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第103話 頼って欲しい

 正直、最初は恵那斗……ううん。柊 恵那のこと、嫌いだったんですよ。


「……はぁ。気が乗らねぇ、どーして俺が、お前と戦わなきゃいけねーんだ」

「嫌われるようなことしたかしら。それなら謝るけど……」

「どーせちやほやされようって算段だろうが。気に入らねぇ」

「……偏見ね。あなたは自分の価値観でしか、ものを見られないのね」

「説教かよ。くだらないな」

「少しは他人に好かれる努力をしたらどう?」

「お前に向けてする努力なんかねーよ」


 ルックスに優れ、飄々とした立ち振る舞いで周りを圧倒する人格。冒険者なんて危険な場所に身を置かずとも、それなりに良い生活を送ることだって出来るはずなのに。

 それなのに。

 こんな世界に身を落とそうとすることが、私には許せませんでした。


 だからといって、他人の行動に私が口を挟めるほど出来た人間ではありません。

 それは重々分かっていました。

 

 私だって、自暴自棄の果てに冒険者を続けているような人間です。

 ずっと、閉じこもっていたかったんです。自分だけの戦いに、他人を巻き込むなんてしたくなかった。

 なのに。なのになのになのに……。


「田中 琴男。あなたの隣に、私は立ちたい」

「……来るな。これは俺の問題だ、俺だけの戦いなんだ」

「本当に、優しい人ね……あなたは。少しくらい、他人を頼って欲しいものだわ」

「……出来る訳、ねえだろうが」


 他人を頼って欲しい。

 ずっと、昔から彼女に言われていた言葉です。


 何度も教えてくれていたのに、私は未だに他人を頼るのが下手くそです。


 

 ----



 “琴ちゃんキャノン”によって、瓦礫の山が形成されていました。焼け焦げた大理石が、荒んだ戦場を作り出しています。

 私達田中夫妻が相対するは、特殊個体であるレッドスライムが融合した姿。合体レッドスライムです。


 その巨大の体躯は、物理特化であるはずのゆあちーを瞬く間に戦闘不能にしてしまいました。

 もう少し私が早く、戦線復帰できていたら怪我させることもなかったのでしょうか。


 ……本当に、不甲斐ないです。

 

  

「”琴ちゃんレーザー”っ!!」


 "琴ちゃんキャノン"は直撃を許したというのに。麻衣ちゃんが放った”氷弾”を、合体レッドスライムは身体を器用に動かすことによって回避しました。

 回避する、というのは「受ける」とは異なる意味合いを持っています。


 つまり、直撃を受けることを“脅威”と判断したということですね。

 

 

 ……“氷弾”を使える、麻衣ちゃんに任せた方が正解でしたかね?これ。

 

 でも恵那斗と麻衣ちゃんが並ぶの、なんかやだな。

 ……乙女心ってやつですかね。むう……。


 

 そんな胸中の中でぶっ放した“琴ちゃんレーザー”。もはや邪念を抱きながら放てるようになっちゃっていました。

 鋭く収束した熱光線と化した“炎弾”は、大気を穿つ勢いで合体レッドスライムの核へと襲い掛かります。


「ピィッ!」


 案の定、私が放った“琴ちゃんレーザー”を毛嫌いしてきましたね。身体を捩らせつつ、ひび割れた大理石の上を這いつくばりながら素早く移動。熱光線の軌跡から懸命に逃げようとします。

 やはり貫通性能の高い攻撃は避ける傾向にあるようです。ゆあちーの打撃は普通に受けていましたし。

 

 なので、“琴ちゃんレーザー”の放射を止めた後、彼氏へと視線を向けて叫びました。

 

「……っと!恵那斗!!」


 私の呼びかけに応えるように、恵那斗はくすりと微笑みます。


「ようやく、頼ってくれるようになったわ、ねっ!“魔素放出”!!」


 恵那斗は私の呼びかけに応えるように微笑み、蛇腹剣を振るいます。その薙いだ勢いによって、蛇腹剣のワイヤーが無数の線を作り出しました。

 それは縦横無尽に立体的な軌道を描きつつ、合体レッドスライムへと襲い掛かります。

 鋭い切っ先は瞬く間に、合体レッドスライムのジェル状の身体を切り裂きました。


「ピッ、ピィィッ……!」

「要は核を露出させればいいってことね。逃がさないわ」


 ここ最近作って貰ったばかりの装備だというのに、もう使いこなしているんですね。恵那斗が蛇腹剣を振るう度にワイヤーがしなり、無数の斬撃が合体レッドスライムへと襲い掛かります。

 斬撃に伴い、ジェル状の身体が辺り一帯に飛散。内側に秘めていた核を露出させていきます。


 大部分は未だジェル状の肉体に覆われていますが、よく見れば微かに核が外界に触れている箇所が見えます。

 

