第七章 衝突のアルペジオ
【第七章 衝突のアルペジオ】ーーーーーーーーーー
翌日の放課後、音楽室には真司だけがいた。
鍵盤の上に置かれた手は動いておらず、窓から差し込む西日がその横顔を照らしている。
亮がドアを開けると、真司はゆっくり顔を上げた。
「……来てくれて、ありがとな」
沈黙が落ちたまま、二人はしばらく向き合った。
先に口を開いたのは真司だった。
「昨日から、様子がおかしいよな。何かあった?」
亮は視線を逸らし、机の端を指でなぞる。
「……お前があの先輩と一緒にいるの、見た」
「連弾の練習だよ。それ以外じゃない」
「分かってる。でも……見てるだけで、なんか嫌だったんだよ」
その言葉に、真司は少し驚いたように瞬きをした。
「……もしかして、嫉妬?」
亮は答えられなかった。
沈黙を肯定と受け取ったのか、真司は小さく笑ったが、その笑みはすぐに消えた。
「俺は、お前だけを見てる。でも……そんなふうに思わせてたなら、ごめん」
「……俺の方こそ、勝手に疑って悪かった」
二人の間の空気が、少しだけ和らぐ。
真司はピアノの椅子を引き、横に座るように促した。
「じゃあさ、今日は二人でこの曲、仕上げない?」
亮は頷き、鍵盤に指を置く。
音が重なり合うたび、先ほどまでのざらついた感情が、少しずつ溶けていく。
曲の終わり、真司は小さく囁いた。
「……俺の隣は、お前だけの場所だから」
その声が、旋律よりも強く、亮の胸に響いた。
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