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第114話 厄災

 今、私達はダンジョンへとつながる、廃れた商店街の通路を抜けていました。


 スプレーで落書きされたシャッターは閉ざされています。長年の月日が経ち、風化してしまっているのでしょう。くすんだ埃がシャッターに付着し、汚れを生み出していました。

 アスファルトの地面はひび割れ、力強く芽吹いた草花が伸びています。

 

 明らかに人の管理が行き届いていない証拠ですね。現に、ダンジョンへと向かうまでに誰ともすれ違いませんでした。 

 そんな周囲の景色を見渡しながら、恵那斗は私へと話しかけてきました。


「琴、改めて聞いておきたいのだけど……」

「ん?どうしたの。恵那斗」


 今更、改まって何を確認したいのでしょうか。

 恵那斗は私をじっと見つめてきます。……ちょっと恥ずかしいんですけど。あの、ドキッとするのでほどほどにしてください。


「この男性の姿となった私を見て、琴はどう思ったのかしら?」

「……本当に、今更な質問だね」

「琴と同じ立場になることを優先したものだから……あなたから見た私は、どう見えた?」

「……うん」


 最近は、特に“自分が周りからどう見られるか”ということを考える機会が増えましたね。

 これまで意識してこなかった問題なだけに、真剣に向き合わざるを得ない話です。


 私は、小さな手で恵那斗の大きな手を握ります。今となっては、真逆の大きさになってしまいました。

 恵那斗の逞しい男子の手が、私の手を包み込みます。


 もう一度、心臓がドキリと高鳴ります。

 

「まあ、そりゃそうだって話だけど。当然、私は恵那斗が……恵那だって、信じることが出来なかったよ」

「そうね。まさか、琴に他人行儀をされるとは思っていなかったわ」

「だってー……無理だって。でも、恵那斗だってそうでしょ、私がいきなりこんな姿になってさ」


 私は自分の姿を見せつけるように、恵那斗の前で軽く身体を捻ってみます。

 すると、恵那斗はくすりと柔らかい笑みを浮かべました。

 

「……ふふ。懐かしいわね……こんな可愛らしい女の子が、いきなり家に入ってきたと思ったら、平然と晩酌しているんだもの。頭がおかしくなりそうだったわ」

「きゃわっ……まあ、反省してるよホント。恵那斗が家出て行っちゃった時、結構困ったんだからね」

「聞いたわよ。鈴田君の彼女さんに散々お世話になったみたいね」

「今でも時々連絡くれるけどね。また今度、鈴田君と3人でご飯食べてくるよ」


 今となっては懐かしい、過去の話を語り合います。

 

「……えいっ!」

 

 それから私は、ふと思い立ったので恵那斗の左腕に抱き着きました。


 その拍子に、恵那斗の身体は魔毒苔でも食べたかのようにピタリと硬直。「ちょっと……!?」と動揺したように、顔を真っ赤にします。

 変態発言をする割に、案外免疫が無いんですよね。男子中学生みたいです。

 まあ、私だって似たような感じかも知れませんが。


「うん、変わったことばっかりだったな。むしろ、変わってないものを探す方が大変だったくらい」

「……本当にね?」

「ちょっとくらい否定してくれても良いんだよ?」

「今更出来るわけないわよ」

「むー……」


 そうやって会話している合間に、脳内に思い浮かぶのはソロで攻略している金山さんの姿です。

 ソロでダンジョン攻略を行う冒険者というのは、私や恵那斗もそうですが……何かしら、欠落を抱えた人物ばかりです。


 恵那斗——柊 恵那は、外見こそ完璧そうに見えますが。実のところ目的の為なら手段を選ばない、危なっかしいところはあります。元々他人に対する警戒心が強く、常に周りの人達と距離を取るような冒険者でした。


 ギルドに入りたての頃なんか、本当に誰も信じていなかったようですね。

 まあ私は、恵那がギルド加入の挨拶をしている時、普通にダンジョンに籠っていたので……実際に見た訳ではありませんが。



 私は……もう否定のしようがありませんね。

 ダンジョンの中で命を散らそうとしていたんです。その過程に、誰も巻き込みたくなくて、ずっと一人で生きていました。

 恵那が私を見つけていなかったら、今頃どうなっていたでしょうね。

 


 金山さんだってそうですよ。今でこそ、ゆあちーとパーティを組んでいますが……一時期は、ソロで延々と戦っていた冒険者でした。

 彼一人でありとあらゆる困難を乗り越えてしまうような手練れですから、パーティを組めるような人材というのは限られてきます。かといって、ギルドに大きく貢献するような動きを好むわけでもない。