 それを確認した後、私は姿勢を正しました。射撃の反動に耐えられるように、腰を屈め、前傾姿勢を取ります。

 琴ちゃんウェポン(仮名称)を構えながら、私は大声で宣言します。


「第3弾っ!!“琴ちゃんサテライト”っ!!」


 私はそうオリジナル魔法を宣言すると同時に、2つの“アイテムボックス”を出現させました。

 1つは私の目の前に。

 もう1つは、合体レッドスライムの核が露出している箇所に向けて。


 私の目の前に配置した“アイテムボックス”へと目掛けて、私は“琴ちゃんレーザー”を発射しました。

 鋭く解き放たれた熱光線は、一直線に“アイテムボックス”へと格納。それから、合体レッドスライムのいる側へと瞬時に「排出」されます。


 恵那斗が放った連撃によって、十分な身動きを取ることが出来なかった合体レッドスライム。むき出しとなった核目掛けて、一直線に熱光線が襲い掛かりました。


「ピィッ……!!」

「当たったっ!」


 抵抗さえ出来なかった合体レッドスライム。核を穿たれ、激しく身体を震わせます。

 必死に攻撃の手から逃れようとしますが、それを恵那斗は許しません。


「逃がすわけ、ないでしょう?“炎弾”」


 私の“琴ちゃんレーザー”に重ね合わせるように、恵那斗はそう詠唱しました。空いた左手を突き出し、“炎弾”を放射します。

 鋭く唸る、紅蓮の炎が勢いのままに合体レッドスライムへと着弾しました。


 恵那斗、なんでも覚えていますね?万能彼氏です。

 

「ピィイイイイ……ッ!!」


 可愛らしい断末魔が響きます。

 徐々に動きは鈍くなり、決着の時間が近づきました。


 正直言えば、オリジナルの必殺技を思いついているのでとどめがてら、実践したいところです。


「……ねえ、恵那斗。とどめは私が……」

「ダメ」

「……むー……」

「後で他の魔物を使って試しなさい?」

「ぶーっ」


 試したいことがあったんですけどね。恵那斗に止められてしまいました。

 せっかく強敵と出会ったんですから、“属性石”の効果を存分に発揮した必殺技を発動させたかったです。


「……ことちー、空気読んで」

「ごめん」

 

 大ダメージを受けて、安静にしているゆあちーにも突っ込まれてしまいました。ポーションを飲むのが遅くなってごめんなさい。

 

 まあ、ゆあちーがぼこぼこにされちゃったので仕方ないですよね。

 また相性の良さそうな相手が現れた時にでも試しましょう。


「恵那斗ー、もう倒してー……」

「はいはい。じゃあ、これでとどめね」


 私の要望に応えるように、恵那斗は高く蛇腹剣を掲げました。その動きに連なって、ワイヤーが一気に蛇腹剣へと収束します。

 それと同時に、恵那斗の持つ蛇腹剣に純白の光が纏い始めました。


 そう言えば、恵那斗が女性だった頃……“剣聖”と呼ばれた理由はこれでしたね。

 眩い光を纏いながら、可憐に戦う姿が美しかったんです。


「“エンチャント:光”」


 そう呟くと同時に、恵那斗が持つ蛇腹剣からより一層、光の奔流が辺りを覆いつくしました。

 放つ光と同時に、恵那斗は蛇腹剣を振り下ろします。


「はあっ!」


 大地を貫くほどの光の一閃が、合体レッドスライムの核を叩き割りました。



 -

 --

 ---

 ----


「由愛ちゃんや、ずいぶんと無茶をしたものじゃ。儂を悲しませないでおくれ……」


 私達と合流した金山さんは、心底悲しそうな表情を浮かべていました。ボロボロに傷ついたゆあちーへと左手をかざし、“治癒魔法”を発動させています。無詠唱でした。

 

「えへへ……本当に心配かけてごめん。おじいちゃん」

「由愛ちゃんが死んだら、儂はもう生きていけんわい……」

「もう。過保護だよ……でも、そう言ってくれるのは嬉しいな」


 ゆあちーに反抗期という言葉は無いんですか?素直に照れくさそうに微笑む彼女は、紛れもなく天使ですね。可愛い。

 

 

 ちなみに、治癒魔法というのは「傷ついた組織を完全に元の組織へと回復させる」という魔法ではありません。そんな魔法があろうものなら、現代における医者の仕事はとっくに奪われているでしょうね。

 「傷ついた組織を、魔法を生み出して作り出した疑似組織で補う」というメカニズムによって成り立つ魔法なんです。

 本来の生体組織ではなく、疑似組織で傷を塞いでいるのです。なので、正常な皮膚組織と比較すれば「傷つきやすい」という弱点を持っています。つまり、防御力が下がった状態となるのです。

