第118話 ダンジョン崩落
「金山さ……ちゃん、色々と有益そうな情報持ち帰って来てくれたね。ありがとう」
「感謝の気持ちを述べるなら、ちゃん付けはやめんか?」
「よしよし」
「ぬぅ……由愛ちゃんや……何とかしてくれんかのぅ……」
麻衣ちゃんは金山さんに対して穏やかな笑みを浮かべながら、頭を撫でて可愛がっていました。
対する狐耳幼女の金山さんは、子ども扱いされてすごく不服そうにしています。ですがどのような態度で反抗したとしても、見た目が可愛らしい女の子なので威圧感に欠けるんですよね。殺気放つのはやめてください。
金山さんはどこか身の置き所が無いように辺りを見渡していました。
しばらく間を置いてから、金山さんは「ふむ」と物思いに耽るように顎に手を当てます。
「しかしのぅ、“魔の脅威”とは何ぞや……」
そう言えば、金山さんがダンジョンの最上階に訪れた時、そのような言葉を聞いていましたね。
明らかに謎の声は、意図的な目的をもって言葉を掛けているように見えました。
恵那斗も“災厄が来る”という旨の話をしていた気がしますし、ものすごく意味ありげです。
……なんだかロマンがありますね。
「琴ちゃんや。笑みが隠せておらんぞ」
「ん?あっ」
あっ、ついニヤけているのが隠せてなかったみたいですね。えへへ。
だって、ものすごくロマンに満ちているじゃないですか!壮大な文言で語り掛けてくるって!ファンタジー!ファンタジーですよこれは!!
なんていうんですかね。青空の真下で“待っていたぞ、人の子よ”みたいな雰囲気って、「いかにも」じゃないですか?
壮大な物語が始まる感がして、凄くワクワクします。
私達の戦いはこれからです!!ふぅー!!
……とか、そんなことを考えていると、金山さんが明らかに呆れた顔をしていました。
「お前さんと会話していると空気感が乱れるわい……」
「えへっ」
「褒めておらんぞ」
さすがに場の空気を乱しまくるのも悪いですからね。
一応、現状についてもちゃんとまとめておきましょう。琴ちゃんは仕事が出来るのです。ただのバカ火力マシーンだと思ったら大間違いですよ。
「恵那斗は“厄災を乗り越える力を授ける”みたいな言葉を聞いたんだっけ」
私は恵那斗の方を見ながら、そう質問を投げかけました。
その質問を受けた恵那斗はこくりと頷きます。
「ええ。その言葉を聞いたと思うと、いきなりダンジョンが崩落したもの。洞窟型ダンジョンだったし、生き埋めになるかと思ったわよ」
「……どうやって出てこれたの?」
「気付いたら地上に戻って来ていたのよ。琴を間近で見ていたから、おおよその見当がついていたとはいえ……驚いたわね」
「本当に、恵那斗……死んでたかもしれないのに……度胸あるなあ。カッコいいよ」
私が素直に評価すると、恵那斗はどこか気恥ずかしそうに視線をそらして頬を掻きました。
照れくさそうにしているのがちょっとだけ可愛いところありますね。
……っと。本題に戻りましょう。
「“厄災”と言い、“魔の脅威”と言い、言っていることは同じだよ。ダンジョンを中継して、誰かが“脅威の前兆”を伝えようとしてるんじゃないかな」
「……“脅威の前兆”と来たかぁ~……琴ちゃん、その根拠は示せる?あんまり憶測だけで不安なことは言わないでね?」
全日本冒険者協会として責任ある立場である麻衣ちゃんは、そう釘を刺してきました。
確かに今この場にはほとんど身内しかいないとはいえ、プロジェクトの部外者である私があんまり偉そうなことを言わない方が良いですもんね。それは紛れもない事実です。
ですが、昔はダンジョンに籠りっきりだった私だからこそ、確信を持って言えるんですよ。
「まず、“特殊個体”の発生。長年ずっとダンジョンに籠ってきた私でも、そんな魔物なんて今まで見たことは無い」
「琴ちゃんが言うと説得力あるなあ」
「そして、“ダンジョンの崩落”に関してもそうだよ。麻衣ちゃん、異災以降、ダンジョンが崩落したというケースがどれくらいあったか提示できる?」
今回の調査対象は“異性化の呪い”についてでした。
“女性化(男性化)の呪い”と呼んでいてはややこしいので、ひとまず“異性化”として表現しておきます。
ですが“呪い”が発生すると同時に、ダンジョンの崩落がセットで付いてきているんですよね。
ダンジョンの崩落という事象。それが、何の意味も持たないとは考えられません。
私の意見にハッとしたのでしょう。麻衣ちゃんは情報を纏めるのに使っていたノートパソコンを開き、流れるようにタイピングして全日本冒険者協会のデータベースへとログイン。それから、過去の情報を取りまとめた記録をざっと流し読みしていきます。
