗り気ですね。

 こういう診断系は正直信じていないんですが、どうせですしやってみましょう。


 ……私はサイコパスじゃないって証明できるかもしれないですし!

 園部君と言い鈴田君と言い、皆して私のことを物騒な冒険者扱いしすぎなんですよ。


 こういうところで健全な答えを出して、名誉を少しでも挽回させていきましょう。


 ですが、ゆあちーが設問を出す前に、恵那斗が軽く意見を出してきました。


「土屋さん」

「ん、どうしたの恵那斗さん」

「サイコパス診断というのは面白そうだし、やってもいいんだけど。琴の回答は、一番最後に回す方が良いかもしれないわ」

「ん?一番最後ってどういうことなの?」

「サイコパスならこう答える、って回答があるわよね?琴の回答はその後に回しましょう」


 ちょっと、恵那斗。何という提案をするんですかっ。

 私がまるで本物のサイコパスみたいな扱いはやめてくれませんかっ。

 琴ちゃんは不本意です。


「恵那斗ぉー、私を何だと思っているんだよー……」

「大体、琴のことなら理解しているもの。この方が正しいと思うわ」

「むぅ……納得がいかないなぁ……」

「まあまあ。この順番で間違っていないはずよ」

「うーん……」


 やっぱり納得がいきませんが、恵那斗のことですから何らかの考えがあるのでしょう。

 とりあえず彼氏の言うことですし、私は甘んじてそれを受け入れることにします。


 順番が決まったところで、ゆあちーはイナリちゃんを招き寄せていました。


「おじいちゃんはこっちー」

「ぬぅ?儂は自分の席があるぞ」


 イナリちゃんは首を傾げながら、最近購入した座高が低めの椅子に腰かけようとしました。男性時の頃の椅子だと、座高が高すぎて上手く座れないので……。この前も転びかけていましたし、おじいちゃんの介護は大事です。


「だめーっ」


 ですがゆあちーは、そんなイナリちゃんを引き留めて抱き寄せました。


「ぬぅ、由愛ちゃんや!何をするんじゃっ、ええい離せっ」

「おじいちゃんは私のところに座ろっか」

「のぅ、やめんか!儂は自分の席に座るんじゃっ、ぬぬぬ……!」

 

 ゆあちーは半ば強制的にイナリちゃんを持ち上げたかと思うと、自身の膝の上に座らせました。

 イナリちゃんは不服そうにしていましたが、結局ゆあちーには逆らえなかったようですね。ムスッとした顔のまま、ゆあちーの抱き枕と化しました。


 傍から見たら、姉妹に見えないこともありません。

 

「儂を何じゃと思っておるんじゃ。由愛ちゃんは」

「んー……やっぱおじいちゃん可愛いな……永遠にモフモフできる……」

「言っておくが儂は64歳じゃぞ。お主よりも長生きしておるんじゃ、じゃから離せっ」

「だめー。おじいちゃんは私の膝に座っていればいいのっ」

「ぬぅ……琴ちゃん、恵那斗君、助けてくれんか……」


 イナリちゃんの尻尾がしおれてしまいました。これまで孫のように見ていたゆあちーから、好きなようにされるのはイナリちゃんのプライドが許さないのでしょうね。

 どちらかというと、自分の方が世話を焼きたいみたいです。


 ですけどごめんなさい。ゆあちーに抱き枕にされているイナリちゃんという図が、正直凄くしっくりきます。

 とりあえずイナリちゃんの助けを懇願する声を、田中夫妻はスルーすることに決めました。


 私達はどちらかというとゆあちーの味方です。

 またイナリちゃんがしょぼくれちゃいました。可愛い。


 そんなイナリちゃんを抱きかかえたまま、ゆあちーはスマホを取り出しました。イナリちゃんの頭の上にスマホを乗せられています。ちょっと絵面が面白いですね。

 そのまま、ゆあちーはスマホに表示されているであろうサイコパス診断の設問を読んでいきます。


 


 ----


 あるマンションのバルコニーにいた女性は、外で男が人を殺すのを目撃してしまう。

 それに気が付いた男はこちらを向き、こちらを指差して動かしている。

 男の行動が意味するものは?


 ----


 

 ……なるほど。

 私もある程度の答えを考えましたが、一番最後にされちゃったので皆の回答を聞いていきましょう。


 まずは恵那斗が首を傾げながら答えました。


「えっと……普通に、“次はお前だ”みたいな感じじゃないかしら?」


 うん、まずはそれが思いつきますよね。シンプルな答えです。

 ゆあちーも「うんうん」と納得したように頷いていました。


 確かに、べたに考えるのなら次のターゲットを示している、と考えるのが適切かもしれないです。


 そして、恵那斗の次にイナリちゃんが回答します。


「ぬ?“お前は生き別れのお姉さんじゃないか!”とかかのう?」

「おじいちゃん、大喜利じゃないよこれ」

「儂は真面目に答えとるわいっ、失礼じゃぞっ」


 ……イナリちゃんはぶっ飛んだ回答をしてきましたね。

 いや、本当に生き別れのお姉さんだとして、遠くから見えるの怖すぎません?どこの部族ですか。

 

 それはそれで、サイコパスとは違う怖さがある気がします。

 

 ちなみに大喜利扱いされて不服だったのか、イナリちゃんは尻尾をブンブンと振っていました。ゆあちーはほっぺに尻尾攻撃を喰らってくすぐったそうにしていましたが。


 

 ……ここで、本来であれば私の回答を挟むはずですが。

 恵那斗の方針により、まずはサイト上に表示されている“サイコパスの答え”を教えてもらうことにしましょう。


 ゆあちーはスマホを見ながら、嬉しそうに答えを出しました。

 サイコパス基準だとどんな回答になるんでしょう。気になりますね。

 

「えっとねー、このサイトだとね。“マンションの階数を数えている”ってのが正解みたい!」

「……ん?」


 あれ?それがサイコパスの回答なのですか?

