第107話 雷の刃
「さて、熱光線は通用しませんよ」
えへへっ、優位から見下すのは楽しいですね~~~~!!!!遠距離攻撃は“琴ちゃんリフレクション”で完封して見せますよっ。
……でも、最初に“アイテムボックス”で防いだ熱光線は、排出出来なかったんですよね。
どうやら、“アイテムボックス”の中に貯留は出来ないようです。後で麻衣ちゃんに実験手伝ってもらおうかな。仕様調査したいなー。
にしても自らの必殺技であるはずの“広範囲殲滅光線”ですか?次弾装填まで掛かる時間を馬鹿正直に教えてくれるのは、随分とありがたいものです。
正しく琴ちゃん魔法のチュートリアル、と言ったところですね。
ちょうど良い機会なので、色々と実験に付き合ってもらいましょう。
全身ローションでぐちょぐちょになったゴーレムさんっ♪
まず、せっかく足元を奪ったのですっころんでもらいましょう。ちょこちょこと動かれては試せるものも試せません。
私の隣に立った恵那斗に、ちらりと目配せします。
「恵那斗、ゴーレムを転ばせてくれないかな」
「琴、無茶振りが好きね……“エンチャント:光”」
呆れたようにため息をつきながらも要望に応えてくれるのは、さすがと言ったところです。そう言う気配りの出来る彼氏はポイントが高いですよ。うんうん。
ため息交じりに唱えた属性付与魔法によって、恵那斗が持つ蛇腹剣に光が纏い始めました。
その光は質量をもち始め、微かな風圧を生み出します。押し出されるような圧を生み出した光をコントロールしつつ、恵那斗は一気に大地を蹴り上げました。
軽快な足音を奏でながら、恵那斗は蛇腹剣を振るいます。
「はあっ!!」
まずは、体重を乗せた一突きを喰らわせました。ゴーレムはその突撃に怯み、ぐらりとバランスを崩します。しかし、すんでのところでぐっと立ち止まり、何とか耐えて見せました。
ゴーレムにとって計算外だったのは、恵那斗の猛攻はそれっきりではなかったということでしょうか。
突きを与えた姿勢から、そのまま勢い良く身体を捻ります。
「放てっ、“魔素放出”っ!!」
ひらりと身体を捻った勢いのまま、そう静かに詠唱しました。
なんで詠唱までカッコいいんですか。ずるい。私もやりたい。
蛇腹剣が恵那斗の想いに応えるように分離し、再びワイヤーが伸びていきます。遠心力を兼ね合わせた一撃を、恵那斗は勢いよく叩き込みました。
「せあっ!!」
「ギギ……被害、甚大。損傷個所、修復シークエンス……移行マデ……ギギッ!」
ワイヤーのしなる勢いに任せて振るった一撃を、さすがにゴーレムは耐えきることが出来ませんでした。機械的な音声を繰り返している最中、無様にもローションで塗りたくられた地面の中に激しく転倒します。
ちなみに飛び散ったローションは、恵那斗の手や顔面に付着しました。
少しだけげんなりとした表情を浮かべながらも、素早く後退します。
「……なんだか、アレみたいね」
「ん?」
「なんでもないわ」
肌に付着したローションを触りながら、そうぽつりと呟きました。
ですが何の話をしているか分からないのと、あんまり意味を理解してはいけない気がしてスルーしました。
まあ、それはさておき。
ローションの上でバタバタと動き回るゴーレムを眺めるのは楽しいですね。両手をジタバタと動かしながら、暴れ回っています。
芸人みたい。
もはや勝利は確実なのですが、もう少しだけ遊ばせてください。
一連の戦いを遠巻きに見ていた金山さんに、ちらりと視線を送ります。
彼は特殊個体のゴーレムを興味深そうに、じっと見つめている最中でした。
「金山さん」
「ん?儂かいのぅ」
「ゴーレムの手足を斬り落としてもらって良いですか?」
「さらっと怖いことを言うもんじゃないわい……」
金山さんは呆れたようにため息をつきました。
私が何か言うと皆ため息つくんですけど、何なんですかね。別にそこまで変なこと言ってないもん。私は悪くないです。
ですが、一応要望には従ってくれるようです。
私達の中で一番切断能力に長ける技量を持つのが、金山さんしかいないので。
琴ちゃんはメンバー全員のスペックを把握しています。
偉いでしょ。ふふんっ。
私の要望に応えて、金山さんは腰に携えた鞘から刀を引き抜きました。
すらりと伸びた刀身が、白銀に輝きます。やっぱり良いですよね、日本刀。カッコイイです。
ですが、次の瞬間。
白銀に輝く日本刀に、淡い緑色の光が纏い始めました。
……ん?