専門用語で記載されている文面ばかりなので、書いている内容を瞬時に理解することは出来ませんが……これまでの、ダンジョンに起きた事象について纏めているようです。
それから、麻衣ちゃんはノートパソコンを閉じて、静かに私の質問に答えました。
「琴ちゃん、恵那斗さん。そして、金山ちゃんのケースを除くとね、1回しかなかった」
金山さんは「またちゃん付けしおって」とムッとしていました。ゆあちーになだめられていましたが。
……にしても、ですが。
1回。
その1回については、私が一番理解しています。
「私はその1回、答えられるよ」
「琴ちゃん?」
私は、この話を他人事だと思って聞くことが出来ませんでした。
だって、その1回の“ダンジョン崩落”は。
「……私に技術を教えてくれた、先輩が巻き込まれた時のことだもん」
「……!!」
麻衣ちゃんが息を吞むのが分かりました。
思い返せば、麻衣ちゃんが私の後輩として入職したのは、先輩がダンジョンの崩落に巻き込まれたことにより死亡認定を受けてから、間もない頃でしたね。
そもそも、麻衣ちゃんの指導担当に私が割り当てられたのは明確な理由がありました。麻衣ちゃんは、いわゆる「天才」と呼ばれる人物だったんです。
私についで2例目とされた、魔窟科の授業内容を1年で全て履修してしまう卓越した頭脳を持ち合わせていたんですね。
琴ちゃんは1例目。賢いんですよ?褒めてー。
彼女の存在がなければ“時間魔法”の開拓だって、十分に進むことは無かったでしょう。
私——田中 琴男と同類という単純な理由から、麻衣ちゃんは私の後輩として割り当てられたんです。
きっと、全ての因果はたった1本の線から生み出されたものでしょう。
私達に巻き起こっている事象は、全て無関係とは思えません。
「あの崩落の日も、私は先輩から指導を受けていた。そもそも“アイテムボックス”だって、先輩から教わった魔法だったんだ。難しい魔法だけど、覚えておくと汎用性が高くて便利だからって」
「……琴ちゃん」
「でね、ようやく“アイテムボックス”を最低限扱えるようになった時、崩落は起こった。色んな冒険者と一緒に、瓦礫の山に飲み込まれた……そこは記録に残っているよね?」
私が麻衣ちゃんに話を促すと、彼女は再びデータベースを確認。それから、強く頷きました。
「うん。100人を超える冒険者が、その崩落に巻き込まれて亡くなったんだね」
「……その犠牲者の中には、私の先輩……清水 大輝先輩も含まれてる。表舞台に出るのを好まないような人だったけど、優秀な冒険者だったんだ」
「そっか……」
……駄目ですね。
一連の流れから、希望的観測が出てしまいます。
“ダンジョンの崩落”に巻き込まれただけで、彼は……先輩は、生きているんじゃないかって。
ですが、そのような希望的観測は、この場においては邪念ですね。
大きく首を横に振って、改めて本題へと話を戻します。
「きっと、“ダンジョン”は何かしらの意味を持っている。じゃないと、“魔の脅威”という言葉も、“厄災”という言葉も出てこないよ。ダンジョンの崩落だって、きっと何か意味を持っているはずなんだ」
「うーん……そうだね。その意味を調べないと、か……」
麻衣ちゃんは考え事をするように、顎に手を当てました。
それから、こくりと強く頷きます。
次に視線を向けたのは、狐耳幼女と化した金山さんでした。
「ぬ?何じゃ?」
「これからも、色々と調査することが多そうだね。まずは……金山ちゃん。全身の検査をしたいと思うので、一緒に付いてきてくれますか?」
「ぬぅ、元よりそのつもりだったがのぅ……しかし……困ったの」
「どうしました?」
金山さんは何やら心配事があるようで、「むむ」と難しい顔を作ります。
それから自分の尻尾を持ち上げて、こちらへと見せつけてきました。
「この姿ではあんまり外を出歩けないのぅ……悪目立ちするのは勘弁願いたいぞ」
「あー……確かに」
「何より、この姿では儂1人で生活できん。買い物すら行けないのは困るぞ」
「つまり、金山ちゃんの介護役が必要、ってことですね」
「介護って言うでない!!」
確かに、狐耳幼女の姿では気軽に外に出歩けないですね。
“介護”と呼ばれたことが不服なのか、金山さんは椅子から飛び降りたかと思うと、麻衣ちゃんへと不服そうに突っかかりました。尻尾がブンブンと左右に揺れています。可愛い。
まあ、実際おじいちゃんだけじゃ一人暮らしは出来ないですね。
狐耳幼女の世話を焼く誰かが必要なのは確かです。
さて、どうしましょうね。
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「汎用性が高い“アイテムボックス”」ねえ……??琴ちゃんが言うと変な方向に解釈しちゃうんだけど??(作者)




