第108話 おおきなゴーレム
ダンジョンというのは、基本的に5階層区切りなんですよね。
そう言えば説明した記憶がないので、改めて説明しておきます。
ダンジョンというのは、5階層毎にワープゾーン?が作られます。
正式名称は“魔窟内転移魔法陣”とかいうらしいですが。長ったらしいので覚えなくて良いですよ。私もちゃんと覚えていません。しばらくすると忘れて違う名称で話してるかもしれません。
……なので、いちいち倒したボスモンスターと再戦しなければ奥に行くことが出来ない、ということはありません。便利ですね。ローグライク式ではないというのは、非常に助かります。安定した魔石の供給という面でも非常に。
そういう仕組みもあるので、基本的には冒険者パーティごとに担当する階層が分けられていることが多いです。ギルドの方針にもよるでしょうが……。
ちなみにゆあちーとおじいちゃんは、低階層担当です。現役女子高生と高齢者ですもんね。無理はさせられない2人です。
ただ、ここ最近は“特殊個体”という冒険者トレンドがありますので、よりややこしくなりました。
現時点での最優先討伐事項は「ボスモンスター<特殊個体」です。特殊個体から手に入る素材をベースに、研究を進めなくてはならないので。
また生活の利便性が向上するような発明品だって生まれるかもですし。
という訳で、私の活動は非常にギルドへと貢献できるんですよね。
さあ、今日もやるぞ。レッツ解剖☆
……と言いたいのですが、色々と課題があります。
その課題を話し合う為、私達6人はダンジョンの1階層、安全地帯の中に作られた会議室へと訪れました。
ダンジョン内には、ある程度魔物が出現する場所というのが決まっています。そして、出現しない箇所は安全地帯として、基本的に改修工事がされたりしていますね。
ちょっとした余談ですが、黎明期でも安全地帯の改修工事自体は何度もされていました。
ですが、“魔素の含まない物体はダンジョンに取り込まれる”という仕様を知らない企業が無理矢理介入することもあったんですね。まあ、ダンジョンビジネスの一環です。
当然、一般の資材で作られた安全地帯は、ものの見事にダンジョンへと取り込まれます。その都度改修工事をしなければいけないので、ギルドとしては大赤字ですよね。
なので安全地帯の改修工事に携わる業者には、ダンジョンに関する知識を持っているのが望ましいとされています。“魔窟建築技師”なんて資格も出来ちゃいましたし。まあ、ライセンス化するのが手っ取り早いと思います。
……という話はどうでも良いですね。すみません。
ちなみに会議室と言ってもそんなに広い空間ではありません。ギルド内の面談室くらいの規模です。私と恵那斗の住む、マンションの一室くらいの広さとも言えます。
6人入ると、ちょっと密度が気になるくらいですね。
話し合いを取り仕切るのは、全日本冒険者協会の職員である麻衣ちゃんです。まあ、今後の冒険者活動に影響する調査を実施している側ですから、司会を担うのは当然ですね。
「えっとね、“ボスモンスターの特殊個体化”は、私も初めて見ました。調査を兼ねて、琴ちゃんに解剖を任せたいけど……出来そう?」
麻衣ちゃんは全面的に私の技術に信頼を置いてくれていますね。ですけど……。
この質問に関しては、私はNOと言わざるを得ません。なので、大人しく首を横に振りました。長い銀髪が頬を叩きます。
「んー、ごめん。私もさすがにあれは1人じゃ無理。魔法耐性まであると……」
「だよねぇ……じゃあ、やっぱり研究機関に送ろっか」
「むぅ~……悔しいなあ。ステータスが足りない……」
ゴーレムの体が硬すぎるんですよね。私も昔、ゴーレムの身体がどうなっているのか気になって、解剖を試みたことはありますが……まあ、削っても削ってもガッチガチの肉体なんです。
超人体質、って概念に近いんですかね。密度の高い筋肉が出てくるのみで、楽しくなかったです。
その時は“魔素放出”を使った、魔法面からのアプローチが出来たんですけどね。魔法耐性まであると……無理です。
