表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/119

第115話 孤立する原因

「琴ちゃん」

「はい」


 麻衣ちゃんは記録する手を止めて、冷ややかに私を睨んできました。

 うう、生理中でもないのにお腹が痛いです。用を足させてください……駄目ですか?


 しばらく間を置いてから、麻衣ちゃんは額を押さえました。

 些細な仕草全てが私を責めている気がして、胃が痛くなります。キリキリ。


「……はあ」

「ううっ」

「琴ちゃん……結構、色々と大事な情報隠してるでしょ?ほら、出してもらっていいかなぁ~……」

「な、ないよ……?」

「嘘はいけないなぁー。ジャンプしてみよっか」


 まるでカツアゲです。

 恐らくジャンプは言葉のあやでしょうが、少し場の空気から逃げ出したいので馬鹿正直に飛び跳ねてみます。麻衣ちゃんが「ぶっ」と耳を赤くして吹き出しちゃいました。私の勝ちです。


 でも……多分、これ以上隠している情報はないはず、ですよ。


 ……あっ、でも1つだけ言っていない話がありました。

 これは私だけかもしれないのですが。


「……これはね、多分関係ないと思うんだけど」

「そう言うの良いから、言ってみて?」

「怖いよ麻衣ちゃん……えっとね。最近、夢の中で男性だった頃の私が出てくるの。正確に言えば、若かった頃の田中 琴男がね」

「……田中大先生が、琴ちゃんの夢の中に?」

「まるで別人かのように言ってるけど、同一人物だからね?」


 麻衣ちゃんの中でやはり、“女性化の呪い”に掛かる前の私と別人として扱われているような気がします。

 そんなに中身違わないはずなんですけどね、おかしいですっ。


 ほら、優秀な冒険者である田中 琴男の魂はここに眠っていますよっ。

 ……当時の映像とか、全く残っていないので証明のしようがないんですけどね。


「ほら、私。田中 琴男の運転免許証持ってたじゃん。同一人物だよ、同一人物」

「どこからどう見ても、借りパクしたようにしか見えないんだよねぇ……。髪染めてるようにしか見えないし、最初はオヤジ狩りでもしたのかと思ったよ」

「不良でもないんだけど!!」

 

 あんまりな扱いじゃないですか!?

 そう言えば、お酒を買おうとした時にコンビニの店員さんにもそんな扱い受けた記憶ありますね。お父さんの免許証拝借して酒買いに来た不良の娘、とかじゃないんですけど。


 ……ちなみに、恵那斗も外見的には軽い男に見えちゃうので、傍から見たら不良カップルに見えちゃうらしいんですよね。


 外見的な話もあり、ゆあちーからは「あんまり目立つ行動は止めてね」とやんわりと諭されています。

 私達は、割とゆあちーに助けられているところが多いです。

 

 あ、そう言えば免許証で思い出したんですけど。

 田中 琴男の免許証はついに返納しました。催促されたので。


 まあ催促してきたのは恵那斗ですが。

 私のいい加減さを知っている彼は、半ば強制的に私を引きずり出して、管轄の警察署へと免許返納に連れていきました。傍からの視線が怖かったです。

 

 ……補導対象じゃないです。

 悪いことはしてないですもん。少なくとも人間相手には。

 魔物に対する法律が無くて良かったです。


 

 ……こほん。

 何でいつも本題から逸れるんですかね。

 これぞ琴ちゃんクオリティ。えっへん。


「えっとね。夢の中で出てくる田中 琴男がね、いっつも偉そうなこと言ってくるの」

「偉そうなこと?」

「なんだっけなー。“ここは男の琴男が消えようとしている時に訪れる場所”だったかな。なんかムカついたから股間蹴り飛ばしたんだけど」

「……琴ちゃん、自分自身にまでそんなことしてるの……?」

「別に琴男がどうなろうが私には関係ないし」

「酷すぎる……」


 琴男が舐めたこと言うから悪いんです。自分には厳しく行きましょう。


「……琴……」


 あれ?恵那斗が引きつった笑みを浮かべて、股ぐらを抑えて離れてしまいました。

 いや、恵那斗にはやらないですよ?変なことしない限りは。


 ……ですがそんな恵那斗の姿を見ていると、ちょっとだけ悪戯(いたずら)心が湧いちゃいました。

 少しだけ、右足を後ろに引いてみます。


「恵那斗」

「ひゅっ」

「……いや、しないよ。大丈夫大丈夫」

「そ、そうね。琴ならやりかねないと思った私が悪かったわ」

「私、そんな信用ない?」


 そう問いかけると、恵那斗はもとより、ゆあちーも麻衣ちゃんも全力で頷いていました。

 ……あれ?

 

 というか、“琴ならやりかねない”は失礼ですよっ!

 私そんな無茶苦茶やるような冒険者に見えますか!?……見えますかそうですか……。


 ですが、その話を聞いても恵那斗は「うーん」と不思議そうに腕を組んで首をかしげるのみです。


「私は、過去の自分が出てきたことは……うん。ないわね……」

「そっか。私は、もう3回もね、夢の中に出てきてるんだ。だから、ちょっとある可能性が脳裏に出てきてさ」

「ある可能性?」


 恵那斗が私の言葉を反芻してきました。

 その問いかけに、私はコクリと頷きます。


 この間、明言こそ避けましたが。

 “女性化の呪い”に対する私の考察です。

 