 彼もまた、未だに生きることの意味を理解していないのかもしれません。


 

 さて、色々と考えることが多いので頭がパンクしそうです。

 とりあえず一つずつ消化していかないといけませんね。


 ----


 さて、本題に入りましょう。

 今回、金山さんがソロで攻略を行っているダンジョンは、私が“女性化の呪い”を受けたダンジョンと構造が似通っています。

 大規模の塔型ダンジョンです。

 

 おおよそ50階層から成り立つそのダンジョンは、ある程度戦闘技術に精通した冒険者でなければ攻略を任せることはできないですね。

 

 まあ、金山さんなら心配ないでしょう。

 実力は……見ていれば分かりますよ。


「ゆあちー、お疲れ様」

「ことちーーーーっ!!おつかれーーーーっ!!」

「むきゅーーーー!?」


 ダンジョン隣に併設された、臨時で作られたプレハブ小屋。その中にいたゆあちーに声をかけた瞬間、唐突に飛びつかれました。

 私はゆあちーの飛びつき攻撃を防ぐことが出来ず、大人しく受け入れることしかできません。あー……身体がぽかぽかする……。


 ちなみにダンジョン外ですので、ステータスの恩恵はありません。

 それでも私がゆあちーを引きはがせないのは、元々の身体能力に差があるからです。


 私はどっちかというと文化部タイプなので……。


 ちなみにプレハブ小屋の中には、ゆあちーの他に麻衣ちゃんも居ました。ですが彼女は会話に参加するでもなく、金山さんが送ってくれたデータを食い入るように見ていますね。


 あ、パパはプレハブ小屋の外でタバコ吸ってました。定期的におじさんムーブしますね三上パパ。おじさんだけど。

 

 

 私はひとまずゆあちーに離れてもらい、次に麻衣ちゃんの隣に立ちました。

 麻衣ちゃんは“ステータス推移”という表題を記した用紙に、時刻と攻略階層……それからステータスの推移について経時的に記録を残しています。

 すごく丁寧な仕事ぶりです。

 

「麻衣ちゃん、状況は?」

「金山さん。ダンジョン攻略早いねぇ~……もう75%超えたところ」

「早いね。今日中には終わりそう?」

「うん。多分、あと2~3時間くらいで終わるんじゃないかな?特殊個体もほぼ一撃で倒してるみたいだし」

「……さすがというか、だなあ……」


 さすが金山さん、向かうところ敵なしと言ったところです。

 ゆあちーのスマホを介してビデオ通話を繋いでくれているので、そこで金山さんの戦闘状況を確認することが出来ます。


 私も、皆と同様にスマホを覗き込むことにしました。



 ----


「ギギ……ッ!!」


 金山さんが相対したのは、ゴブリンメイジとゴブリンナイト2体の組み合わせでした。

 前衛と後衛、という私達冒険者の構成を模したような組み合わせで成り立つゴブリン共ですが、案外馬鹿に出来ないんですよね。


「——ギッ」


 後衛として立っているゴブリンメイジは、その手に持った魔法杖を金山さんへと向けました。私達も使用している“炎弾”を発動しようとしているようです。真紅の文字で構築された魔法陣が、ゴブリンメイジの足元に形成されていきます。


 私達が日々の生活で使用している“魔法”についてですが。

 魔法というのは、こうしたダンジョン内で発見された魔物が用いているものがベースとなっています。

 なので魔法の呼称というのは私達が勝手に命名したものに過ぎません。


 そんな“炎弾”を構築しようとしているゴブリンメイジ。そんな魔物へと、いつの間にか金山さんはその身を滑り込ませていました。


「隙だらけじゃよ」

「ギッ……!?」

「ほいっ」


 金山さんは“治癒魔法”を付与させた刀で袈裟斬りを放ち、ゴブリンメイジの胴を一刀両断しました。

 ゴブリンメイジは、断末魔すら零すことなく絶命します。


 それから咄嗟の事態に反応できなかった前衛のゴブリンナイトへと、金山さんはゴブリンメイジの切り落とした上半身を投げ飛ばします。


「ほれ、目くらましじゃ」

「ギギッ——!?」

「あまり皆を待たせるのも悪いからのぅ」


 一切の無駄もありませんね。流れるような動作で、次から次に敵対するゴブリン共を斬り払っていきます。

 ゴブリンの反応が追い付いた時には、既に金山さんの刀が振るわれている。戦況を操作しつつ優雅に立ち回る金山さんには、どのような魔物も勝つことが出来ません。



 ----


「本当に、おじいちゃん……すごいなあ」


 ビデオ通話を見ていたゆあちーは、そう感嘆とした声を上げました。

 まさしく向かうところ敵なし、を体現したような実力です。心配の余地さえ与えません。末恐ろしい冒険者です。


 私達が出来るのは、ただ経過を見守ることくらいですね。

 

