第106話 広範囲殲滅光線
「脅威、認識。広範囲殲滅光線、再装填マデ——アト5%」
「魔物らしく、馬鹿正直で助かりますよ」
ボスモンスターと言えば、自らの根城を荒らす輩どもを追い払う役割を持った、いわばガーディアンとしての役割を担っています。
最近シフトの被っていない鈴田君。彼とパーティを組んだ時に戦ったガーゴイルもそうでしたが、ボスモンスターというのは一般の魔物よりもやはり手強いですね。
黎明期基準だと、だいたい15レベルくらいでなんとか倒せるくらいです。
魔物討伐が業務の一環となった現代においては、高レベル冒険者がぼこぼこにすることが多いですけどね。仕事中にドラマ性なんていりませんし。納品できたか、出来なかったか、という結果だけが全てです。
あまりにも薄情な現実ですが、そんなものです。
入職した新人冒険者が辞めてしまうのは、大体そんな現実に直面した時ですね。やはり取引先に魔石を提供するという契約を結んでいる以上、納品を怠ってはいけません。その為に冒険者間でコミュニケーションを取りつつ、円滑に魔石を納品できるように業務を調整する。
ギルドというのは、冒険者単体で成り立つものではありません。人事部が居て、営業部が居て、技術部が居て、連絡班が居て、色々な人材が互いに連携し合うことによって成り立つ存在なんです。
ここ最近は誰かの助けを借りないと生きていけなくなったので、そう言ったことを意識する機会も増えました。
昔の私は、周りの声なんてほとんど無視してダンジョンに籠りっきりでしたから。
「パパっ!敵の気を引いて!」
「はいよ。ったく人使いが荒いなァうちの琴きゅんはよォ!!」
私が声をかけると、三上パパは悪態を吐きながら両手に装備した金色のブレスレットに力を込めました。すると、ブレスレットに光の粒子が纏わりつき、やがて変形していきます。
それは鋭利な武具——手甲鉤へと変形しました。クロ―と言った方が伝わりやすいですかね。……どっちでも良いか。
三上パパは、ステータスで言えば“身体加速”がダントツで高いです。
私のお得意技である“魔素放出”を使ったオーラ放出にも匹敵する速度じゃないですかね。
そんなパパはぐっと身体を低く屈めたかと思うと、影の如く姿をくらませました。
かと思うと、次の瞬間にはゴーレムの懐に潜り込んでいました。
「っだらァ!!喧嘩はなァ、強ェ方がモテんだよッ!!」
「それ前も聞きましたよ。というかゆあちー居るんですよ?」
思わず悪態を吐きました。
ですが、その間にも三上パパは両手に装備した手甲鉤を駆使して、鋭く連撃を放ちます。
身体を幾度も捻らせ、ゴーレムの石レンガで出来た強固な身体に傷をつけていきます。
ですが、浅い。
「対象、変更。迎撃スル」
「ちっ。もうちっとリアクションしてくれてもいいじゃねェかよ……っと!」
パパはどうにも攻撃的なところがありますね。
連撃を浴びせることに集中しすぎて、ゴーレムが右腕をゆっくりと持ち上げていることにも気づきません。迎撃されかけてますっ。
このままではパパが可哀想なことになってしまいます。特殊個体のスペックは分かりませんが……ゆあちーの前例を思い返すに、大ダメージは逃れられないでしょう。
中年おじさんは言っても聞かないところがありますし、麻衣ちゃんに任せましょう。
「麻衣ちゃん、駄目パパのフォローよろしくね」
「まあ、うん。人事部が酷使されてるねぇ……」
麻衣ちゃんに視線を送ると、ボソッとツッコミを入れてきました。
冒険者を派遣する役割のパパが、逆に派遣されてるのってちょっと面白いですよね。
まあ、冒険者目線に立つことができるというのは、実際……人事部としては必要なスペックではありますが。
現場視点、大事です。
さて、そんな優秀な人事部のパパを傷つけさせるわけにはいきません。
麻衣ちゃんとて、見た目からは想像もつきませんが全日本冒険者協会の職員です。
私が20代前半の頃に、後輩として入って来た……れっきとしたベテラン冒険者の1人「琴ちゃん?」……いえ何でもありません。麻衣ちゃんは可愛い可愛い冒険者です。あの、だから冷めた目で睨まないでください。ほら、戦闘に集中して。