 なので治癒魔法を受けた時点で、撤退するのをお勧めされていますね。正常な皮膚へと置き換えられるまでに長い時間を有するので。

 これ以上はゆあちーを、あんまり前線に立たせない方が良さそうです。



 ゆあちーを預かった身なので罪悪感が込み上げてきます。

 特殊個体との邂逅は、ここ最近のトレンドでもあるので気を付けてはいたんですけどね……。


「……ごめんなさい。金山さん、ゆあちー……由愛ちゃんに怖い思い、させちゃった」

「ふむぅ、確かに儂も気にかけてこそいたが……謝るのは儂にではないじゃろ」

「……っ」


 金山さんはぴしゃりとそう言い切りました。

 ……そうですよね。


 その言葉を受けて気付いた私は、胡坐を掻いて座っているゆあちーへと頭を下げました。


「ゆあちー、ごめん。怖い思いさせちゃ……」

「ことちーごめんっ!!」

「……え?」


 私が謝るより先に、ゆあちーが頭を下げてきました。

 えっ、なんで?ゆあちーが謝る道理なんてないよね?


 目を丸くして、茫然としている私へと。

 ゆあちーはいきなり立ち上がり、ぎゅっと抱き着いてきました。


「ふぇっ……?」

「ことちーも恵那斗さんも、レベル低いのに無茶させちゃった。強敵と戦うのは、私のような高レベル冒険者の仕事なのに」

「で、でも。私がちゃんと動けてたら、ゆあちーを傷つけることもなかったよ……?」

「ううん。私にだって責任はある。ことちーは実力あるから、って丸投げしすぎてた」

「そんなことっ」


 私が何か言うよりも先に、ゆあちーは私の胸元に顔を埋めてきました。びっくりして引き剥がそうとしましたが、やめました。

 ゆあちーの肩が、小さく震えていたからです。


「私、もっと強くなるよ。ことちーに頼られるような、すごい冒険者になる」

「……私、今でも十分にゆあちーのこと、頼ってるよ?」

「じゃあ、今以上にね。もっと、もっと頼って欲しいから」

「……むぅ」


 そう言って、私の胸元で顔を上げたゆあちーの目元は、涙に濡れていました。

 それでも気丈に微笑む彼女の顔は、どこか美しさすら感じますね。



(……頼る、ですか)


 最近は、「頼る」という意味をよく考えている気がしますね。

 今まで自分だけで完結していたので、何を頼れば良いのか、という部分を理解できていない気がします。


 でも、自分だけで完結するのはダメですよね。

 出来ないところは素直に頼らないと、結果的に皆を危険に晒しちゃいます。


 ただ技術だけでは通用しない問題に直面している気がします。



「ぶっちゃけよォ、花宮をもっと頼れば良かっただろうがァ」

「あっ、パパ。居たんですね」

「さすがに傷つくぞお前……」


 合体レッドスライムの死骸を調査していた、三上パパがそう話に割って入ってきました。ちなみに麻衣ちゃんも、同様に死骸を調査していますね。私達の様子が気になるのか、何度かこっちを見ていました。

 三上パパは特殊個体の調査を麻衣ちゃんに任せ、こっちへと歩み寄ってきます。


 それから、軽くげんこつを喰らいました。

 ステータスの差があるので、ほとんどソフトタッチですが。

 

「あいたっ」


 これはほぼ反射的に出ちゃった言葉です。

 

「琴きゅんはよォ、何でもかんでも自分でやろうとしすぎだろうが。もうちっと周り見ろ」

「……それも、そうですね」

「お前の言う“琴ちゃんキャノン”かァ?別に、“炎弾”ってンなら、花宮だって同じような火力出せるんだからよ、お前が全部背負う必要ねーって話よ」

「……うん」

「はぁ……しおらしくされると、やりづれェな……まあよ」

 

 そこで言葉を切ったパパは、私の肩をポンと叩きました。


「お前が周りを守りたいって思ってるようによォ、周りだってお前を守りたいって思ってんだ。そんな気持ちを(ないがし)ろにするんじゃねェぞ」

「……わかりました」 

「つーわけで、俺からも頼らせてくれ。一旦、このでけぇレッドスライムを回収すんぞ。お手軽に格納出来んの、琴きゅんだけなんよ」


 パパはどこか照れくさそうに、合体レッドスライムの死骸を見やりながらそう言いました。

 麻衣ちゃんは遠巻きに私達の様子を見ながら、苦笑いを浮かべています。


 パパもなんだかんだ不器用ですね。

 ですけど、そんな優しさが胸にしみます。


「っ、は、はいっ……!」



 任せる、ってすごく……難しいです。

 でも、これから私は。その意味と……向き合わなければいけないのかもしれません。


 もう、1人で戦っているのではないんですから。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 何処ぞの戦闘民族の王子も『守るべき存在』を得たことで結果的に昔の自分では越えられなかった壁を越える位に強くなりましたし、琴ちゃんもそういう『頼れる人と守るべき人』を増やせば更に上…
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