なので、専用の機材が揃っていて、魔物の調査を専門とする機関に送るのが手っ取り早いでしょうね。
出来ない部分は素直に認める、琴ちゃんの教訓です。
ですが、それはそれです。
「あのっ、麻衣ちゃん。“レッドスライム”の特殊個体解剖は、私にさせてもらっても良い?」
「ん?あ、別に良いけど……そっちはサンプル向こうに行ってるはずだし」
「やったあ!!ありがとうー!!」
ゴーレムは解剖しても楽しくなかった記憶があるので、余裕であげますよっ。私が欲しいのはこっちですっ。
という訳で、いざ解剖だ!そういきこんで会議室を後にしようとしたのですが……。
「ちょっと待てや琴きゅんよォ」
「むきゅ!?」
むんずと三上パパに首根っこを掴まれてしまいました。
なんですか、皆して私の楽しみ奪って。
「なんですかパパ。私の楽しみを邪魔しないで下さいよっ」
「解剖を楽しみって言うなよお前……ってそういう話じゃねェだろうが」
「むー、なんですか?」
一体パパは何が気に食わないのでしょう。
そう疑問に感じ、首をかしげていたのですが。
パパが気にしている部分は、案外シンプルなものでした。
「琴きゅん、お前よォ……今回の攻略でよ、“アイテムボックス”に魔物どんだけ格納した?」
「……えっと……」
そう言えば、今回の探索でいっぱい魔物を格納しましたね。
前回、恵那斗とパパと3人で攻略した時に格納した、特殊個体の水ゴブリンもまだ解剖していません。
記憶してるだけで、マーダーラビット、ミミック2体、特殊個体のレッドスライム、特殊個体のゴーレム……。
……えーっと、その他ゴブリンいっぱいと、ダークゴブリンと……。
「……いっぱい!!」
「お前の解剖に付き合ってたら日が暮れるわ」
「うぐっ」
ぐうの音も出ない正論を言われました。
今回のダンジョン攻略だって、パパの運転で来てるんですよね。さすがに長時間待ちぼうけさせる訳には行きません。
社会人は時間に追われるので嫌になっちゃいますね。
スマホでシフトを確認してみると、明日は内勤の予定となっていました。つまり、ダンジョン攻略の記録をしなければならない日です。一番嫌いな日です。
何が嫌かって、どんな武器を使って、どんな魔法を用いたか。その攻略方法をなるべく正確に書かないといけないところです。
こんなところでも“無詠唱魔法”のデメリットが目立ちます。当人からすればもはや身体に馴染んでいる魔法なだけに、いちいちそれを書面に起こさなければいけないという手間が増えます。
詠唱していれば「あ、このタイミングでこの魔法使ったな」とか判断できるんですけどね。
嫌でしょ。
「ゴブリン4体、ダークゴブリンと邂逅。“琴ちゃんキャノン”を用いてダークゴブリン含む4体を殲滅。残り1体は爆風の余波を受け、壁面に衝突。その後、生命活動の停止を確認する」みたいな記録が残るの。
オリジナル魔法は書面としては不適切なので、正式名称の“炎弾”として書き記さなければいけません。めんどくさい。
あの。無詠唱魔法ってすごいことなんですよ。
「馬鹿な……無詠唱で……!?」ってチヤホヤと崇められるべき存在だと思うんですよ。どうしてこんな世知辛いんですかね。
琴ちゃんは褒められたいです。承認欲求を高めたいんです。
ぶっちゃけ、私の魔法は説明が一番めんどくさいです。
“アイテムボックス”を用いて、“炎弾”を転送。対象となる箇所へと着弾させる技術……なんて、文面で書くと長ったらしいです。
“琴ちゃんサテライト”を正式名称にしませんか?
駄目ですか。うーん……。
にしても、シフトのことを突っ込まれると何にも言えませんね。
仕方がありません。今日は大人しく必要最低限の解剖に留めるとしましょう。
早いところ情報が欲しいであろう“合体レッドスライム”の情報を、私なりに分析してみるとしましょうか。現場視点からの知識って結構貴重ですもん。
水ゴブリンは……どれがどれなのか分からなくなりました。今度、全部バラバラにしようと思います。死骸になればみんな一緒。
という訳で、修練場に行きますよっ。おーっ!
