第129話 10連ガチャ
当然と言えば当然ですが、魔物が出る全てのダンジョンに需要がある訳ではありません。
様々な冒険者が行き交うような、需要の高いダンジョンもあれば、そもそも冒険者が通ること自体が珍しいダンジョンも存在します。
その需要の差は何処にあるのか、という話ですが。
以前触れたように「ドロップアイテムに乏しい」という理由もあります。
ですが、それだけではありません。
一番の理由は「攻略難易度が高い」ことです。
えっ、冒険者の醍醐味じゃないのかそれ、って?まあ、当然そう思いますよね。琴ちゃんもそう思います。
黎明期においては、確かに攻略難易度の高いダンジョンを攻略した、ということが冒険者にとって名誉となりました。ですが、現代において冒険者業はエンドコンテンツです。
魔石や魔物からのドロップアイテムが社会的に需要を持つ以上、「どれだけ安定した供給を得られるか」という視点に重きが置かれるんですよ。
めちゃくちゃ難しいダンジョンを攻略した!ということよりも、納品ノルマに到達した、ということの方が評価を得られる時代です。
あの、そういうもんなんです。冒険者って。ロマン度外視の社会人はクソです。
まあ確かに、どんなダンジョンだって問題なく攻略できるのが一番ですけどね。
私達呪い三人衆は、強敵であったとしてもそれなりに立ち回れる実力を持っています。伊達にベテランはやっていませんよ。ふふんっ。
これはあくまで持論ですが、仕事の合間でのんびりと談笑できる時点で、相当な実力者だと私は考えています。
仕事に対する態度からも、冒険者の底って見えるんですよ。
あの、私に対して微妙な目を向けるのは止めてくださいね。琴ちゃんは悪くないです。
そこに転がってるゴブリンが悪いので。
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という訳で、三上パパの長距離運転を経て、ようやく目的地であるダンジョンへと到達いたしました。
今回は中規模の塔型ダンジョンですね。……今回もか。
どっちかというと、洞窟型よりも塔型へと派遣される機会が多いですね。まあ、こっちの方が気兼ねなく“琴ちゃん魔法”をぶっ放すことができるので私としても助かりますが。
……しかし、さすが過疎化したダンジョンと言いますか。なんというか……。
「うぅむ。人の手が入らんとこうもなってしまうのか……時間というものは残酷じゃのぅ……」
イナリちゃんはどこかもの寂しそうに、ぽつりと呟きました。
なんだかイナリちゃんがそんなセリフを吐くと、まるで「悠久の時を経た伝説の存在」みたいになるので面白いですね。一度で良いから「人の一生というのはこうも短いのか……寂しいのぅ」みたいなことを言って欲しいです。絶対似合う。
いや、真面目に話しますが。
確かに三上パパの采配によって派遣されたダンジョンというのは、非常に廃れていました。
塔型ダンジョンというか、まるで墓地ですね。陰鬱とした空気感が漂っています。
……お化け、怖い。
「恵那斗ぉ……帰りたい……」
「はいはい。私がいるから大丈夫よ」
「お化け無理……」
つい怖くなってしまったので、恵那斗にしがみつきました。彼は私の頭を撫でて宥めてくれます。助かる―……。
……うう。やっぱり真面目に話すのは無理かもしれません。
なんというか、いわくつきみたいな雰囲気がして怖いんですよ。
長年人の手が介入していないことが分かる、風化してひび割れたアスファルト。雑におかれた、錆ついたバリケード。カウンターの上には、もはや何年前か分からない冒険者が出入りしたことを示す帳簿が置かれています。
そんなほとんど人の出入りがすることのないダンジョンですから、大抵のところには配置されている職員も今回はいません。
完全に無人です。
なので、今回はドロップアイテムは一旦私が持ち帰る手筈となっています。“アイテムボックス”を会得しているからこそ許される特権。
ただ当然、怪しい人の出入りを防ぐ為でしょうね、出入り口にはちゃんと防犯カメラが配置されています。
全日本冒険者協会が管理している防犯カメラだそうです。
まあ、反射の人とかが遺体を破棄しに来ても困りますからね。ダンジョンの悪用は厳禁です。
廃墟というのは、「経営者が呪われて死んだ」みたいないわくつきの施設、みたいなイメージが強いですが。実際にはそれだけではありません。
経営者陣が不正を働いて逮捕された。跡継ぎが居なくなって経営が出来なくなった。
みたいな、大人の事情によって破棄される施設も多いんですよ。
今回攻略する廃墟風ダンジョンも、そんなひとつですね。
時代の変遷によって攻略需要が薄れ、ついにはほとんど冒険者が出入りすることのなくなったダンジョンです。
それは分かっているんですけどね……。
「パパ、ここを攻略するんですか……?」
「しゃーねェだろうがよォ。イナリちゃん連れて攻略するってんなら、こういう場所しかねーんだから」
「うう……」
「はっ、琴きゅんは昔からお化けとか苦手だよなァ。ゴーストとか尻尾撒いて逃げてたよな。なァ?」
「昔の話はしないでくださいっ!」
パパは楽しそうにけらけらと笑っていますが、私からすればそれどころじゃないです。
昔から無理なんですよ、お化け。
だってですよ、あんな非科学的存在が居ていいはずないんですよ。この世の全てを否定したようなお化けなんていちゃダメです。
未知は怖いんですよ。
未知だらけじゃないですかあんなもの!!!!
