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第137話 バカップル

「毛布ーーーー!!!!ふかふか!!ふかふか!!」

「琴ちゃん、後にせい。恵那斗君に怒られるぞ」

「うー……怒られるのは勘弁……」

「先に晩御飯じゃ。経費で落ちるから好きに食べて良いと三上が言っておったぞ」

「!!ご飯っ!!やった!!無料!!」

「分かりやすい反応よのぅ……」


 本日のダンジョン攻略を終えた私達は、ギルドの方で予約を取っていたホテルへと訪れています。

 どう部屋を分けるか、と悩んでいましたが……結局外見上の性別で部屋分けをしました。


 つまり、私とイナリちゃん。恵那斗とパパで部屋を分けられました。

 

 パパは「お前ら全員男子みたいなもんだろ」とか言っていましたが。失礼だと思いませんか?

 イナリちゃんは自分の尻尾から落ちる抜け毛が気になるのか、毛布をコロコロで掃除しています。粘着性ローラーとも言いますね。


 尻尾で結構不便を被っていますねこの狐っ娘。

 次にリュックサックの中に溜まった抜け毛をポリ袋に集める、という作業をしている傍らで語り掛けてきました。


「ほれ、お前さんも支度せんか。恵那斗君にメッセージでも送っとくんじゃぞ」

「はぁい」


 むすっとした顔でイナリちゃんにそう促されたので、ベッドから顔を起こしてスマホを取り出します。

 それからメッセージアプリを開き、恵那斗へとメッセージを送ることにしました。


 ----

 

  [恵那斗ー!ねえー!]18:56

  [いける?]18:57


[大丈夫ですよ]19:01

[三上も丁度準備が終わったところです]19:02


  [うん

   わかった]19:03


[琴が大丈夫なら部屋に行きますが]19:05


  [お願い!]19:06

 

 ----


 いっつも思うんですけど。

 恵那の頃からそうなので私は慣れていますが、ものすごい文面が硬いんですよね。

 仕事中みたいな気分になっちゃいます。


 恵那斗が部屋に来てくれるのが分かったので、ベッドから体を起こします。

 軽くパーカーの裾だけ直して、扉の前に立ちました。


 それから、扉に耳を近づけて周囲の物音を伺います。

 完全にスパイのそれです。悪いか。


「琴ちゃん、まるでストーカーみたいじゃぞ。みっともないからやめんか」

「うるさいです」

「全く、愛が軽いんだか重いんだか分からんわ……お前さんは」


 イナリちゃんが大きなため息をついているのが聞こえましたが、とりあえず無視しました。

 目を閉ざし、扉の奥の物音へと意識を向けます。


 得られる環境音から、何が起きているか情報の再構築。これは私がソロで攻略している際に会得したスキルです。一度のミスが命取りとなるソロ攻略においては、情報こそ生きる術だったので。

 特殊個体が発生する前までは既存の知識で対応できていたんですけどね、パターン化がしづらくなってしまいました。長らく“魔物討伐キット”も倉庫番やっていますし。


 ですが育んだスキルというのは腐ることは無いですね!


「……」


 という訳で扉に張り付いて、周辺の物音を探ることに意識を向けてみます。

 こういう時は前提の条件確認からしっかりと行わないといけないんですよね。


「廊下にはカーペットが張り巡らされていた……恵那斗の部屋は隣だから……」

「そんなことせんでも連絡とれば良いじゃろうが」

「こういうのは理屈じゃないんですよ。ロマンを分かっていないですねっ」

「お前さんは本当に……」


 イナリちゃんがさっきから正論をぶつけてきますが、私は知りません。

 制限されたリソースから、打開の糸口を探る。それが琴ちゃんの思考ベースです。


 潤沢すぎる資源は、時に思考の幅を狭めるんですよ。そうならないように、意図的にリソースを狭めることも大事です。


 色々な物音が聞こえますね。

 

 女性の笑い声。

 何人も重なった足音。

 扉の鍵が閉められる音。

 カーペットをすり足で歩く音。

 スリッパが踵を叩く音。

 恵那斗とパパが会話している声。

 近づく足音。

 知らない誰かが会話している声。

 扉の前で止まる足音。


 ——ここだっ!!


「恵那斗ー!!」

「わっ、な、なにっ。びっくりした」

「んふふっ、狙い通り」

「よく分かったわね……」


 恵那斗は驚きながらも私の頭を撫でてくれました。

 大きな手で撫でられたものですから、おもったよりもくすぐったいです。


「ん~……」

「猫みたいね。可愛いわ」

「ごろごろごろ……」

「ぶっ」


 ふざけて喉を鳴らす真似をしてみたら、恵那斗が顔を抑えて蹲ってしまいました。

 ぷるぷると身体を震わせています。耳が真っ赤になっていました。


「ちょ、ちょっと。ズルいわ……ああ、もうっ」

「えーなとっ♪」

「も、もうっ!!からかうのを止めなさいっ……!!」

「んふふっ」


 いいリアクションくれるから、恵那斗を茶化すのは止められないんですよね。

 琴ちゃんは楽しいです。


 あ、部屋の奥からイナリちゃんが呆れた顔をしてやってきました。リュックサックを背負って、キャスケットを被って変装モードを作っています。


「お前さんらは何をイチャイチャしとるんじゃ。バカップルが」

「だって恵那斗の反応見るの楽しいもん」

「……お前さん……いつか恵那斗君の理性をぶち壊しそうで恐ろしいの……」

「えっ、私そんな行動取ってないですよ?」

「無自覚が一番恐ろしい……一晩、お前さんらを同じ部屋に放り込んでやろうかの?」


 イナリちゃんが意味ありげな視線を恵那斗に送りました。

 すると恵那斗は「だ、大丈夫よ」と言って速足でエレベーターまで逃げてしまいました。はて?

