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第143話 ゴブリンショット

「琴、“アイテムボックス”はおもちゃじゃないの。遊ぶのはやめなさい」

「んー……待って。あと少しだけ……」

「“アイテムボックス”をこんな使い方する冒険者なんて、琴以外に居ないわよ……」


 “アイテムボックス”の格納機能を消去し、アイデンティティを完全に奪い去ったのは良かったんですよ。いや、良くは無いんですけど。


 同じ“アイテムボックス”でも機能が全然違うので、とりあえず“琴ちゃんトランポリン”として名前を統一しておきます。

 そういえば前に命名してましたね。ちゃんと戦闘で扱ったことが無いので忘れていました。えへへ。


 とりあえず攻略の合間を縫ってゴブリンの死骸を“琴ちゃんトランポリン”に落としたりしているのですが……なんというか、面白みに欠けるんですよね。

 ゴブリンの死骸の射出速度が、ほとんど落下速度とイコールになるんですよ。なので正直、威力としてはゴミです。


「うーん……開拓の余地がありそうな気がするんだけどなー……もう少し跳ねさせたり……私も“アイテムボックス”に入ったり……」


 ブツブツと思考を巡らせながら、どうにかして“琴ちゃんトランポリン”の実用性を見出そうとしていたところでした。


「仕事に集中せんかっ」

「ひゃっ!」


 イナリちゃんは唐突に、勢いよく耳元で両手を叩いてきました。

 両手に圧縮された空気が大きな音を立てて、私の耳元で破裂します。


 びっくりして飛び上がった先には、呆れた表情を浮かべていたイナリちゃんが居ました。


「全く、少しの油断が生死を左右するというのにお前さんは……一体何をしておるんじゃ」

「す、すみませんっ……」

「ほれ、お前さんが一番レベルが高いんじゃからしゃんとせぇっ」


 イナリちゃんはもう一度私の背中をぽんぽんと叩いて、改めて注意を促しました。


 ……ん?

 ちょっと待ってください。


 両手を叩く、ですか。


「琴?」


 何か感じ取ったのでしょう。

 恵那斗は不思議そうに私へと声をかけてきました。


 ちょうどよかったです。

 恵那斗にも聞いて欲しかったのでっ。

 

「恵那斗、私気付いちゃったかもしれない」

「へ?」

「“アイテムボックス”の有用な使い方」

「……今の流れのどこに気付く要素があったのよ」

「んふっ。ありがとうございますっ、イナリちゃん」

「……イナリちゃん。琴にヒントを与えちゃったみたいね……」


 恵那斗は嫌な予感を感じ取ったようです。表情が引きつっていました。

 ふふふっ、まあ期待していてくださいよっ。


 天才冒険者、琴ちゃんの新たな“アイテムボックス”の使い方を見せてあげましょうっ!


「琴、お願いだから普通に戦ってよ?」

「恵那斗、安心して!ちゃんと実用性あるはずだから!」

「大人しく“炎弾”を使ってくれないかしら!?」


 恵那斗は必死に懇願してきますが、私としては「見てほしい」の気持ちでいっぱいです!

 イナリちゃんがヒントを与えてくれたんです。


 そうなんです。両手を勢いよく叩けば空気が圧縮されて、風が生み出されるんですよ。

 つまりそれは、「空気が飛ぶ」とも表現できますよね!?


 同じ原理です。

 “アイテムボックス”で、ゴブリンの死骸を叩けばいいんですよっ!


「よしっ、だいたいの考えは纏まりましたねっ」


 これは実践せずにはいられません。

 レベルが上がって、MPだって潤沢になっているので、“アイテムボックス”は使い放題ですっ!これは琴ちゃんの特権ですよっ!