 ビデオ通話を見ていると、黎明期の冒険者間で行われたダンジョン配信を思い出します。

 

 

 いつぞやに話したかもしれませんが、冒険者の成り立ちというのはダンジョン配信からです。人々の応援の言葉が魔力となり、配信者に力を与えていたんですね。

 つまり、何かしらの人々の意思が、現代で言うところのMPに変換されたのでしょう。


 当時は“スパチャブースト”という合言葉が用いられていました。スパチャというのは応援を分かりやすく形にしてくれるシステムでしたからね。

 言葉の力というのは侮れないものです。

 

 ですが正直、ダンジョン配信の仕組みは衰退して正解だったと思います。

 文化の流行り廃りに左右されるような戦い方なんて、基本的にはご法度ですから。

 

 やはり合理性には勝てません。

 

 ……別に、ダンジョン配信そのものを否定するわけではありませんけどね。

 一応、琴ちゃんは擁護しておきます。


 

 -

 --

 ---

 ----


 そう言えば、私は今回金山さんがソロで攻略しているダンジョンの情報を一切知りませんでした。

 なので、麻衣ちゃんが記録を整理するのに集中している間、“ダンジョン調査書”を確認することにします。

 

 人数分コピーされているので、麻衣ちゃんの仕事を邪魔することはありません。

 なので私は恵那斗と一緒に、金山さんが攻略している最中のダンジョンに関する情報を確認します。

 

 特に確かめたいのは、最上階に登場する予定のボスモンスターの種族についてです。

 という訳で、ダンジョン調査書からボスモンスターの名称について流し読みします。


「ここの最上階ボスは白狐(びゃっこ)……か」


 そこには“白狐”という名前が記されていました。神に使える狐……でしょうか。


 そんな資料を見ていると、自分が“女性化の呪い”に掛かったダンジョンの内容を思い出しますね。 


「私の場合は天使系の魔物だったな。確か……メ、メタ……なんとか」

「メタトロン、かしら?」

「そう、それっ!」

「自分が戦う予定だった魔物くらい覚えてなさいよ……」

「えへへ」


 正直、天使系の魔物って名前がややこしくて覚えられないんですよね。

 そんな話をしていると、恵那斗も自らが戦う予定だった魔物について語り始めました。


「私が潜ったところは確か……ワーウルフ、だったかしら。結局戦うことは無かったけれど」

「戦うことがないのは同じかー……あっ、そう言えば聞くの忘れてた」


 私はそこで言葉を区切り、恵那斗に質問を投げかけます。


「恵那斗、“男性化の呪い”に掛かる前、何か謎の声聞いたりした?“よくぞここまで辿り着きました人の子よ”……みたいなこと言われたんだけど」


 その問いかけに、恵那斗は首を傾げます。

 ですがしばらく間を置いてから「あっ」と声を上げました。


「何か声を聞いた気がするわ。確か……“待っていたぞ。勇気ある者よ。そなたに厄災を乗り越える力を授けん”だったかしら」

「厄災?」

「うろ覚えだから、これで合っている自信もないけれどね。そんなことを言っていた気がするわ」

「ふーん……」


 私達がそう雑談を繰り広げている最中でした。


「……琴ちゃん?」

「ひうっ」


 突然、麻衣ちゃんの冷え切った声が、私の背後をぐさぐさと突き刺してきました。

 背筋が凍るような気分となりながらも、恐る恐る麻衣ちゃんの方へと振り返ります。


 麻衣ちゃんは笑顔を浮かべていました。


 もう、それはにっこにこでした。

 圧の籠った笑顔です。怖い。

 

「……な、なに?」

「2人して……なんでそんな大事な情報、隠してたのかなぁ~?」

「……わ、忘れてた」

「ちょっと」

「ごめん……」


 そう言えば“喋る魔物”について質問された時、「ない」って答えちゃった記憶がありますね。

 ……えへへ。

 魔物という括りから外れていたので、完全に報告するのを忘れていました。

 田中夫妻共々ごめんなさい。

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