「“治癒魔法”、ですか?」
「一目見て把握するとは、さすが琴ちゃんじゃのぅ」
「治癒魔法を重ね合わせた斬撃って、何か面白い効果があるんですか?」
やっぱりそうですよね。
金山さんは刀に“治癒魔法”を付与しているようです。なんだかおもしろいことをしようとしていますね。
こういう真新しいものを見る時は、真っ向から否定してはいけません。ロマンを追求する上での基本です。
ですが、金山さんはそんな刀で、静かに暴れ回るゴーレムの腕目掛けて刃を沿わせました。
動作で言えば、かなりスローです。例えるなら、野菜をスライスするような速度ですね。
——そんな速度で、ゴーレムの腕が切り落とされました。
「……へ?」
「ギギッ、ガガッ……損傷率、増加。ギギッ」
「うるさいです」
あの、特殊個体ゴーレムさんは話に割って入ってこないでください。うるさいです。
せっかく金山さんから面白い話が聞けそうなのに。
ムカついたので琴ちゃんウェポン(仮名称)を触媒として“アイテムボックス”を生み出し、顔面を圧迫してやりました。
さすがにぶん殴られたくないので近寄りません。安全管理大事です。
「ギギギギギギギ……」
と壊れた玩具みたいな音が鳴り響きます。おもろっ。
金山さんは治癒魔法の応用を語る前に、ちらりとゆあちーへと視線を送ります。
「最近の琴ちゃんは、こんな物騒なのかのぅ……?」
「むしろ私の知ることちーは、これがデフォルトだよ」
「……時間というのは、残酷よのぅ」
あのっ、何ですか。言いたいことがあるなら言ってくださいよっ。あっ、パパまで微妙な表情しないで。
やれやれ、と言わんばかりに、金山さんにもう一度ため息をつかれました。それから、“治癒魔法”を付与した刀を見せつけながら、解説を始めます。
「琴ちゃんや。“治癒魔法”の解説をしてみなさい」
「ん?傷ついた組織を、魔法で作った疑似細胞で補う……でしたよね」
「即答とは、さすがじゃの。それじゃあ、質問じゃ。正常な細胞目掛けて、過剰に“治癒魔法”を付与した場合……どうなるかの?」
「え、意味がない……んじゃ?だって、元ある細胞の上から疑似細胞を重ね合わせたところで……あっ!!」
元ある細胞の上から、“治癒魔法”で生み出した疑似細胞を重ね合わせる。
なるほど、金山さんの言いたいことが理解できてきました。
それを証明するように、金山さんはゴーレムの身体を構築する石レンガを引きはがします。ここは単純にステータスが高いからこそできる芸当ですね。
「ゴーレムと言えども、中身は所詮生命体に過ぎん。石レンガという鎧で覆われているだけじゃ」
「なるほど、生きている細胞へと、更に疑似細胞をねじ込むことで……!!」
「琴ちゃんは呑み込みが早いのぅ。そういうことじゃ、生きた細胞が圧迫されることによっての……」
そう語りながら、金山さんは刀をゴーレムへと突き立てました。
口(らしき箇所)は私が“アイテムボックス”で塞いでいるので、モガモガとくぐもった声しか届きません。可哀想に。誰がこんなことを。
金山さんが刀を突き立てた個所から、ボロボロとゴーレムの身体が崩れ落ちていきます。
「……組織が自壊するんじゃよ。これが、儂なりの“治癒魔法”を使った戦い方じゃ」
「おおーーーー!!!!」
何だかカッコいい!!ファンタジーっぽい!!
治癒魔法にそんな面白い使い方があったなんて!!ズルい、ズルいですよ!!なんで誰も教えてくれなかったんですか!!
ですが、ロマンなら負けませんよ。
「待って、私もやるっ。少し面白い必殺技を見せたいんですよっ」
「お主はボス戦をなんじゃと思ってるんじゃ……」
私にだって譲れないロマンがあるんですよっ。
なんだかおまけ感が強いですが、ちょっとくらい実験させてくださいっ。
「“魔素放出”っ!」
私はもはや抵抗する気力さえ失ったのか、あるいは酸素欠乏で窒息したのか……ぴくりとも動かなくなったゴーレムへと歩みを進めながら、そう唱えました。
巧みに操作する高濃度の魔素が、私の全身に纏わりつきます。
相も変わらず私の身体を強化する高濃度の魔素が、白銀のオーラとなって形になりました。
ですが、金山さんは「ちょっと待ち」と私の楽しみを遮ってきました。
「ちょいちょい、琴ちゃんや」
「なんですかっ?」
むっ、なんですか。楽しみを邪魔しおって。
空気読んでくださいっ。
内心不服でしたが、金山さんが気になったのは少し違うポイントだったようです。
決してロマンを邪魔したい訳じゃないみたいです。
「毎回、魔素を全身に纏わせているのかいのぅ?」
「ん?そうですけど」
「……必要なところだけで、良くないかの?」
「あ」
「お主とずっと前に共闘した時から思っておったが……非効率じゃよ、それは……」
金山さんは「ようやく言えた」とばかりに頷いていました。
……至極真っ当の指摘を受けた気がします。
この“魔素放出”を会得したのだって、だいたい20代前半の頃です。
当時は属性付与魔法が開拓されたこともあって、皆こぞって「自分の属性」を見つけ出すのに躍起となっていました。
ですが、何となく流行りに乗るのが面白くなくって。私は独自に強化魔法を生み出したいな、と思って作り出したのがこの“魔素放出”の応用という訳です。
ぶっちゃけ、“身体強化”で良いと言えば良いです。
“魔素放出”に頼る理由なんて、何一つないんですよ。
でもなんかロマンあるじゃないですか!!
