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第99話 琴ちゃん流ミミック対処法

「おーっ!!“アイテムボックス”が大きくなったー!!」


 出来るかな、という軽い気持ちで魔法杖を触媒として“アイテムボックス”を発動させてみたのですが、まさかサイズを大きくできるとは思いませんでした。

 結構、これは楽しいかもしれません!


 という訳で試しに“アイテムボックス”を魔法杖を介して大きくして遊んでみています。

 目の前に広がる巨大な真っ黒の空間は、まるで異世界ゲートみたいですね!


 ちょっと面白くなったので、魔物がいないことを良いことに勢いよく“アイテムボックス”の中へと飛び込んでみました。


「どーんっ!」


 すると、まるで巨大なゴムボールにぶつかったかのように、勢い良く弾かれます。


「わあっ!……なんだか楽しいなあ~……」


 生きている人間とかは格納できないので、私自身は“アイテムボックス”の中に入り込むことは出来ません。

 大体全身の30%ほど沈んだところで弾かれてしまいました。


 余談ですが、人体の体重の割合は片腕で8%、片足で15%らしいです。まあ“アイテムボックス”の中に片腕をいつも突っ込んでいるので、ある程度の許容量はありますよね。

 ダンジョン内で悪ふざけしている私に、麻衣ちゃんは呆れかえったようにため息をつきました。


「……琴ちゃん。遊びすぎだよぅ」

「んー……“アイテムボックス”って面白い魔法だなーって思ってさー、ほら。見て見て、跳ね返るの」

「発想力がある分、あんまり強く言えないのタチ悪いなあ……」


 んふふ。

 琴ちゃん魔法は発想の集大成ですよっ。既存の魔法を組み合わせたり、アレンジしたりすることで新しい使い方を見出すのが琴ちゃんです。


 ……にしても、全身の30%を超えると跳ね返る。

 そして、両下肢の重さも全体の30%ほど。


 ……閃いたかもしれません!!


「ちょっと待って、これ。使えるかも!」

「あーあーまた変なことしようとしてる……」


 ゆあちーが苦笑を漏らしながら、そう呟きました。

 魔法使い研修で散々私の練習方法とか見てましたもんね。変なこと扱いは不本意ですが!

 

 とりあえず、“アイテムボックス”を地面と平行に配置し直してみました。

 魔法杖を触媒として生み出された“アイテムボックス”は、直径2mほどの大きさを誇ります。それなりにでかいんですよね。


 人間くらいならすっぽり収まるサイズなので、早速やってみましょう。


「よっと」

「ちょっ……ことちー!?」

 

 私は何のためらいもなく、“アイテムボックス”の中へとジャンプしました。


 ゆあちーが驚きつつ私を止めようとしましたが、一歩遅かったですね。私の身体は既に“アイテムボックス”の中へと沈み込もうとしていたところでした。


 ですが。


「おっ!?」


 生きている私を“アイテムボックス”は拒絶。“アイテムボックス”から弾かれる形で、私は高く跳躍しました。

 大体、高さにして1mほど。身体能力強化の類の魔法を使わずに、これほど高く跳躍できたのは初めてです。


 そのまま私は“アイテムボックス”外にすたりと着地しました。両手を広げて、バッと。

 ステータスの恩恵があるので、着地自体は痛くありませんでした。

 

「おーっ、これすごく便利だよ!!ね、ゆあちーも跳んでみて?」

「えっ、えー……分かった」


 ゆあちーは困惑しながらも、私の指示に従って“アイテムボックス”へとジャンプ。

 すると、予想通り。私の時と同様に、1mほど高く跳躍しました。


「わっ、わあー!?」


 ですが、私の時と違い何の覚悟も出来ていなかったゆあちーは空中でバランスを崩しました。

 さすがにステータス的に大丈夫だと思いますが、怪我したら大変ですもんね。


 すぐに左手に“アイテムボックス”を作り直し、ゆあちーを受け止めました。


「よっと……大丈夫?」

「あっ、ありがとうことちー」

「ね、面白かった?」


 私は嬉々としてそう感想を尋ねてみますが、ゆあちーは微妙な表情を浮かべていました。あれ?


「私はあんまりかな……」

「えーっ……?」


 うーん、あんまり面白くなかったですかね?私はトランポリンみたいで楽しかったんですけど。

 “アイテムボックス”でトランポリンするだけで1時間くらいは時間潰せそうです。飽きたらゴブリン取り出して解剖だって出来ますし、いいことづくめですよ!!