恵那斗に隠れるようにしてブルブルと震えていたのですが、三上パパは困ったように引きつった笑みを浮かべました。
「何ならよォ、琴きゅん。お前だけ車の中に居とくか?」
「……私を1人にするんですか?」
「めんどくせェなお前なァ!?」
「い、いきますよぅ……仕事します。仕事はちゃんとします……」
半ば自分に言い聞かせるように、そう繰り返し呟きます。
そうです、これは仕事です。ただ魔物を倒して、魔石を納品する。大丈夫です、琴ちゃんはプロの冒険者です。
……なんだか、いつも変な理由で葛藤していますね。
琴ちゃんは至って大真面目ですよ?
「のぅ、琴ちゃんや」
「ん?」
そんな時、イナリちゃんは私の腰を突いてきました。肩を叩くには身長が足りなかったのでしょうね。健気で可愛い。
私は、そんな愛くるしい64歳男性おじいちゃんへと振り返ります。
「ばあっ!」
「……」
「……ぬ?驚くと思ったのじゃがの」
「……ぷっ」
イナリちゃんはどうやら私を脅かそうとしたようですね。両手を上げて、わざとらしく悪い顔を作って威嚇してます。まるでレッサーパンダの威嚇です。可愛すぎる。
ですが私が無反応だったものですから、きょとんとした顔で首を傾げます。
何この子、天使?あ、天使は私か。ごめんサンダルフォン。
というか、なんだか中身が子供っぽくなっていませんかこのおじいちゃん!
ついおかしくなって笑っちゃいましたよ。
そんな私のリアクションが不服なのでしょう、イナリちゃんは軽く私を小突いてきました。ステータス的にも私に負けているので、全然痛くないですが。
「ぬぅ、何が面白いというんじゃっ。儂は少しでもお前さんの気を紛らわそうとじゃな……」
「あはっ、は……分かってますよイナリちゃん。可愛いなあイナリちゃんはもう……」
「不本意なのじゃが!全く、仕方ないやつじゃ」
やれやれ、と言わんばかりにイナリちゃんはため息をついてきました。それから、頭に被ったキャスケットを触りながら、これまた薄暗い更衣室の方へと視線を向けます。
あ、そう言えばまだ変装モードは解いていませんでしたね。
「肩の力が抜けたのなら良かったわい。早う着替えるぞ、業務に取り掛からねばの」
「あっ、はい」
「三上、恵那斗君もまた後でのぅ」
そう言って、イナリちゃんは我先に更衣室へと向かいました。
さすがに幼女一人を置き去りにする訳には行きませんね。私も小走りで彼女の後を追いかけます。
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あ。
完全に忘れていました。
イナリちゃんにとって、外見に加えて致命的な問題がひとつありました。
「……“アイテムボックス”。あれ、出んのぅ……」
「イナリちゃん、どうしました?」
キャスケットとリュックサックを外し、変装モードを解いて、狐耳と尻尾を揺らすイナリちゃん。彼女は左手を突き出しながら、首をかしげていました。
そんな様子が気になったものですから、私は話を促してみます。
一瞬、プライドが入り混じったのかイナリちゃんは葛藤の滲んだ表情で眉を顰めました。ですが、問題の解決を優先したのでしょう。
観念したようにぽつりと呟きます。
「……ぬぅ。元々使っていた刀をな、“アイテムボックス”の中に入れておったのじゃが……出せんくなってしもうた……」
「あっ」
「琴ちゃんみたいに、そうポンポンと出せるMPなど持っておらんからの……」
あまりにもショックだったのでしょう。
イナリちゃんの尻尾がだらりとしおれてしまいました。狐耳も垂れてしまっています。全身でショックを表現しているのがまた愛らしいですね。
私が異例中の異例なだけで、“アイテムボックス”って基本的にMPをいっぱい使う魔法なんですよね。
使い手の熟練度にもよりけりですが、だいたいの冒険者は“アイテムボックス”を1回開くのにMPを100ほど消費します。
それに対して、“異形化の呪い(琴ちゃん命名)”によって大幅にレベルダウンしたイナリちゃんのMPは「31/31」とかです。“アイテムボックス”1回すら開くことも出来ません。可哀想。
というかですよ?
