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第10話 ダンジョン外のステータス変化

 今日はオフの日でやることも特にありません。

 なので私は、この間早川さんに教えられたケーキの味が忘れられないので、ふらりとコンビニスイーツでも買いに行こうと思っていました。

 

「……あー」

 しかし今、私は非常に困っています。

 自分で言うのも何ですけどね、今の私の見た目。結構美少女なんですよね。

 なのでまあ、こういう可能性もあった訳で。

 私が失念していただけです。

「なあなあお姉さん、今暇?つかめっちゃキレ―」

「……ありがとうございます?」

「おっ良い反応くれるじゃん!」

 何なんでしょうね。ゲームの初期アバターを評価されたような気分です。

 どうやら私、田中 琴は大学生くらいの男の子にナンパされているようです。チャラチャラとした彼は、私の行く先を塞ぐ形で立ちはだかります。

「お姉さん髪めっちゃ綺麗ね?地毛?」

「……地毛?ですかね。多分」

「なんで疑問形なの、ウケるっ」

「はぁ……」

 正直、20以上も年下の同性(一応ですが)にナンパされても、全然ときめかないですね。

 なんというか「若いなあ」という達観した感想が先に出ます。

 適当にはぐらかしてやり過ごそうかと思ったのですが……。

「なぁなぁー、無視しないでよー」

「……っ!?」

 唐突に右腕を掴まれるものだから、ぎょっとしてしまいました。

 下心マシマシで近づいてくるってこんなに怖いんですね。寒気がします。

 

 ……ダンジョンの中であれば対処は容易なのですが。

 冒険者業を続ける中で育ったステータスというのは、ダンジョン外では機能しないんですね。

 その理由としては、ダンジョンに含有している”魔素”が大きく関係しています。

 細かい話は後にして……ひとまず、目の前の脅威から逃れるのが先決ですね。


「あの、離してもらえませんか……?」

 まずは平穏に話し合いでの対処を試みますが、ナンパ男子はニヤニヤした笑顔のまま食い下がります。

「いやぁーお姉さんがお供してくれるのならぁ放すよー?あっ、でも離したら逃げるから駄目かぁー」

「……はあ」

 どうにもこうにも、今も昔もこういう人達は自己中心的ですね。

 今は市街地ということもあり、ダンジョン内で育ったステータスと言うのは機能しません。

 ですが、持ち合わせた技術となれば話は別です。

「ちょっとすみませんね。痛い思いするかもしれないですよ」

「……は、っ!?」

 右腕を掴まれた状態のまま、私は素早く前傾姿勢を取りました。

 勢いよく体重を乗せて上半身のバランスを崩した上で、素早く足払いを仕掛けます。

 逃げる姿勢を取っていた私が、いきなり近づいてくることを想定していなかったのでしょう。押し倒される形となったナンパ男子は、足をもつれさせて思い切り転倒しました。

 その際に掴んでいた腕が離れ、私は自由に体を動かせるようになりました。

 幸い頭は打たなかったようですが、茫然とへたり込んだまま私を見上げています。

「……悪いことは言いませんから、立ち去った方が良いと思いますよ?」

「っ、バカにしやがってっ、クソ女ぁっ!!」

「……はあ」

 なんでこうも、プライドばかり高いんでしょうね。

 あからさまに逆ギレなのですが、ナンパ男子は突進するようにして、私に殴り掛かってきました。世間一般的にアウトですよそれ。

 周りがじろじろみているのも気にせず、彼は反撃を繰り出そうとしていました。

 ですが。

「何してんだテメェっ!!!!」

「——っ!?」

 颯爽と現れたのは、燃えるような赤髪に染めた男子です。私の前にとっさに立ちはだかり、ナンパ男子の攻撃を掌で受け止めました。

「俺の、()()になにしてやがるっっっっ!!!!」

「がっ——!」

 それから、私の繰り出した護身術とは異なる、全体重を乗せた強力な右ストレートを繰り出します。

 勢い良く吹き飛ばされたナンパ男子は一発KO。積み重ねられたゴミ袋の中に身体を突っ込む形で伸びてしまいました。

「……大丈夫ですか、田中先輩っ!」

 先ほどまでの攻撃的な雰囲気は何処へやら。従順な子犬のように目をキラキラとさせた《《園部君》》がそこには居ました。

 ちなみに園部君もナンパ男ばりに、チャラチャラとした装飾をした衣服をまとっています。素直に助けてくれたことを評価させてほしいなあ。

 心配してくれるのは嬉しいのですが、私としては殴り飛ばされたナンパ男子の方が気がかりです。

「あ、ありがとうね……でもちょーっとやりすぎ、かなあ……生きてる?」

 一応ゴミ袋に埋もれる形で伸びているナンパ男子の手首に指を沿わせ、脈を測ってみます。

 あっ、大丈夫です。脈は正常なので生きてますね。

 園部君はその間、じっとナンパ男を殴り飛ばした掌を見つめ、不思議そうに首を傾げていました。

「先輩が無事で良かったです。そういえば、なんですが……ダンジョンの外ってステータスが反映されないんですね?」

 そう言えば園部君は知らないんでしたね。

 ここで出会ったのも良い機会です。

 休日なので申し訳ないんですけど、ちょっとだけ勉強に付き合ってもらいましょうか。

「うん、気になるなら教えておこうか。ついでだし軽くご飯食べてく?」

「良いんですか!?ぜひお願いします!」

「おお、勉強熱心だねー」

 正直、休日だし断られるかもなーと思っていましたが、思いのほか園部君は勉強熱心でした。

 嬉々とした表情で、食事の誘いに乗ってくれたのはありがたいですね。


 ちなみに、先に言っておきます。

 ダンジョン内でのステータスが反映されていたら、今頃ナンパ男はミンチになっています。

 嫌でしょ、モンスター狩りがモンスターになるの。


----

 