 なんというか、納得がいきませんね。


 思ったよりも人間みのある答えでした。


 私のリアクションに気付かなかったゆあちーは、そのままサイトに書いてある内容を伝えていきます。


「えっとね。殺人を犯しても冷静さを欠かさず、今から殺しに行く為に階数を数える……ってのがサイコパスの回答みたい」

「……んー……」

「なんでことちーは納得してなさそうな顔なの?」


 お、ようやく私のリアクションに気付いてくれましたね。

 なんというか、琴ちゃんは納得がいっていないです。


 階数を数えている、というのが私はしっくりこないんですよね。

 正直言って、あると思います。“その先”が。

 

 ゆあちーは司会役としてそんな私へと話を促してきました。

 

「じゃあ、ことちーはどう思う?」

「私はね、こうかな」


 催促されたので、私の答えを提示することにしましょう。

 まず、私は。



「……え?私?」

「……」

 


 ゆあちーを静かに指差しました。

 あの、人に指をさしてはいけないとかそういう話は無しでお願いしますね。


 私の意見を伝えるのに大事な情報なので。


 無言で指を差されたゆあちーは「えっと」とか「あー……」とか、落ち着かなくそわそわとしています。

 そんなリアクションを一通り見たところで、私は指を下ろしました。


「ゆあちー。指を差されてどう思った?」

「ん、えっとね。“なんか私悪いことしたかな”とか“私変なこと言ったかな”とか思っちゃったな……それで、今の行動にどんな意味があるの?」

「え、ないけど」

「え?」


 ゆあちーが怪訝な顔をこちらに向けてきました。微かに怯えが滲んでいる気がしないでもないです。

 そのリアクションこそが私が望んでいたものです。


 つまり、琴ちゃんの回答はこうですよっ。


「あの、私は特に意味があって指を差したわけじゃないんだ」

「ことちー……え、どういうこと?意味が無いって……」

「私の目的はね……“相手に意味を考えさせる”こと、そのものなんだ。別にそこに深い意味はないよ」

「……へ?」


 私の回答に、ゆあちーは目を丸くして黙ってしまいました。その表情の奥底には、得体の知れないものに対する恐怖が混じっている気がします。

 “意味がないということが答え”だなんて言われても、正直怖いですよね。


 ですが、虚無を考えさせることが答えだとしたらどうでしょうか。


「だって、ゆあちー。冷静に考えてみて?人を殺した男が、相手のことを指差すなんてすると思う?今から殺しに行く、なんてわざわざ伝えるような動きすると思う?」

「……えっと……逃げられたら殺せない、もんね……?」

「そう。逃げられたら殺せないもん。だからまず、この問いは前提から違うよ。指を差した“意図”を考えさせる……それこそが、サイコパスの狙いだね」

「……う、うん?」

「もしかしたら、狙われていると気づいて逃げるかもしれない。部屋に引きこもるかもしれない……と、相手がどう動くか、まるでシミュレーションゲームのように扱うこと自体が狙い。それが私の答えかな」

「……」


 ……と、私の回答を言ったまでは良かったんです。

 

「……のぅ、琴ちゃんを最後に回したのは恵那斗君のファインプレーじゃの……」

 

 イナリちゃんがしれっとそんなことを言いました。

 あ、あれ?

 周りを見渡せば、皆が微妙な顔して私の顔を見ています。


 ゆあちーに至っては「化け物を見た」みたいな顔をしてしまっています。

 私そんな変な回答しましたかね!?


 だって、だって!

 琴ちゃんは納得がいかないです、そんな変な回答してないもん!

 サイコパスの考えに沿って回答するだけでしょっ、だからその考えに準えただけですもん。琴ちゃんは悪くないです。


「……私、変なこと言った?」


 一応、確認も兼ねてそう問いかけてみると、皆力強く頷いちゃいました。ちょっと!


「琴」

「恵那斗ぉ……皆が私をいじめるよぅー……」

「サイトの答えを上回るのはやめなさい?」

「なんで恵那斗までそんなこと言うのかな!?」

 

 うう、私に味方はいないのでしょうか。

 私間違ったこと言っていません。


 だってですよっ、未知は怖いんですよ。

 恐怖を与えたいなら、意図的に未知を押し付ければいいんです。理にかなった答えだと思うんですけど、あのっ!!




 ちなみに、その日から「琴にサイコパス診断はさせちゃダメ」と暗黙の了解が出来てしまいました。

 酷いと思いませんか。

 グレるぞ。おらおらっ。

 うーんこれはサイ琴パス。



 ついでに、没ver.も掲載します。


【題】

Q. あなたは夫の葬式に列席していた男性に一目ぼれし、その後息子を殺害しました。何故?


サイコパスの回答:また会えると思ったから。


サイ琴パスの回答:

「えっ?独身未婚女性だって見られたかったんじゃないですか?だって、遺族として見られると変に気を遣われるじゃないですか。じゃあ、子供もいなかったことにしちゃって、未婚だって見られた方が可能性ありそうじゃないです?……あの、なんですか、私間違ったこと言っていますか?」

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