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第116話 正解

 やがて、スマホの画面が映し出したのは透き通るような空間でした。

 私はその映し出された映像の断片から気づき、ぽつりと呟きます。


「……最上階だ」

「えっ。ってことは……」

 

 私の呟きに反応したゆあちーは、びっくりした表情でこちらを見てきました。

 それから少しだけ泣きそうに目元を潤ませつつ、改めてスマホへと向き直ります。


 やはり、金山さんと永遠にお別れをする訳ではないにせよ、思うところがあるのでしょう。

 “おじいちゃん”と呼ばれていた金山さんが、間もなく消えようとしているのですから。



 

「……着いた、かの?」


 金山さんがそう呟く声が聞こえました。

 

 ビデオ通話越しに、金山さんがダンジョンの最上階空間に足を踏み入れたのが分かります。

 

 ちなみに、ゆあちーのスマホに繋がれた映像は、全日本冒険者協会のところでも画面共有がされているようです。

 ダンジョン隣に配置された本来の休憩所では全日本冒険者協会の方々が、食い入るように映像を見ているようですね。

 

 麻衣ちゃんは私達の関係者でもあるので、こちらに来ているだけです。


 私が“女性化の呪い”に掛かった時に攻略したダンジョンと同様に、地面は大理石が敷き詰められていました。

 天井は吹き抜けとなっており、青空が広がっています。

 雨天の時とか、ダンジョンに雨水が流れることは無いのでしょうか?……野暮な話か。どうせ取り込まれるんでしょうね。


 そんな空間の中に、金山さんは静かに足を踏み入れます。


「のぅ、到着したぞ。じゃが……ボスがいないのぅ」

「……!」


 やはり、私の時と同じです。

 ダンジョンの最上階に鎮座しているはずのボスモンスターが存在しませんでした。その代わりに、まるで神社を彷彿とさせる大きな鳥居が、金山さんを迎え入れます。

 紅色の鳥居にはしめ縄が飾られていました。

 

 ……しかし、“神社”ですか。

 やはり、日本の文化を踏襲しているように思えますね。


 そんな鳥居へと、金山さんは静かに歩みを進めていきます。

 私達はビデオ通話越しに、その光景を静かに見守ります。自分のことではないのに、これから起こる現象に対しドキドキしますね。


 1歩。

 2歩。

 3歩。


 歩みを進める度に、大理石を叩く甲高い音が響きます。

 やがて、金山さんは鳥居の真正面で立ち止まりました。

 厳密には神の通り道とされる鳥居は、真ん中を潜らない方が良いとされていますが、ダンジョンということでそこは意識しなくても良いでしょう。


 しばらく間を置いてから、金山さんは堂々と鳥居の真ん中を潜りました。


 その時です。


「……よくぞ成し遂げた。小さき命よ」


 どこからともなく、女性と思われる声が響きました。

 その声を聞いた瞬間、全身が硬直するような感覚に襲われます。


 心臓が激しく鼓動しているのが分かります。

 もはや、いてもたってもいられませんでした。

 

「——恵那斗っ!!」

「私達と、同じ……」


 恵那斗へと素早く視線を送れば、彼も硬い表情をしてスマホの画面を見つめていました。

 素早く立ち上がり、いつでもプレハブ小屋から出ることができるようにします。


 その間にも、会話は進んでいました。

 金山さんは青空を見上げながら、その声へと返事をします。

 

「ふぅむ……お迎えかいのぅ。お前さんは姿を現すつもりはないのかのぅ」

「生憎ながら、我らはこの世界で姿を現すことが出来ないのでな。魔の脅威から、我らは食い止めているに過ぎん」

「魔の脅威、とな?」

「いずれ来たる災厄。せめて、この力が……そなたを守るすべとならんことを。我らが、守ることが出来なかった世界を——」

「待てっ、儂はまだ話を終えるつもりは——」


 金山さんが、謎の声に対し対話を図っていた時でした。

 

 地響きが生まれました。

 突然、外から激しい物音が鳴り響きます。


 瓦礫が叩きつけられる音。

 腹の底から響くような地響きが、プレハブ小屋へと襲い掛かります。まともに立っていることさえままなりません。



「きゃあっ……!!」

 ゆあちーは両手で頭を押さえつつ、素早く机の下に避難しました。授業で防災訓練を受けたのでしょうね、動きがスムーズです。


「……っ!!」

 麻衣ちゃんはローブの中から魔石を取り出し、じっとダンジョンの方向を見据えます。


「っ、おい!!お前らッ、戻れ!!」

 その中で、三上パパは私達に向けて叫びます。

 

 ですがじっとしていることなんて……出来ませんっ!


 私と恵那斗は、一気にプレハブ小屋のスライドドアをこじ開けました。それから何の躊躇もなくプレハブ小屋を飛び出します。

 

 ダンジョンの敷地内へと飛び出した私達は、今まさに崩れ去るダンジョンを見据えます。

 崩落に巻き込まれてはいけないので、駆け寄ることは出来ません。


「……恵那斗」

「同じね、私達の時と」

「うん。ということは……金山さんは……」


 ダンジョンが崩れ去る轟音を聞きながら、私達は静かに言葉を交わします。

 50階層もあった大規模の塔型ダンジョンは、瞬く間に崩落していきました。


 