 ちなみにパパはエレベーター前で待っていました。

 

 私は恵那斗の行動の理由が分からないので首を傾げます。


「恵那斗……一体、どうしたの?」

「あれで気付かんお前さんも大概じゃぞ」

「んぇ?」

「お前さんは紙一重で生かされている、ということじゃ。ほれ、行くぞ」

「えー……ん……?」


 イナリちゃんはそう告げた後、早々に私を置いて男性陣のいる場所へと行きました。

 ……むぅ、さすがに話に置いていかれている気がしますね。


 ちょっとだけ、考察してみましょう。


 まず、大前提として私と恵那斗の関係は夫婦、というよりも彼氏と彼女です。私の戸籍上の年齢が16歳なので、まだ結婚出来ないんですよね。

 そして、恵那斗は定期的に変態発言をしています。ちょっとだけモラルに欠けている気がしないでもないですが、大っぴらにしている訳ではないので私は何も言いません。

 だけど、私が積極的な行動を取ると、恵那斗が逃げちゃうんですよね。まるで男子中学生です。

 なんだかそれが可愛いので、私もぐいぐい行ってしまうんですけど。


 でも、なんだか根幹的にズレている気がしますね。

 恵那斗は何から逃げているのでしょう。


 ヒントとなりそうなのは、“異性化の呪い”に掛かる前の夫婦生活でしょうか。

 恵那は結構積極的なタイプでしたね。いわゆる肉食系、とか言うタイプです。


 それに対して、私はどちらかというと……というよりもがっつり草食系ですね。基本的には私が受け身です。


「……あっ」


 ……あ、もしかしてそういう話ですか!?


 もしかしてこの呪いに掛かってから、恵那斗が家庭内別居を選択するようになったのもそういう話ですか!確かに思い返してみれば、同居してからティッシュを買い替える頻度が増えた気がします。

 “そういう話”だって考えれば全てのつじつまが合ってしまいます。


 ……ですけど。

 案外、悪い気がしていない自分に気づいちゃいました。


 うう、いざ気付くとちょっとだけ気まずいですね。私も顔が紅くなってしまいました。


 とりあえず、皆が待つところに合流しましょう。

 

「……恵那斗」

「あら、琴。どうしたのかしら」


 うううううう。意識すると恥ずかしいです。

 恵那斗も今や男性ですもんね。


 どう伝えればいいのでしょう。

 というか、伝えていい話なんでしょうか。

 何となく恥ずかしいのと、それでも歩み寄りたいのと、相反した感情がせめぎ合います。


 恐る恐る恵那斗の衣服の裾を掴んだ後、自分でも驚くほどに弱々しい声で呟きました。


「……えっとね。あの……」

「ん?」

「我慢、しなくて……大丈夫、だから……」

「…………え?」

「おっ、終わり!この話は終わり!!」


 ああああああああああああっ……言っちゃいました。爆弾発言をしちゃった気がします。

 黙って話を聞いていたパパが気まずそうに明後日の方向を見ています。

 イナリちゃんがどこか達観した顔で「うんうん」と頷いています。イナリちゃんはどういうポジションなのですか。


 恵那斗の顔を真っすぐに見ることが出来ません。顔から湯気が出そうなほど熱いです。心臓の鼓動が聞こえて来そうです。

 ですけど、夫婦!!夫婦ですもん!自然ですよ、悪いことじゃないはずですっ。


「……」

 

 何故か恵那斗は黙って何も言いません。

 なんだかそれが怖いので、様子を伺うようにおずおずと顔を上げた、その時でした。


「琴」

「ん……むきゅ?」


 恵那斗は私の頭をぽんと撫でてきました。それから、優しく撫でまわします。

 撫ですぎですよっ。もーっ……。


「琴は自分のペースで良いわよ」

「……ん」

「私に合わせようとしてくれているのね、ありがとう」

「……そんな、私。分かりやすい?」

「30年の付き合いよ?もう、とっくに分かっているわ」

「……うん」

「琴の為なら、我慢なんて上等よ。任せなさい」

「あ、ありがとう」


 本当に最高の彼氏ですね、恵那斗は。

 嬉しくなったのでつい、勢いよく抱き着いちゃいました。


 恵那斗が「こ、琴……!?」とか困惑した声を漏らしています。

 うん、やっぱり落ち着きますね。私の居場所はここです。


「んふふ……」

「全くもう……」

「んー……」


 そんな私達の様子を見ていたイナリちゃんは、パパに話しかけていました。


「……今からでも、部屋割りを変えるべきかの?」

「俺は別にどっちでも良いけどよォ、そういうのは休日にやってくんねェかな」

「まあ固いことを言うでない。若い者の特権じゃ」

「47歳だぞアイツら」

「……儂からすれば、年下じゃ……うん」


 しれっとパパに言い負かされていましたねイナリちゃん。

 実年齢は伏せた方が良い冒険者ご一行です。

すみません予約投稿忘れてました( 'ω' )

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