「おいでっ、魔物どもっ!琴ちゃん魔法の餌食になりやがれーっ!!」


 私の背後で恵那斗とイナリちゃんが同時にため息をついたのが聞こえました。

 ちょっと。

 

「日に日に琴が幼くなっていくのだけれど……」

「三上のありがたみを今になって感じるのぅ……」


 皆して失礼です。

 ちゃんとギルドに貢献してるんだから良いじゃないですか。けち。

 私が満足するまでもう少し付き合ってください。


 ----


「琴。スケルトンを見つけたわよ」


 先導してくれた恵那斗は、私へとそう教えてくれました。

 なんだかんだ私の実験に付き合ってくれる恵那斗は本当に良い彼氏ですね。そういうところ大好きですよ?


「ありがとっ、恵那斗。好きっ」

「っ~……も、もうっ。不意打ちは止めなさいっ」

「んふふっ」


 “好き”と伝えた瞬間に恵那斗の顔が真っ赤になっちゃいました。恥ずかしさを隠す為か、左腕で口元を覆っています。分かりやすくていいですねっ。


 ところで……スケルトンですか。ちょうど良さそうですね。


 

 スケルトンとはその名の通り、骨だけで動く魔物のことです。

 体つきは私達の人間に近いですね。動く骨格標本に見えないこともないです。夜の学校に居そう。

 

 スケルトンの全身に纏わせた魔素そのものが、身体活動のエネルギー源です。白骨の身体なのですが、よく見ると白銀に煌めいているんですよね。

 私の得意技である“琴ちゃんブースト”と同じ原理です。

 全身に高濃度の魔素を纏わせることによって、スムーズな活動を行えるようにしているんですね。

 

 まあ、筋肉も腱も存在しないスケルトンですので。実質高濃度の魔素が筋肉代わりです。

 メカニズムで紐解いていくと、少しだけ得体のしれない化け物感が薄れますね。


 やっぱり骨しかない魔物に関しては「骨同士が擦れて摩耗しないのか?」という疑問が湧いてしまうので。昔、私も徹底的に調べました。


 核を破壊するとまとわりつく魔素も霧散してしまうという問題もあり、生け捕りにして調査した記憶があります。大変苦労しましたね。


 実際魔素で骨をカバーしていないと、摩耗して削れそうです。活動する度に摩耗していくスケルトンもそれはそれで面白そうですが。




 そんなスケルトンですが、斬撃系の攻撃では効き目が薄いです。骨って案外丈夫なんですよね。皆もカルシウムは取ろうね。

 しかも魔素によって骨を強化しているので、ちょっとやそこらの斬撃では効き目が薄いです。


 恵那斗もイナリちゃんも、斬撃系の武器を持っているのでスケルトン相手では非常に相性が悪い。

 そんな時こそ琴ちゃんの新作魔法の出番ですねっ。



 さて。木陰に潜む形でくつろいでいるのは、1体のスケルトンです。

 周囲を見渡しては、静かに体を休めていますね。どうやら今は1体だけのようです。


 ゴブリン程ではありませんが、スケルトンもそれなりに集団行動を好む魔物です。なのですが、個体によっては単独行動を好んだりと、個体差は結構激しいですね。



 ……やっぱり、人間の死体が取り込まれていることも関係しているのでしょうか。

 何気なく倒していましたけど、特殊個体の件以降から見る目が変わってしまいました。



 まあそれはそれとして倒しますが。


 

「出ておいでっ、“アイテムボックス”!」


 今回は特別に5つの“アイテムボックス”を発動させました。少し豪勢ですね。

 