 ----



 それから、どれくらいの時間が経ったのでしょう。


 塔型ダンジョンは、瓦礫の山と化してしまいました。

 これ以上崩れ去ることは無いだろうと判断した私達は互いに頷きます。それから、瓦礫に向けて叫びました。


「金山さんっ!!大丈夫ですか!!」

「金山さん、返事をしてくれるかしらっ!!」


 田中夫妻の声と共に、皆がぞろぞろと小屋から姿を現します。

 皆、一同に崩落したダンジョンへと視線を送っていました。


 その時、誰かの声が聞こえます。

 若い女性……というには、あまりにも幼い声でした。


「……い、おーいっ、田中夫妻や。儂はここじゃ!!」

「っ!!……金山さんっ!!」


 私はなんの躊躇もなく、瓦礫の山の上を駆け出しました。

 本来は、足場が瓦解する危険があるので、やめた方が良いんですけど……居ても経ってもいられません。


 ですが、そんな歩みはぴたりと止まります。

 そこに居たのは。


「……金山さん、ですよね?」


 金山さんは、普段から作務衣(さむえ)を好んで着込んでいます。

 ダンジョン仕様に加工された、身軽さに突出した作務衣を普段から金山さんは着込んでいます。

 着込んでいる衣装からしても、金山さんなのは確かでしょう。

 ですが。


「……えっと」


 そこに居たのは、作務衣を着込んだ一人の幼い女の子でした。


「……お前さんの反応から見るに、儂の姿は変化したんじゃな?」

「は、はい」


 サイズがぶかぶかになってしまったことによって、どうやらズボンは脱げ落ちてしまったようです。

 見た目上の年齢であれば、小学校高学年くらい……くらいでしょうか。私の方がお姉さんです。


 ですが、問題はそこにありません。

 問題は——。


「金山さん、その……頭のところが……」

「む?なんじゃ……ボケてるとか、そういう悪口かのぅ?」

「ち、違いますっ。その、頭の方を触ってみてください」

「ふむ……む?」


 金山さんと思われる幼女。彼女のセミロングの金髪からは、とんがった耳が伸びていました。

 まあ、ぶっちゃけ言えば狐耳です。


 はい。

 

 狐耳ということは当然、あります。

 それはもう、存在感をありありに示しています。


「……あの、背中の方に手を回してください」

「要望が多いの……ちと、待たれよ。む?む……」

「……えーっと」

「なんじゃこれは……琴ちゃんや。鏡は持っているかの」

「あっ、スマホなら……はい」


 金山さんも自分の姿に違和感を持ったようですね。不思議そうに首をかしげています。

 なので私は自分のスマホを取り出し、カメラを起動した状態で手渡しました。インカメモードです。


 そのスマホを受取った金山さん。彼……じゃない、彼女はしばらくの静寂の後、目を丸くして黙りこくってしまいました。


「……な、なんじゃ……なんじゃこれは……?」

「……あー……なんなんでしょうね」

「琴ちゃんが説明できないとなれば、誰がするんじゃ……」


 そこにいたのは……狐耳を伸ばした、大きな金色の尾を生やした幼女でした。

 ちなみに尾の先端はまるで墨を付けた筆のように黒くなっています。頭頂部も微かに黒みがかったグラデーションを生み出していました。

 

 ……えっと、理解が追い付きません。


 現代日本で最もありえない姿になってしまいました。

 いや、ありえない訳じゃないんですけど。コスプレという概念では存在していますし。一応存在はしています。自然です。多分。


 脳内で必死に自分を納得させるように言い聞かせている最中です。


「……琴、どうしたのか、し、ら……」


 恵那斗が慎重に瓦礫の山を登ってきました。

 私の隣に立った後、彼もぎょっとした表情で黙りこくってしまいました。


 金山さんを自称する金髪狐耳幼女は、元気のない表情でこちらを見てきます。


「……のぅ。お前さんは、儂が金山 米治じゃと……信じてくれるよのぅ?」

「……っ」

「恵那斗君や……?」


 恵那斗が顔を背けてしまいました。

 その表情の意味を探る為、私は恵那斗の顔を覗き込みます。


「……ふふっ」

「笑ってるし……」


 恵那斗、完全に笑っちゃってました。

 こら、失礼ですよ。


 笑いを噛み殺したまま、恵那斗は呟きました。


「……正解、来たわね。んふっ……ふ……」

「んぐっ」


 “正解”。

 その言葉に私までツボに入りました。


「んぐ……ふふっ、けふっ、ちょ、ちょっと、恵那斗。やめてよ……ふふっ」


 正解と言われれば、それはそうなんですけど……本人の前でやめてもらって良いですか。

 私まで笑っちゃったじゃないですか。


 金山さん本人は「儂、そんな不細工かのぅ……」とか見当違いな感想を述べていました。

 あの、そうじゃないんですよ。

 可愛い女の子です。


 そこは間違いありません。紛れもなく可愛い女の子ですよ。

 狐耳の。


 口調からしても、多分この姿が正解だと思います。

 だから恵那斗、笑うのを止めてください。


「のぅ、お主ら。儂の何が面白いのじゃ?」

「ご、ごめんなさい。金山さんは何も悪くな……ふふっ」

「失礼じゃと思うがのぅ……」


 狐耳幼女と化した金山さんは、不安そうに俯いてしまいました。

 ご、ごめんなさい。



 ちなみに、そんな金山さんの姿を見たゆあちーの反応はというと。


「わあーーーー!!!!可愛い!!可愛い可愛いっ!!」

「の、のぅ……由愛ちゃんや。儂を撫でまわすのは止めんか、ええいっ。やめいっ」

「なにこれ!どうなってるの!!もふもふ!!」

「のぅ……琴ちゃんや。助けてくれんか……」


 と、ひどくお気に召していました。

 まるで扱いがペットです。


 にしても、ゆあちーも金と黒のメッシュヘアなので……なんというか、色合いが似通っていますね。2人とも。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 以前に「もしかしてのじゃロリになっちゃう?」とか書いてましたが、まさかけも耳まで追加してくるとは……ダンジョンめ、業の深いやつよ! 見た目はVtube○黎明期にキズ○アイさん達と…
口調が伏線だったとは……www
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