第六章 乱れる和音
【第六章 乱れる和音】ーーーーーーーーーーーーー
十月の風は肌寒く、校庭の銀杏が少しずつ色づき始めていた。
昼休み、亮は廊下の端から音楽室を見やった。中では真司が女子生徒と話をしている。
彼女は軽音部の部長で、文化祭でも司会をしていた上級生だ。
真司が笑って頷くたび、胸の奥にじわじわと熱いものが広がっていく。
「……何やってんだよ」
気づけば、亮は音楽室の扉を開けていた。
「亮? ああ、ちょうど紹介しようと思ってた」
真司は自然な笑顔を向ける。
「この人、来月の市民音楽会で俺と連弾やるんだ」
「へえ……そうなんだ」
声が冷たくなったのを、自分でも分かった。
放課後。
音楽室には二人きり……のはずだったが、真司は来られないとメッセージを送ってきた。
理由は「連弾の練習」。
画面を見つめる亮の指先が、知らずに強くスマホを握りしめる。
――分かってる。音楽のためだって。
それでも、真司が別の誰かと笑い合う姿が、頭から離れない。
翌日、帰りのHRが終わると、友人の健太が声をかけてきた。
「なあ亮、お前、真司と最近仲いいよな」
心臓が跳ねた。
「……まあ、普通に友達だよ」
「ふーん。まあいいけどさ。お前、顔に出やすいから気をつけろよ」
そう言って去っていく健太の背中を見送りながら、亮は息をついた。
――バレてる……?
その日の夜、真司から「明日、会って話せる?」とメッセージが届いた。
胸がざわつく。
何を話すつもりなのか――音楽室の静けさが、明日は違う響きを持つ気がした。
#BL