 とりあえず、私は園部君を連れて、近場にあったファミレスに来ました。

 最近は”転移魔法”を用いた配膳方法が主流となっているようです。店内では客間の対応を除いて、ほとんど店員が歩くことはありません。

 私達冒険者の得た魔石が、巡り巡ってこうした日常生活を支える一環となっています。

 そう思うと誇らしいですね。

「まだ園部君給料入ってないでしょ?私が払うからさ、好きなもの頼みなよ」

「いえ、大丈夫です!小遣いならあるんでお気遣いなく!」

「あっ、うん。そっか」

 あーそうだった。園部君の家ってお金あるんだった。

 それじゃあ、別に気遣いをする必要もないですね。

 私はダンジョンが世界中に生まれた時の崩落で両親を亡くしているので、寵愛ちょうあいを受けることが出来るのはちょっと羨ましいです。

「ん、じゃあ私も好きなもの頼むよ」

 今も昔もタッチパネル形式なのは変わらないですね。

 私はとりあえず”イチゴクリームパフェ”を頼むことにしました。

 しばらくすると、テーブルの中央に「ご注文の品が参ります」とメッセージが表示されました。一応、中央周りのおしぼりやお冷を避けて待っていると、その空いたスペースにイチゴクリームパフェとからあげ丼がにゅっと現れました。

「はい、園部君」

「ありがとうございます……昼からパフェっすか」

「……別に良いでしょう?」

 改めて指摘されると恥ずかしい気もするのですが。

 私は耳に掛かっていた銀髪を後ろに回し、それから長い柄のスプーンでゆっくりと生クリームの部分から口に運びました。

 ほんのりとした甘みが口の中に広がって、やっぱり心の底から満たされるような気持ちになります。

「……」

 すると、私の方を見たまま園部君の表情が固まっていました。

「ん?園部君、どうしたの。手が止まってるよ」

「あっ、すみません!何でもないです!」

 どこか申し訳なさそうに、園部君は改めて自分のからあげ丼に集中し始めます。

 一体何だったのでしょう。変な感じです。


「ダンジョンの外だとステータスが反映されないって話、今まで聞かなかったんだ?」

 食事もひと段落着いたところで、私は少し本題を振ってみることにしました。

 すると、園部君はどこか申し訳なさそうに頬を掻きます。

「あー、すんません。あんまりそこんとこ覚えてなくて。魔素が関係してる……ってのは覚えてるんですけど」

「まあー……大体あってるよ。まずね……魔素はダンジョン内にしか、存在しないんだよ。そこは理解してる?」

「あっ、はい」

 私は目の前に置かれている、イチゴクリームパフェの頂上に乗っているイチゴをつつきます。

 それから、スプーンでイチゴを掬い上げ、ひょいと口の中に入れました。独特の酸味が口の中に広がって、とても美味しいです。

「んぐ……でね。ステータスの強化にも魔素が関係してるんだ。酸素と一緒に魔素を吸い込むことで、血液を通して魔素が循環。そして全身の細胞が強化される……ってメカニズムだよ」

「魔素があるから、身体機能がパワーアップする。だからダンジョン内だと、冒険者にバフが掛かるんですね?」

「そう、そう。それがステータスの本質だよ。要は”どれだけ私達が身体とダンジョン内に漂う魔素と適応しているか”……って話」

「へぇー……何事にも理由があるんですね」

 話の最中にもう一度パフェの中からイチゴを探そうとしましたが、もうありませんでした。仕方ないので中層に入っていたプリンを食べることにします。

「だからダンジョンでどれだけ強くなっても、外の世界にはなぁーんの変化もないんだよねぇ……魔素が無いもん。”俺はダンジョンで強くなった!”って思いこんだ馬鹿が、暴力団に殴り込んだりして返り討ちに遭った……みたいな事件もあったくらいにね?」

「でもダンジョンでめちゃくちゃ鍛えて外で暴れる、みたいな危険な行動を予防できるのはありがたいっすね!」

「ま、そうねえ。逆を言えば万が一、ダンジョンの外に魔物があふれ出た場合……私達は対処する力を持たないんだけどね」

 話の合間に、注文したブラックコーヒーを啜ります。

「……にが」

 やっぱり味覚が変化しているようです。男性時代ではブラックコーヒーはお友達だったんですけどね。

 もう一度頑張ってみましたが、苦すぎてダメでした。

「園部君、そこにある砂糖取って」

「ぷっ……あ、はい」

「なんで笑うんでしょう……?」

 園部君に温かい目で見られてしまいました。

 やるせない気持ちです。

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