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「ひっ。あー……はい。修練場ですね、どうぞこちらへ」
私を見た瞬間、ダンジョンの受付を行っていた職員がぎくりと目を丸くしました。
名札には“佐々木”と書かれていました。あれ?もしかして少し前に潜ったダンジョンにいましたか?お久しぶりです。
そんな佐々木さんは私を見るなり、「化け物を見た」みたいな顔を浮かべました。頬は引きつり、やや重心が後ろに下がってます。
それから修練場へと案内した後、さっさと逃げ出してしまいました。
なんですか人を怪異扱いして。失礼ですよ。
……まあ、いっか。本題はそこにないですもんね。
「はい、麻衣ちゃんこれあげる」
「あっ、うん」
まるで友達間の物々交換のノリで、“アイテムボックス”を発動させました。広々としたスペースに、特殊個体のゴーレムを出現させます。
「……あれ?落ちてこないな」
ですが、“アイテムボックス”内で引っかかっているのでしょうか?上手く取り出すことが出来ません。
ゴブリン程度の魔物であれば、”アイテムボックス”に腕を突っ込んで引っ張り出すところですが……さすがに、ゴーレムがいきなり落ちてきたら私が潰されちゃいます。
という訳で、後方から腕を組んで見守っていた、恵那斗に助けを求めました。
「恵那斗ぉー……」
「はいはい」
もう、私が何を言わずとも恵那斗は理解してくれますね。
伊達に長年共に過ごしていません。そういうところ好きですよ。
ちょっと変態でも目を瞑ります。
そんな恵那斗は腰に携えていた蛇腹剣を引き抜き、静かに唱えました。
「“魔素放出”」
そのいつもの合言葉と同時に、蛇腹剣が分離。ワイヤーが伸びていきます。
と言っても、今回の用途は攻撃ではありません。
「こんな扱いさせるの、琴くらいのものだわ」
恵那斗はそうぼやきながら、蛇腹剣の先端を慎重に“アイテムボックス”へと差し込みました。なんというか、あれみたいです。縫い針に糸を通すようなやつ。
“アイテムボックス”の中に蛇腹剣の先端を差し込んだ恵那斗は、慎重にワイヤーを操作します。
それから、「来た」と静かに呟きました。
「……引っ張り出すわよ」
身体を後方に引き、勢いよく引っ張ります。
うんとこしょ。どっこいしょ。
それでもゴーレムは抜けません。
「“身体強化”っ!頑張って、恵那斗さん」
ゆあちーは恵那斗に“身体強化”を掛けてくれました。
うんとこしょ。どっこいしょ。
それでもゴーレムは抜けません。
「ふーむ。手足はこの辺りかいの。ほれ」
金山さんは“アイテムボックス”内に腕を差し込んだ後、“治癒魔法”を付与させた日本刀を突っ込みました。危ないですよ。
“アイテムボックス”内からゴーレムの四肢が落ちてきました。どすんと、重い音が響きます。
うんとこしょ。どっこいしょ。
それでもゴーレムは抜けません。
「……仕方ないわね」
恵那斗はさすがに埒が明かないと判断したのでしょう。
唯一熟練度を高めている魔法、“睡眠魔法”を応用した技術を披露してきました。
ちょっと、こんなところで奥の手使わないで下さいよ。もっとドラマチックな場面まで置いてくれませんか。
そんな私の胸中は届きません。
「――“リミッター”を眠らせる」
そう、恵那斗は呟きました。
まさかこんなところでお披露目とは思いませんでしたが、これが恵那斗の切り札です。
対象となる相手を眠らせる“睡眠魔法”ですが、それほど効く魔物は多くありません。
というのも、生態的にほとんど眠りにつかない魔物というのも多いからです。
眠るという習性が身についていない生き物に対し、睡眠を付与することは効果的ではありません。
ゴーレムだって、基本的に眠らない魔物ですからね。
そして、警戒心の強い上層部の魔物ほど“睡眠魔法”の効果は浅くなります。
そうなれば、“睡眠魔法”は会得するだけ無駄ということになるでしょう。
恵那斗——柊 恵那は、そうなることを嫌いました。
何か用途を見出せないか、私に相談を持ち掛けてきたんですよね。
そこで私が編み出した方法が、「リミッターを眠らせる」という技法です。
漫画などの多くのメディア媒体で聞くことが多い話ですが……人間には“火事場の馬鹿力”という機能が備わっています。普段は身体を壊さない程度に制御される脳のリミッターが、非常時においては解除されるという話ですね。
アドレナリンだの、ドーパミンだの分泌物が大きく影響してきますが、その辺りを説明するとめんどくさいので全部端折ります。
どれくらいの規模になるかは個人差があると思いますが……、恐らく恵那斗も理性によって全力をコントロールしている側ですよね。
そんな人物のリミッターを解き放てば、どうなるでしょうか。
「っあああああっ!!」
恵那斗は自らのリミッターを解き放ちました。
大きく声を上げながら、全身の筋肉という筋肉に力を籠めます。
普段は飄々として、クールな雰囲気を漂わせる恵那斗ですが……この瞬間だけは、獰猛な本性を露わとします。
まるでライオンです。
こわい。
うんとこしょ。どっこいしょ。
……なんて、そんな可愛らしい掛け声で誤魔化せないほどの勢いで、蛇腹剣を引いています。
そして、ついに。
とうとうゴーレムが抜けました。
修練場に叩きつけられたゴーレムは、轟音と共に土煙を舞い上げます。5~6トンという重量を持つそれは、修練場を構築するアスファルトにめり込みました。
それを眺めていた麻衣ちゃんは、茫然と立ち尽くしています。
「……えっ。これをまた格納するの?」
さすが麻衣ちゃん。頭の回転が速いです。
皆で協力して”アイテムボックス”からゴーレムを引き抜いたのに、もう一度格納するのは嫌ですよね。
という訳で、麻衣ちゃんが”アイテムボックス”に格納する前に、金山さんに細かく斬ってもらいました。
グッジョブおじいちゃん。