「“女性化の呪い”を受けて今の身体になった訳だけどさ。元の身体……田中 琴男の身体って、実は世界のどこかに……残っているんじゃないかなって」

「……さすがにそれは、荒唐無稽過ぎないかしら」

「まあ、可能性のひとつとして聞いて欲しいな。希望的観測ってのは否定しないし」

「確かに、どういう原理でこの身体になったのか、って理屈は説明できないわね……」

「でしょ。ダンジョンに取り込まれた死骸って、どこに行くのか、分かってないのもあるから」


 異災から30年の月日が経った今でも、ダンジョンという存在がどうして死骸を取り込むのか、という現象については解明されていません。


 実験の一環として、遠隔操作型のカメラを意図的にダンジョンに取り込ませる実験だって、実施されたこともあるんですよね。

 ですが、結果は「No signal」という表示のみ。カメラが破損したことによって電波が届かなくなった、という結論に至りました。

 

 現時点で判明していることと言えば。

 ダンジョンも何かしらのエネルギー源を欲している。

 そして、そのエネルギー源となるのが人間や魔物の死骸なのではないか。現時点ではそう結論付けられています。


 ダンジョンを構築する石畳などは、破壊したとしても、時間が経てば元の形に戻っていますし。

 木々を伐採しても翌日には元の姿に戻っているという事実に、当初の人々は驚愕したものです。


 ですから仮に“琴ちゃんキャノン”で階層まるまるぶっ飛ばしたとしても、しばらくすれば元の形に戻っているんですね。やってみたいなー。


 ダンジョンと言えば、魔物の生態も疑問ですね。

 例えばゴブリンには雌雄が存在しないどころか、生殖器さえありません。実際にこの目で確認しました。

 

 ……あっ、確認したのは男性時代に、ですよ?今この身体でやろうと思ったら、皆に全力で止められちゃいます。


 本当に、ダンジョンに関しては分からないことばかりです。

 私もそのモデルケースのひとつなので、解明できるところは徹底的にしていきたいですね。



 個人的には、金山さんのケースが非常に気になるところです。

 もしかすると、新しい事実を拾うことができるかもしれませんので。


 本当に金山さんが協力的で助かりました。

 

 そんな思いを胸中で描いている最中、三上パパはタバコを吸い終わったのでしょうか。のんびりとプレハブ小屋に戻ってきました。ちょっとだけスーツがタバコ臭いです。私はお酒こそ飲みますが、タバコは吸ったことが無いんですよね。


「よォ。どうだ、金山さんの様子はよ」

「順調に進んでいますね。ゴブリンキングが現れるようになったので、最上階は近いと思います」


 その問いに答えたのは麻衣ちゃんです。ゆあちーが繋いでくれているダンジョン攻略の様子を映し出したビデオ通話を見ながら、質問に答えました。


「……はえェな」


  麻衣ちゃんから答えを聞いたパパは、目を見開いてそう呟きました。私も早いと思います。


 ちなみに金山さんは左手にスマホを持ったままダンジョン攻略を行っているようです。……実質、右手だけで魔物と戦闘しているという事実が怖いですね。

 私の知る中で、ダントツで化け物冒険者です。金山さんは。


 かつての私が、激戦を繰り広げて倒したようなゴブリンキングでさえ、金山さんはすり抜ける一閃で撃破してしまいます。

 もうこの人だけで良いんじゃないでしょうか。

 あ、魔石を回収せずに行っちゃった。勿体ないです。


 穏やかそうな雰囲気を放っていますが、何気に戦闘狂ですねこのおじいさん。

 そりゃ死のうと思っても死ねないものです。なんだか納得しました。


「皆揃っとるかのぅ」

「あっ、金山さん」


 そんな時、金山さんがゆあちーのスマホ越しに話しかけてきました。

 彼の声に反応した私達は、ビデオ通話へと視線を向けます。ちょうど巨大なドラゴンと対峙している最中でした。


 そのドラゴンは全身から紫電を走らせています。

 ん?電気を駆け巡らせるドラゴンなんて見たこと無いんですけど。


 まさかこのドラゴン、特殊個体じゃないですか?

 

「もうすぐ最上階に着くはずじゃ、皆にも伝達してくれんか」

「いや、その前にそのドラゴン何ですk」

「ああ、咆哮がうるさくて聞こえにくいかの?すまんのぅ」

「いやそうじゃなくt」

「ちと待っておれ。“身体強化”」


 人の話を聞かないですねこのおじいちゃんは!!!!

 

 金山さんは淡々とそう詠唱したかと思うと、勢いよく跳躍したのでしょうね。加速する地面の光景だけが映し出されます。


「グルァアアアアアアア!!!!」

「ほいっ」

「ガッ……!?」


 一体何をしたのか分かりませんが、ドラゴンのくぐもった悲鳴のような音が響きました。

 それから、次の瞬間には轟音が響きました。


 土煙が舞い上がる中、再び金山さんの音が聞こえました。


「……で、琴ちゃんや。何を聞こうとしてたんじゃ?」

「あー……なんでもありません」

「ふむ?そうか。もうしばらく待っておれ、花宮さんにも頼むぞ」

「……」


 ……多分、あのドラゴン。私も初めて見たので、恐らく特殊個体です。

 ドラゴンは基本、体内に貯蔵したガスを点火させることによって灼熱を放ってくるような魔物です。基本的には灼熱の吐息を用いた遠距離攻撃と、その頑丈な肉体でステータスの暴力をしてくるような戦い方をしてきます。

 その全身に紫電が迸る個体というのは、どんな文献にも無かったはずです。全身の筋肉が雷によって不随意運動を引き起こすので、本来のドラゴンなら相性が悪いはずなんですよね。


 ……まあ、もう金山さんがさっさと倒してしまったので、確認のしようが無くなりましたが。

 いくら強くても、魔石やドロップアイテムが納品できなければ意味がないです。

 


 ……思うところは多いです。

 ですが、私は何も言いません。うん。


 「そういうのが、ギルド内で孤立する原因では……?」なんて、口が裂けても言えません。琴ちゃんは賢いのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