 

「これは“琴ちゃんトランポリン”と名付けましょう!琴ちゃん魔法シリーズ第4弾ですよっ!!」

「はいはい、そういうの良いから仕事するー。ほらもうすぐ4階層なんだからねぇ」

「きゅぅ……」


 麻衣ちゃんもゆあちーも日に日に私の言動に慣れつつあるようです。もうちょっと驚かせたいんですけどねぇ、ぶーっ。

 奇行扱いされていた頃が、今となっては懐かしいです。


 ----


「やっぱこの辺りから塔型ダンジョンだな、って気分になるね」


 私は何の気も無しに、大きく背伸びしつつそう呟きました。

 どうやらこのダンジョンでは4階層から、雰囲気ががらりと変わるようです。


 辺り一面に広がるのは、石膏で作られた石柱です。神聖な雰囲気が漂う空間に加えて、崩落した瓦礫がバリケードを形成しています。

 瓦礫は飛び越えること自体は可能ですが、そうすると今度は私達が魔物に見つかりやすくなります。なので、基本的にはバリケードに沿うように移動するのが正解です。

 

 時々、ダンジョン内から宝箱が見つかることがありますが……基本的に、宝箱の所有者というのは魔物です。魔物が大切に匿う宝箱というのは、案外ピンキリなもので……低階層における中身というのは期待できません。


 何故唐突に宝箱の話をしたのかって?


 そこに宝箱があったからです。


 4階層の、瓦礫で入り組んだ道のりの先。そこには、木製で出来た簡素な宝箱が設置されていました。

 もしかしたらダンジョンアイテムが存在するかもしれません。早いところ確保してしまいましょう。


「宝箱ー!」

「ちょっと待って、琴ちゃんっ」


 嬉々として近づこうとした私の首根っこを、麻衣ちゃんはむんずと掴みました。


「むきゅっ!?なに、なにっ!?」

「琴ちゃん、無警戒に近づきすぎ。ベテランだよねぇ?ミミックだったらどうするのっ」

「むっ」


 ミミックとは、RPG定番の宝箱に擬態する魔物のことですね。

 冒険者の手助けとなるアイテムかと思って、嬉々として宝箱を開けようとした冒険者を喰らう恐ろしい魔物です。このようなミミックの手によって犠牲となった冒険者も、少なくはありません。

 現代における冒険者の殉職率としても上位を占めていますね。その為、定期的にギルド内で「ミミック対策講義」などが開催されています。


 20分ほどかけてミミックの生態とか、主に好む食料とか、擬態を解くタイミングとか教えてくれるんですけど、楽しいですよ。


 麻衣ちゃんが心配する理由も十分に理解しています。

 ですが安心してください。


 私だって元ソロ冒険者です。ミミックの扱いくらい、お手の物です。


「ふふ、安心してよ麻衣ちゃん。ミミックはね、要はびっくり箱なんだ」

「いや、私は知ってるけど……」


 全日本冒険者協会の職員である麻衣ちゃんに、ばっさり切り捨てられてしまいました。それはそう。

 正直、普通に対処しても良いんですけど……どうせなら、琴ちゃん流の対処法を見せたいですね。


 という訳で“アイテムボックス”から取り出したのは、唐辛子の束です。この間恵那斗とスーパーで見かけた時に、安かったので買っておきました。

 久々の知識で攻略する琴ちゃんをお見せしましょう。ただの悪ふざけ冒険者じゃないんですよ。


 高位の魔物ほど、体内に含有する魔素を最優先の情報として捉えています。あ、スライムはそういう生物というだけなので例外です。

 体内に備わった魔素が自分より多いかどうか、で狩りの対象を変えたりする魔物もいます。


 ミミックはそう言ったものと同類であり、魔素を探知して活動するタイプの魔物です。


「じゃあ、確認も兼ねて……“魔素放出”」


 私は左の掌を正面にかざし、そう唱えました。

 すると、微かな空間の歪みが宝箱の前に生み出されます。


 内心、期待どおりでした。


「ガヴァッ!!」


 獰猛な獣のような声を上げながら、宝箱に擬態していたミミックは大きな口を開きました。


 宝箱の口は、どうしてそんなに大きいの?それはね、お前を食べる為さ……ってやつですね。


 そして、高濃度の魔素を探知した場所へと一気に食らいつきに行きました。

 

