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第14話 代理メンバー

 持論ですが、私は「娯楽は必要から生まれる」と思っています。

 イラストは、そもそも「部落内の情報伝達ツール」としての側面から生まれました。狩猟対象を共有する為の絵画が、現代でも残っているらしいですね。

 小説だって、そもそもは文章です。自分の言葉を記録として残し、他者へ伝える方法として発展してきたものです。

 

 そして、昨今の娯楽においては”ダンジョン配信”という物が賑わいを見せています。

 はい。そうです。


 ”ダンジョン配信”も元々は必要から生まれたものだったんですね。


 これを語るには、世界各地にダンジョンが形成された時代——30年ほど前まで遡らなければなりません。


 そもそも魔素という概念が発見されたのは、ダンジョンが世界各地を侵食した”異災”から一年の月日が経過した後です。

 では冒険者と言う職業が発展するまで、どのようにダンジョン内を調査していたのかというとですね。


『今、私達は魔窟内に来ています。ここは現実でしょうか?ゲームの世界が今、私達の目の前に広がっています!』

 リポーターが命を賭して、カメラマンと共にダンジョン内の情報を伝達していました。

 得体の知れないダンジョンと言う存在を調査する為。ありとあらゆる人材が、ダンジョン内に送られたんですね。

 自衛隊や、警察と言った、戦闘能力を含有した人材に加え、報道機関までもが一丸となって関わりました。


 異災当初こそ、カメラマンも共に潜入していました。

 しかしカメラマンが魔物の凶刃に掛かるという事例が多発したことから、やむを得ずドローンが使用されるようになります。

 当時のドローンでは画質が大幅に落ちることから、報道機関は使用することを忌避していたのですが……人の命には代えられませんでした。

 

 リポーターがダンジョンに潜入し、その光景について生中継を実施。

 当然未知の恐怖に対し、世間の人々は配信を食い入るように見ていました。


 すると日を追うごとに、配信におけるコメントが意味を持ち始めます。

 

[背後から魔物が来てます!気付いて]

[弓を構えたゴブリン?がいます!]

 ある時は魔物の情報を伝達する、報告班として。

 

[左奥の岩壁!そこに剣落ちてますよ]

[ゴブリンが袋を漁ってます。何かしてくるかも!]

 ある時は困難を打開する、アドバイザーとして。

 

 やがて人々は、ダンジョンという未知の存在を越える為に、配信を介して心を一つにしていったのです。


 ところで”言葉には魔力が宿る”と言われていますね。

 

 ただの比喩表現に過ぎなかったはずのものが、いつしか本当に魔力を生み出すようになっていました。

 本当に、言葉には魔力が宿っていたんですね。

 

『皆さん、力を貸してください。応援してください。今、私は希望になります』

 

 そんな中。ある一人の配信者が、沢山の人々の言葉を受けて力を宿しました。

 

 それは、手から炎を放つスキルでした。

 それは、自身の身長をゆうに超える高さまで跳躍するスキルでした。

 それは、体全体に稲妻を纏うスキルでした。

 それは——。


 現在では”スキル”と呼ばれる力の根源は、配信から始まったものです。当時は”スパチャブースト”などと呼ばれていました。

 配信を介して得たスパチャを対価として発現するスキル、だったからですね。魔素ではなく、金銭が当時の代償でした。

 その”スパチャブースト”と呼ばれる力を駆使して、配信者は強大な魔物を打ち滅ぼす……それが、私達にとっては希望の糧でした。


 今でこそ魔素や魔石に対する調査が進み、ダンジョン攻略に際しては冒険者が台頭しています。

 ですが最初に、ダンジョンという脅威に対して希望を見出したのは、配信者だったんですね。


 

 どうしてこのような話をしたか、ですって?

 

 ”配信”が世間にとって、大きな意味を持つと同時にですね。

 ダンジョン攻略に適した、ドローン開発も活発になったんですね。

 ただ画質を向上させるだけに終わりませんでした。配信者の行動をサポートする、明確に”配信ナビゲーター”という役割が求められるようになりました。


 手榴弾を落とす、物資を携帯する、と言った軍事ドローンから始まり。

 今でこそ私達の生活にもなじみ深い”魔石”が発掘されてからは、よりファンタジー要素の深いドローンが作られるようになりました。

 

 伸ばした銃口から、魔弾を発射する”魔弾式ドローン”。

 即座に対峙した魔物の情報を分析し、配信者に情報を伝達する”解析式ドローン”。

 

 ……など、多種多様なドローンが各企業から開発され、配信者、そして冒険者ギルドに支給されていきました。


 今でこそ、ダンジョン攻略に対するノウハウが蓄積したことから”ダンジョン配信”という文化は娯楽に落ち着きましたが。

 冒険者ギルドの中では、今でもダンジョン攻略用のドローンが活用されています。


 ----


 鈴田君と、彼の恋人である前田さんと共に、無事部屋の掃除を終えました。

 彼女の前で”アイテムボックス”を顕現させるのは色々とまずいので、大人しく自分の力で掃除をしました。褒めてください。

 そして無事に室内の掃除を終え、その日は解散することにしたのですが。


「琴ちゃん、1人で寂しくない?いつでも頼ってね!」

 そう言って、前田さんは自らの連絡先を教えてくれました。私は自分の登録名を「田中 琴男」にしたままだったので、登録前に慌てて「男」の文字を消したのは内緒です。

 前田さんは本当に、心優しい女性だと思います。

 ですが私の中身は40代中年男性なので、嬉しさよりも「彼女を騙している」という罪悪感が込み上げてくるんですよね。意図して騙している訳ではないのですが……。

 見た目が与える印象って、想像以上に大きいんだなあ。

 ”女性化の呪い”が与える効果の恐ろしさが、日に日に伝わっていく気分です。


 ……さて、そんな色々な気付きを得た休日も終わりまして。

 休日明けの冒険者業に戻ります。本業ですね。

 