「……イナリちゃん。“アイテムボックス”をMPがないのに開こうとしたんですか?」
「む……」
「怒られますよ、ダンジョン攻略前にMP使い切ったら」
「……すまん」
私も言われたことなので、あんまり他人のことを責めれないんですけどね!やんわりと叱ると、イナリちゃんは申し訳なさそうに俯いてしまいました。
その仕草が可愛かったので、つい頭を撫でちゃいました。
「よしよし」
「撫でるでないっ!」
お、元気になった。良かった。
しかし、イナリちゃんの装備問題は早めに解決した方が良さそうですね。
私も専用の衣装である青を基調としたワンピースに身を包み、支度を終えたところです。
琴ちゃんウェポンの使い心地を確認したところなので、イナリちゃんの装備問題を解決するお手伝いをしましょう。
あ、専用武器の呼び方ですけど……やっぱり、「琴ちゃんウェポン」よりもしっくりくる名前を思いつかなかったです。もう、これでいいかなあって。正式名称です。
さて、そんな話は置いといて。
“アイテムボックス”を気軽に開けるのは私特有の能力ですからね。こういう時にしっかりと使っていきましょう。
とりあえず眼前に“アイテムボックス”を起動させて、その中を漁ってみます。
こんな雑な扱いで使って良い魔法じゃないんですけどね本来は。便利なので、つい。
「なんかないかなー……ちょっとあるだけ出してみますね」
「お前さんを見とると猫型ロボットを思い出すわい……」
イナリちゃんがしれっと失礼な扱いをしてきました。ですが本題はそこにないので、ひとまずスルーします。
“アイテムボックス”にもカテゴリー検索機能とかあったら良いんですけどね。魔法にそのような便利機能を付属させることはできないので、大人しく諦めて“アイテムボックス”の中を漁ります。
とりあえず思いつくだけ、中から取り出していきましょう。
出でよ琴ちゃん武器ガチャ。
10連回してみましょう。
ガサガサガサガサ……。
えいっ!
ゴブリンの短剣。
ダークゴブリンのダガー。
ゴブリンの目玉。
ゴブリンの死骸。
ミンチプレスされたガーゴイル。
ゴブリンメイジのステッキ。
鎧武者の小太刀。
オーガの大槌。
ゴブリンキングの神々しい大剣。
ホブゴブリンの棍棒。
ゴブリンの死骸。
あ、11個出しちゃいました。
まあいっか。おまけです。
“アイテムボックス”から取り出したゴミの山に、イナリちゃんは呆れかえっていました。
「……お前さんの“アイテムボックス”は何でも出てくるのぅ……」
「えへっ」
「褒めておらんて……」
イナリちゃんは私が取り出したゴミの中から、ガサガサと武器を漁ります。
“女性化の呪い”に掛かる前から格納していたものがいっぱい出てきますね。こういうのはあるだけ困りませんから。ふふんっ。
……なんだか、「必要最低限のものしか持ち込まない」というストイックな立ち回りをしていた頃の私がこっちを見てきます。
なんですか。こっちを見ないで下さいよ。
「もう1回ガチャ10連しましょうか?」
「“アイテムボックス”をガチャ扱いする冒険者なぞ、お前さんくらいのもんじゃわい。要らん」
「ちぇー」
「面白くなさそうにするでないっ!……ふむ、この小太刀は扱いやすそうじゃ」
イナリちゃんはゴミ溜めの中から、“鎧武者の小太刀”を拾い上げました。
いつ倒したかすら記憶にありませんが、いつの間にか“アイテムボックス”に入っていたものですね。
それから更衣室にある洗面台で丁寧に小太刀を洗った後、何回か鞘から抜いて素振りをしていました。さすがというか、動きに一切の無駄がありませんね。
使い勝手にも満足したのでしょう。「うむ」とい言った後、鞘に納刀しました。
それから、和服なのをいいことに帯の間に鞘を差し込みました。なんというか、似合いますね。
「琴ちゃんや。助かったぞ」
「解決して良かったですよ。じゃあ、他の武器は戻しますね」
「せめてゴブリンの死骸とかは捨てんか……」
イナリちゃんはブツブツとぼやいていましたが、私の知った話ではありません。
ということで、お掃除ロボットの要領で“アイテムボックス”を地面に這わせるようにして、イナリちゃんが拾い上げた小太刀以外を回収していきます。一部武器じゃないものもありますが。
とりあえず、支度を終えたので恵那斗達と合流しましょう。
今回は三上パパは保護者役です。
実力だけなら、正直私達でも事足りるんですよ。ですけど、まあ安全管理的にも居た方が良いのは事実なので……。
社会人は世知辛いです。うーん。