 まず、1つはゴブリンの死骸射出用です。なので当然ですが、これには“排出”の機能を付属させています。

 ですが、他の4つは全ての機能を取り除いた“アイテムボックス”。つまり、ただのトランポリンとしての機能しか備わっていません。


 大まかな配置としては、射出用の“アイテムボックス”を4つの“琴ちゃんトランポリン”で囲いました。

 図として分かりやすい例えで言えば、テレビで使われるような大型カメラとか、舞台照明みたいな形ですね。

大砲みたいで物騒な構造になっています。


 早速実験……と言いたいところですが。


「……あちゃー……動き始めちゃった……」


 スケルトンは休憩を終えたようです。ぐっと大きく背筋を伸ばしたかと思うと、立ち上がって再び辺りの警戒を始めました。

 まるで仕事休憩を終えたおじさんみたいです。私もおじさんと言えばおじさんなんですけどね。実年齢。


 うーん、動き出してはさすがに狙いは定めづらいですね。

 仕方がありません。


 こういう時に1つの方法に執着しないというのも、私なりの流儀です。発動自体は何回でも出来るので、違う機会に持ち込みましょう。


 ……と、諦めようかと思っていたのですが。


「琴ちゃんの好奇心を満たさねば、業務が進まないからのぅ。恵那斗君、手伝ってくれるかのぅ!」

「……ええ!」


 私は何も言っていないのですが、イナリちゃんと恵那斗が物陰から身を躍らせました。颯爽と大地を蹴り上げ、ぐんぐんと加速していきます。


「……!」


 そんな2人の接敵に気付いたスケルトンは、全身で驚きを表現しています。身体をこわばらせながらも、その右手にはしっかりとロングソードが握られていました。


 スケルトンには声帯が備わっていないので、声を出すことは出来ません。

 その代わりにガシャガシャと骨同士がぶつかる音を奏でながら、まずはイナリちゃんを迎撃しようとします。


 右手に持ったロングソードを構え、上段からイナリちゃんを叩き割ろうとしてきました。

 ですが、当然イナリちゃんがそれを予想できないはずないですよね。


「安直な攻撃よのぅ」


 イナリちゃんは素早くステップを踏んだかと思うと、最小限の動きだけでスケルトンが振り下ろす斬撃の軌道から逸れました。掠めた斬撃が尻尾の毛を切り裂きます。


「そらっ」


 ひらりと舞うふわふわの毛の合間を駆け抜けつつ、イナリちゃんは小太刀を振るいます。


 その小太刀には“治癒魔法”が付属されていました。


「ほれ、武器など没収じゃ」

「——!!」


 “治癒魔法”を付属した斬撃は、スケルトンの右腕を捉えました。

 イナリちゃんは右腕目掛けて斬り払ったかと思うと、早々に離脱。距離を取りつつ、スケルトンをじっと観察します。


 その間にも、スケルトンの右手を中心として“治癒魔法”は伝播していきます。


 イナリちゃん……というか、金山 米治さんは以前。

 魔法で構成した疑似細胞を正常な細胞にねじ込むことによって、細胞間で自己破壊が行われる……って話をしていました。

 ただ、意図した場所に“治癒魔法”を付与すること自体、高度な技術なので、実質イナリちゃん専用スキルとなっていますね。


 スケルトンはそもそも肉体が無いのに“治癒魔法”は効かないのではないか、という疑問が湧くと思います。

 ですが“治癒魔法”の恐ろしいところはそこで、存在しない肉体をも強制的に再現しようとするんですよね。

 つまり、何が起きるかというと。


 骨の中に無理やり細胞を作り出そうとするので、自壊していくんですよ。


「——……!」


 からん、という金属が地面を叩く音と同時に、スケルトンの右腕が地面にたたきつけられました。

 イナリちゃんの“治癒魔法”を纏った斬撃によって、スケルトンの右腕が強制的に自壊。接続部が破壊されたようです。


 腕と得物を同時に失ったスケルトンは、困惑した様子で硬直してしまいました。

 その隙を狙うように、恵那斗はスケルトンの核——つまり、心臓部目掛けて左手をかざします。


「悪いわね、琴の実験に付き合ってもらうわ。おやすみ」