「三上さん、琴ちゃんの無茶振りに付き合ってねぇ……」
麻衣ちゃんは呆れたようにため息をつきながらも、手に持った高級魔法杖の先端を持ち上げました。青く、淡い光が魔玉を中心として放出。伝播します。
やがて青い光は、ゴーレムが振り下ろそうとした右手へと纏わりつきました。ですが、完全に停止させるには至らなかったようです。
「……うーん。やっぱり効き目が薄いね、なんでだろ」
「ギッ……動作不良、探知。駆動速度再構築、計算中——」
「っ、わ。三上さんっ!早く避けてっ!!」
麻衣ちゃんの慌てた声で、ようやく三上パパは気づいたようです。眼前に近づいていたゴーレムの拳に、ぎょっとしたように目を丸くしました。
「おわっ!!っぶね!!」
「パパ!!周り見てくださいよっ!!」
「琴きゅんにだけは言われたくねェっ!!」
パパは素早くバックステップし、そのゴーレムが振り下ろす鉄槌の軌跡から逃れます。その動きを確認した麻衣ちゃんは、“時間魔法”を再度唱えました。
対象は、今にも地面にたたきつけられようとしているゴーレムの右腕目掛けてです。
「少し、埋まってもらうからねぇ~」
今度は、高級魔法杖から橙色の光が放出されました。どうやら、ゴーレムが振り下ろした鉄槌の速度を急加速させたようです。
「——ッ。動作、急加速。制御不可……!!」
勢いよく地面を穿つ鉄槌は、激しく土煙を巻き上げます。ゴーレムもどうやら、自信が振り下ろす鉄槌の速度が急に早くなるとは思っていなかったのでしょう。バランスを崩したようで、前のめりに傾いていました。
まさか、“時間魔法”をそのように使うとは思いませんでした。
麻衣ちゃんにちらりと視線を向けると、彼女は困ったような笑みを浮かべます。
「琴ちゃんがね、由愛ちゃんのハンマー持ち上げた時。急に重さが変わってコントロールできなくなってたでしょ?あんな感じで感覚狂わされたら……コントロールできなくなるんじゃないかってねぇ」
「……なるほど。面白い発想だね」
「琴ちゃんに感化されたのかも、ねっ。“氷弾”!」
そう答えつつも、麻衣ちゃんは改めて魔法を詠唱。“魔法攻撃”の高ステータスに任せた、バカでかい氷の弾丸を形成していきます。
まるでそれは、巨大な氷柱を横倒しにしたような形でした。
私の魔法も大概ですが、麻衣ちゃんも結構火力に振った魔法使ってますよね。なのに私より鮮やかに使いこなしているのは何なんでしょう。日頃の行いですか?
「いっ……けぇっ!!」
魔法陣を構築し、“氷弾”を発射する時の反動ダメージを軽減。その上で、麻衣ちゃんは勢いよく“氷弾”を発射させました。
ソニックブームを生み出したそれは、土煙を巻き起こしながらゴーレムへと襲い掛かります。
麻衣ちゃんが放った“氷弾”(というよりもはや氷塊ですが)は、ものの見事にゴーレムへと直撃しました。
元来のゴーレムであれば、魔法耐性に乏しいこともあり、簡単に倒せる魔物であるはずです。
ですが。
「ダメージ、軽微。修復活動ニ移行シマス」
特殊個体のゴーレムはどうやら魔法耐性もしっかりしているようですね。
ゴーレムの強固な身体に阻まれた氷塊は、ボロボロと砕けていきます。氷の欠片と化したそれは、地面にたたきつけられた後、光の粒子となって消えました。
「っ、魔法耐性あるの!?ズルくない!?」
あまりにも無敵すぎて、麻衣ちゃんが苛立った声を上げました。
「……手強いね」
「あー……もう、ストレス溜まるなぁ……」
麻衣ちゃんは帽子を深くかぶり直し、「ちっ」と舌打ちしました。仕事が忙しいのも相まって、荒んでますね。
三上パパと言い、管理に携わっている2人の口が悪いです。今度2人を労ってあげるとしましょう。
しかし。やはり、隙がありませんね。
ですが……無いなら、隙を作ればいいのです。
ここで私が用意したアレが役に立ちますね。恵那斗が取っておこうとしたアレです。
私ばかり悪目立ちしてますけど、恵那斗も大概問題児ですからね?