「そらっ」


 その場所目掛けて、私は唐辛子をいくつも放り投げます。

 背後でゆあちーが「うわ、えげつな」とか呟いていましたが。


 狙い通り、ミミックの口の中に唐辛子はホールインワンしました。


「ガゥ、ガアアアアアアア!?!?」

「よっしゃ!入った!」


 唐辛子に含まれたカプサイシンの成分が、ミミックの全身を駆け巡ります。辛味とは、痛み成分のことです。

 宝箱に擬態するという己の役目も忘れ、ジタバタともがき苦しんでいます。あーあ、可哀想に。誰がやったんでしょうね。


 もうこうなってしまえばいたぶり放題です。

 ちょっと他のミミック対処のパターンも見せたいので、今回はサクッと倒しますが。


「うん、うん。冒険者が悪いですね、それは。じゃあ……入れますね」

「何言ってるの琴ちゃん」

「えいっ」


 麻衣ちゃんは困惑の声を漏らしています。

 そんな中私は、ミミック目掛けて専用武器を剣モードに切り替え、一気に突き刺しました。

 ミミックは「グギャ……」という声を漏らしながら、そのまま絶命しました。


 そのまま、ミミックの死骸を“アイテムボックス”に格納します。


 手慣れた様子でミミックを対処して見せた私に、麻衣ちゃんは「おーっ」と感嘆した様子で拍手してくれました。


「相変わらず対処が上手だね、琴ちゃん」

「えへへっ、すごいでしょ」

「ドヤ顔で言われると、あんまり認めたくなくなってくるねぇ……」


 素直に褒めてくれると嬉しいですもん。許してくださいっ。

 でも、どうせなら2人にも琴ちゃん流の対処法をお見せしたいです。


「ね、ね。ミミックもう1体いないかな」

「宝箱じゃなくて、ミミックを探すの琴ちゃんくらいだよ……」

「だって、だって。もう1パターン見せたくて」

「……わかったよー、探してみるねぇ。ちょっとだけ興味あるし」


 なんだかんだ言って、麻衣ちゃんも私の対処法見たいんでしょうねぇー?ふふんっ。


 私の提案になんだかんだついてきてくれる、麻衣ちゃんとゆあちー。2人と一緒に居ると楽しいです。


 たまには、楽しみながらダンジョン攻略するのもありですよねっ。

 色々と琴ちゃん流の攻略方法を見せつけながら進んでいくの、すごくわくわくします。


 ----


「おっ、宝箱だっ!」


 しばらく攻略を進めている内に、目的の宝箱が見つかりましたっ。

 あとはこれがミミックだったら良いんですけど、宝箱でも別に大丈夫です。……逆かな?まあいっか。


 どっちでも問題のない解決方法が、ひとつだけあります。

 琴ちゃんにはこれがありますから。


「あっ、ことちー。分かったからもう大丈夫だよ」

「まだ何もやってないよ?」

「いや、ことちーの行動が読めた……」


 まだ何もしていないのに、ゆあちーがそう言ってきました。

 ここまで来て、おあずけされるのはちょっと嫌です。なので、ゆあちーが何を予想しているのか分かりませんが、そのまま行動に移ろうと思います。


「じゃあ、いくよっ!」

 

 左手をかざし、「いつものあれ」を呼び出します。

 

「ほら出たよ”アイテムボックス”……」


 おっ、ゆあちー大正解です。

 げんなりとした表情で呟いていましたが。


 やっぱり利便性で言えばゴミ箱に勝るものはありませんよね。

 という訳で、私は”アイテムボックス”を構えたまま宝箱に近づきました。


「さーて、ミミックであって欲しいなあ」

「ガウァァァァアッ!」

「よっしゃ来たあ!!」

「グガッ……!?」


 必殺・”アイテムボックス”での圧殺!

 という訳で、私は宝箱に擬態していたミミック目掛けて、”アイテムボックス”で押さえつけました。

 ”アイテムボックス”に反発される形で、ミミックは地面にたたきつけられます。


 えへへっ。不意打ちするつもりが不意打ちされるのは悔しいでしょうねえ~~?ねっ、ねっ?


 ミミックは苦悶の声を漏らし、じたばたと身を捩らせて抵抗してきます。しかし、”アイテムボックス”の前には成す術もありません。

 それほど力を掛けなくても大丈夫なので、かなり楽です。

 

「ガッ、カ……グガ……」

「ねっ、格納されるまでずっと一緒ですよっ」

「カ、カ……」


 地面に押さえつけられたミミックには、もはや抵抗のひとつさえ許しません。


 肉体のひしゃげる音が響きます。耐えきれなくなった血管が、ブチブチっと不快な音を立てながら辺り一帯に血液を撒き散らします。


 ミミックが絶命するまで、そう時間はかかりませんでした。

 しばらく時間が経ってから、ミミックが“アイテムボックス”に格納されました。ノルマ達成です。


「さて、じゃあ次行こうかなっ。満足した―っ」


 琴ちゃん流ミミック対処法をお見せできたので、私としては満足です。

 さて、ミミックの魔石はそこそこ大きいので貴重ですよっ。ギルドの収益にもつながる訳ですっ。


 ロングソードいっぱいへし折って、損益を生み出しちゃっていますので……ここで挽回していきましょう!

 備品破損しまくっているのを帳消しにしていきますよっ。


 ちなみに、ゆあちーと麻衣ちゃんは呆然としてました。

 そう言えば2人には“アイテムボックス”での圧殺を見せるのは初めてでしたっけ。えへ。

 琴ちゃんのお得意技です。便利ですよ?

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。累計100話到達おめでとうございます! 琴ちゃんのテンションと相まって空気は少々アレですが…効果としては結構強くなった状態ですよね、間口の広がったアイテムボックス。 今回のトランポ…
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