 そう告げると共に“睡眠魔法”を付与。やがて、スケルトンの全身が脱力し、がしゃりと地面に座り込んでしまいました。

 なんというか、再会した時以来の真っ当な“睡眠魔法”の使い方という気がします。いつもがおかしいんですけどね。


 さて、2人がお膳立てしてくれましたもん。

 私としては是非とも琴ちゃん魔法の新規開拓を行わないといけません。


 という訳でちょっとだけカッコつけてみたいと思います。

 長ったらしい詠唱とか不要なんですけどね。こう、雰囲気で。


 というか無詠唱で使えるんですけど。


「出でよ我が魂の残滓っ。死して尚、その力を我の為に使うが良いっ!」

「琴は何を言っているのかしら」

「今良いところだから邪魔しないでっ!」


 恵那斗が冷静にツッコミを入れてきました。

 ちょっと空気感を壊さないでくださいっ。


 私のイメージとしてはネクロマンサーです。今、琴ちゃんはゴブリンの死骸に更なる有効活用の方法を見出しますよっ!!


 いっけぇ、琴ちゃん魔法!第……何弾だろう?6くらいかな?まあいいや。

 とりあえずぶっ放します。


「いっけぇーーーーっ!!“ゴブリンショット”!!」


 あっ、イナリちゃんと恵那斗が同時に吹き出しました。良いリアクションを貰えたので私の勝ちです。


 まず、排出機能のみ残した“アイテムボックス”からゴブリンを取り出します。すぽーんっと産卵するかのように、“アイテムボックス”内からゴブリンの死骸が飛び出ました。

 

 次にそのゴブリンの死骸は、四方に囲まれた“アイテムボックス”によって圧縮。全身の筋肉や骨を軋ませながらも、圧力を高めていきます。

 最後に、“アイテムボックス”によって圧迫されたゴブリンの弾丸が勢いよく射出されました。その速度は弾丸にも劣りません。


 大砲の如く襲い掛かったゴブリン弾丸は瞬く間にスケルトンへと着弾。


「ぬおっ——!?」

「ちょっと、琴——!!」


 イナリちゃんと恵那斗の困惑交じりの悲鳴が響きました。

 思った以上にとんでもない塊をぶっ飛ばしたので、ドン引きされましたね。

 

 スケルトンの脆弱な身体では、そのインパクトには耐えられません。

 まず、胸骨付近にゴブリン弾丸が着弾したことによって、大きく骨がめりこみました。割れたひびは肋骨を経由する形で頭部、抹消へと伝播。やがて全身に大きな亀裂を生み出します。

 ボロボロと零れた骨の欠片が、如実にスケルトンの絶命を情報として伝達します。


 轟音と土煙が、辺り一帯に舞い上がりました。

 威力としてはまあまあです。“琴ちゃんキャノン”がおかしいだけですが。


 なるほど、これは想像以上でしたね。

 “アイテムボックス”に圧迫され、団子のような形になったゴブリンをどかします。

 下から出てきたのは押しつぶされて、骨の残骸と化したスケルトンでした。一応、魔石は無事でした。


 私はそれを取り出しつつ、あらゆる角度から魔石を観察します。

 一応、破損することもなく残っていました。


「……うん。“ゴブリンショット”……結構、有用かもしれませんねっ!」


 想像以上の成果を得られたので、琴ちゃんは満足です。

 ですが、そんな私の肩を恵那斗はぽんと叩いてきました。


「琴」

「ん?どうしたの、恵那斗」

「その技、土屋さんの前で使っちゃダメよ。というか、基本的に使うのは止めなさい」

「えーっ!なんで?」

「さすがに物騒すぎるわ」

「うー……」


 ごもっともすぎる理由で使用を制限されました。

 せっかく有用な使い方を思いついたのに、残念です。ぶーっ。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 スケルトンは魔素をコーティングして磨耗を防ぎながらスムーズな動きを、ガンダ○は間接等の駆動部分にマグネットコーティングを施して駆動ロスを減らしてスムーズな動きを……つまりこの世界…
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