「恵那斗っ。砕いて!」
「任せな、さいっ!」
私は“アイテムボックス”をゴーレムの足元目掛けて生み出しました。“排出”の機能に絞って、中に格納させていたローションをぼとぼとと落としていきます。
相当に絵面としては酷いのですが、戦術のひとつなので許してほしいです。相手の選択肢を割くのは、戦闘の基本なので。
いくつもゴーレムの足元に転がり落ちたローション。
それを確認した後、恵那斗は蛇腹剣を強く握りながら魔法を唱えます。
「“魔素放出”」
そう唱えると共に、恵那斗が持つ蛇腹剣がゆっくりと分離します。
それは彼女の指示に従う忠実な生命体の如く。うねりを伴った状態で、ワイヤーが浮かび上がりました。ワイヤーに繋がれた、うろこ状の刃が光に照らされます。
まるで蛇のように纏わりついた蛇腹剣を、恵那斗は勢いよく振るいました。
「はっ!」
毅然とした声が響きます。
その勢いに伴って、鞭のようにしなるワイヤーが、地面に転がったローションを砕いていきます。
絵面が酷いですが、大事な戦術です。
やがて、ぬめりを帯びたローションが、べたべたとゴーレムの身体を汚していきます。ゴーレムの足元は完全に潤滑剤に囲まれました。
「……勿体ない」
「恵那斗?」
「何でもないわ」
今明らかにボソッと何か呟いていましたよね。
まあ、気にしないでおきましょう。
麻衣ちゃんに守られる形で下がっていたゆあちーが、冷ややかな目で恵那斗を見ていました。
「……恵那斗さん……」
「さて。足元を奪ったわよ」
あっ、今明らかにゆあちーを無視しました。
まるで「由愛さんが何を言ったのか聞こえなかったわ」とでも言いたげに、ゴーレムに視線を送っています。
何度も言いますが、ゴーレム戦の最中の琴ちゃんはローションの用途を理解していません。
なので、恵那斗が何を勿体なさそうにしているのか、当時の私は理解していませんでした。
知りたくなかったな―……。
それはともかく、ゴーレムの周囲をローションで埋め尽くしたことによって機動力を奪いました。
ぬめぬめのゴーレムとか、どこに需要があるんでしょう。
最初こそ「必要なら戦闘に参加するよ」と言っていたゆあちーも、ぬめぬめのゴーレムを見て「あれをハンマーで殴りたくないな」と意見を変えていました。
まあ、ゆあちーはあんまり戦闘に参加しなくても良いよ。怪我人ですし。
さて、地面に深く入り込んだ腕をようやく引き抜いたゴーレムですが。忌々しげに私達を睨んでいます。
出来れば、大振りの攻撃をして欲しいところですが……どうやら、今はそれどころではないようです。
「広範囲殲滅光線、再装填完了」
「来たっ!!皆、私の後ろに下がって!!試したいことあるから!!」
おっ!!いよいよ来ましたか、極太ビーム!!
あれを見た瞬間から、琴ちゃんのインスピレーションが止まらなかったんですよ!!
私が嬉々としてそう叫ぶものですから、全員急いで私の背後に隠れました。
「琴ちゃんや。一体何を試そうというのかい?」
「見てからのお楽しみです!」
「ふむぅ。まあ、期待しとるよ」
私の隣に立った金山さんは、何をしようとしているのか興味深いのでしょうね。長く伸びた白くなった顎髭を触りながら、その様子を見届けます。
まあ、私のお仲間候補ですもんね。新しい戦術とは、変化した環境から生まれるものです。
“女性化の呪い”が無ければ、“琴ちゃん魔法”だって生まれませんでしたから。
その間にも、ゴーレムは右腕を私達の方向へと突き出していました。
先ほどは予備動作を見る余裕もありませんでしたが——どうやら、右腕が砲口の役割をしているようです。右腕が変形したかと思うと、そこには核熱によって橙色に照らされた空洞がありました。ロマンある―!
「広範囲殲滅光線——発射シークエンスに移行」
「いつでも、どうぞっ!!」
私がそう叫ぶのと、ほぼ同時でした。
右腕から露出した砲口が唸りを上げたかと思うと、その中から橙色に照らされた、巨大な熱光線が発射されました。極太ビームです。キタコレ。
もちろんそれを予想していたので、私は魔法杖を構えて叫びます。
「……“琴ちゃん魔法シリーズ”第5弾——」
そう呟きながら発現させたのは、2つの“アイテムボックス”。
1つは、私達を守る盾として、巨大な“アイテムボックス”を顕現させました。
用途は“格納”です。
そして、もう1つ権限させた“アイテムボックス”。
“排出”の役割を付与した“アイテムボックス”は——ゴーレムの頭上へと、設置しました。
はい。
“琴ちゃんサテライト”の応用です。
復唱してみましょう。
せーのっ。
「“琴ちゃんリフレクション”っっっ!!!!」
そう叫ぶと同時に、“アイテムボックス”に格納された熱光線。それは、ゴーレムの頭上に顕現したもう一つの“アイテムボックス”から排出されました。
排出された熱光線は、激しい熱風を生み出しつつもゴーレムへと着弾。魔法耐性こそあるでしょうが、さすがにダメージ0とはいかないようで大きくよろけました。
まさか自分自身が放った極太ビームが、そのまま自分に返ってくるとは思わなかったのでしょうね。
「ガッ……想定外ノ損傷……再計算……再計算……」
大きく怯んだかと思えば、ぐらりと傾きます。
チャンスですっ。いけいけごーごー!!
あわよくば、私に必殺技を出させてくださいっ。カッコ付けたいです!!