 私は今日も、冒険者ギルドに顔を出しました。

 しかし冒険者ギルドと言っても、ここは日本です。扱いはほとんど一般企業と変わりません。ビル街の一角を借りる形で、冒険者ギルドも配置されています。

 私はいつものようにカッターシャツとパンツスーツに身を包み、冒険者部署に顔を出しました。


「おはようございます」

「あっ、おはようございます」


 そう挨拶すると、同僚達はみな挨拶を返してくれます。

 ですが自分達の仕事を優先しているようです。直ぐに自分のデスクに置かれた資料とにらめっこを再開していました。


 ”女性化の呪い”に掛かった当初こそ、皆困惑した表情で私を見ていたものですが、今となっては慣れた様子ですね。

 「そんなことより仕事の準備」と冒険者業に励んでいることに、皆の熱量が伺えますね。同じ冒険者として誇らしいものです。

 

 私も「田中 琴男」と書かれた自分のデスクに腰掛けました。ちなみに「男」の文字には二重線が引かれています。

 「男」の文字が消されているのを見る度に、ちょっとだけ複雑な心境になりますね。これでも心は男なのに。


 

 それから私は「ギルド本部からのお知らせ」と書かれた文書だったり「ポーション原材料不足による生産量減少のお知らせ」など、冒険者業務に関わる書類を手に取ります。

 一応ダンジョン攻略に関わる内容なので、ひとつひとつ目を通していきます。

 書類を読み込んでいる中、私の肩をぽんと叩く人物が居ました。


「よっ、田中ちゃん。おはようさん」

「あ、三上さん。おはようございます」

「田中ちゃん、ちょっといーい?」

「……なんですか?」


 人事部の三上さんでした。いつものように、黒縁メガネの奥から見える目元がにやりと歪んでいます。

 彼からの呼び出しがある時は、たいてい厄介ごともセットです。

 なので内心身構えつつも、三上さんの続く言葉を待ちます。


「そう身構えなくてもいーじゃん」

「三上さんが呼んでくる時って、大体ロクなことないので」

「まあまあ、今度ケーキ奢ってやるからぁ。この間早川さんとケーキ食べてたっしょ」

「え、見てたんですか!?」

 

 想定外の方向から話題を切り込まれ、私はぎょっとした表情で彼を見ました。

 三上さんは意地汚い笑みを浮かべながら、にやにやと追い打ちをかけてきます。

 

「ずいぶんと幸せそうだったじゃん。今度俺のおすすめ買ってやるからさぁ、ちょっとワガママ聞いてくんねぇかな」

「……まあ、いいでしょう。それで、要件は?」

 

 すると、三上さんはある方向を顎でしゃくります。

 そこには「自分が関係してる」と理解しているのでしょうか、鈴田君がこっちを見ていました。

 

「鈴田君のパーティメンバーの魔法使い君がさぁ、ちょっと身内の不幸とかで来れなくなったのよぉ。悪いけど、代理メンバーに入ってくんない?」

「……あー、なるほど。別に良いですよ」

 

 鈴田君は現在、魔法使いである後輩の男性とパーティを組んでいます。

 その彼はここ最近、そわそわと落ち着きなくスマホを握っていたので事情は察するところです。

 

 私はデスクから腰を上げ、鈴田君の隣へと歩みを進めました。

 休みの日にも会ったところなので変な感じがしますね。

 

「三上さんから事情は聞きました。よろしくお願いします」

「こちらこそ、田中先輩。先輩が力になってくれるのは助かりますよ、探索の方針は合わせますんで」

「いえいえ、お気遣いなく。多少の無茶は構いませんよ?リーダーは鈴田君ですし」

 

 私がそう言葉を返すと、鈴田君は安堵したように胸をなでおろしていました。

 

「そう言ってくれると助かりますよ。今日は少しテストも兼ねて……攻略用ドローンも使いたかったんですよね」

「攻略用ドローンですか。私も使ったことはないですし、良い機会ですね」

 

 元々コミュニケーションが得意ではないというのもありますが、攻略用のドローンの世話になったことはありませんでした。

 「便利だ」という話は小耳に挟んでいたので、どれくらい役に立つのか知るにもちょうどいいです。


 簡単な打ち合わせを行っている最中、また一人。私の背後に近づく人物が居ました。

 彼女は私の頭をポンと撫でながら、楽しそうな声音で話しかけてきました。

 

「わーっ、田中ちゃんだ!田中ちゃん来てくれたのーっ、やった、嬉しいっ」

 

 ハイテンションでそう語り掛けてくる女性と言うのは、私は1人しか知りません。

 彼女のテンションに付いていくことが出来ず、私はげんなりとした表情で振り返りました。

 

 もちろんというのでしょうか。そこにはほわほわとした雰囲気の、可愛らしい女性が立っていました。

 はい、連絡班を担っている早川 瑞希さんです。

 この間もドローンを介した連絡でお世話になりました。 


「……早川さん、何してるんですか」

「よーろしくねっ、田中ちゃんっ!やったぁ、田中ちゃんの可愛い姿をたくさん収めるぞーっ!」

「仕事してください」

「はぅあっ、美少女から冷ややかな目で睨まれる……これもまた良い……っ!」

 

 早川さんはまるで心臓を銃弾で貫かれたかのように、胸元を両手で抑えて背中を反らしました。鼻血出てますよ。

 何でこの人は、こんなにハイテンションなんでしょうか。

 付いていくことが出来ません。


【information】

 本文で出した“スパチャブースト”という単語は著者:砂石が過去作のダンジョン配信もので出した設定の流用です。

 自我です。すみません。

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