無駄な、回りくどい方法にこそロマンを見出したいんですよ私は。
という訳で、ずっと魔素を全身に纏わせる方法で運用していた訳なのですが。
確かに、既存のやり方を変えるというのもありかも知れません。
何なら、“魔素放出”だって……多分、無詠唱でも使えるんですよね。
でも何となく、口に出した方がカッコ良くないですか?詠唱しながら覚醒、って映えませんか?
金山さんの指摘をヒントとして、色々と思考が駆け巡ります。
「……なるほど。必要なところだけ、ですね」
「む?」
「ヒントをありがとうございます、金山さん」
私の後ろで「あーあー琴ちゃんにおもちゃ与えちゃった……」と麻衣ちゃんが苦笑いしていました。おもちゃって言わないで下さいよ。
一旦、私は“魔素放出”を止めました。イメージとしては、固まっていた魔素を大気中に逃すようなイメージです。風船の空気を外に逃がすような感じですね。
すると、私を中心として纏っていた白銀のオーラが大気中へと霧散します。MPを無駄にした気がしないでもないですが。
それから、琴ちゃんウェポン(仮名称)を垂直に掲げて、静かに上下に引き抜きました。銀色の刃がギラリと覗きます。
そうなんですよね。“魔素放出”を使って、必要な部分にだけ魔素を纏わせれば良いんです。
琴ちゃんウェポン(仮名称)に付属した属性石。これは、高濃度の魔素を纏わせることによって、属性を発現させることができます。
例えば私専用に作って貰ったそれで言えば、雷属性ですね。バチバチと迸る稲妻がカッコいいです。
元の素材は雷ゴブリン。如何なる時もゴブリンが脳裏をよぎるのはご愛敬です。
「琴ちゃん魔法……いや、琴ちゃんスペシャルですね、これは」
「……すぺしゃる?」
「今からこのゴーレムを叩き斬ります。見ていてくださいよ」
「はあ」
金山さんは反応に困り果てたのでしょうか、適当に相槌をするだけになっちゃいました。
狙うは、もはやダミーとなり果てた特殊個体のゴーレムです。
私は仕込み刀となっている琴ちゃんウェポンを、剣モードに切り替えました。ロングソードの形をした刃が、ギラリと光ります。
その刀身へと、高濃度の魔素を纏わせます。“魔素放出”によって、白銀のオーラが刃の先から放たれました。無詠唱でやってみたんですけど、いけました。
やがて属性石は、高濃度の魔素に呼応します。白銀のオーラに重なるように、紫電が迸ります。
来ましたっ。雷の刃ですっ。
高濃度の魔素をなぞるように、紫電が伝播した結果……雷の刃が、そこには生み出されていました。
これぞ、琴ちゃんの専用装備。属性石を用いた、新たな新時代の開拓ですっ。
出でよロマン砲!ぶっ放しますよっ!!
「行きますよっ!!“琴ちゃんスラッシュ”!!!!」
私はそう嬉々と叫びながら、雷の刃を振り下ろしました。
迸る紫電が、特殊個体ゴーレムに瞬く間に伝播します。機械じみた身体には、特に電気が効くようですね。全身をビクビクと震わせながら、水蒸気の煙を巻き上げます。
「ギギッ、ガガガッ……身体、損sy……」
「もう良いですって。それは」
「ギギギギギ……!!」
悲鳴じみたゴーレムの声が響きます。
ですがそんな断末魔もどきの機械音なんて、どうでも良いです。さっさと倒して、しかるべき研究機関へとゴーレムの死骸でも転送してしまいましょう。
“琴ちゃんスラッシュ”を何度もたたきつけながら、私はそんなことを考えていました。
ばしーん。ばしーん。
「……ん?あっ、動かなくなってる」
知らない間に、特殊個体のゴーレムは死んじゃってました。壊れてた、という方が正しいのでしょうか?
ボス戦がこんな終わり方で良かったのでしょうか。
まあいっか。すっきりしました。
この後にお待ちかねの解剖タイムが待っているんですから。ほら、早く帰りますよ。今回は素材が山盛りです。わーいっ♪
本当はもうちょっとバチバチの戦闘描写組もうと思ってたんですけど、琴ちゃんが炎弾を50個くらい重ね出したあたりで止めました。なんだこいつ。(作者)
あと予約投稿日ミスって1月14日に設定してたことに起きてから気付きました。すみません。( ˙꒳˙ )




