第五章 隠された旋律
【第五章 隠された旋律】ーーーーーーーーーーーー
真司と付き合い始めて、一週間が過ぎた。
放課後の音楽室は、相変わらず二人だけの居場所だったが、昼間の教室では距離を保たなければならない。
廊下ですれ違っても、視線を交わすだけ。昼休みに近づきすぎれば、クラスメイトの視線が気になる。
「なあ、今日放課後、行ける?」
昼休み、真司が給水機の前でささやくように聞いてくる。
「行く。でも……あんま人前で話しかけんなよ」
「そんなに気にする?」
「当たり前だろ。変に噂されても困るし」
そう答えた瞬間、真司の表情がわずかに曇った。
放課後、音楽室で顔を合わせたときも、その空気は少し残っていた。
ピアノを弾く真司の指が、今日はどこかぎこちない。
「……なあ、俺たちって、そんなに隠さなきゃダメか?」
「いや……ダメってわけじゃないけど」
亮は言葉を探しながら視線を落とした。
「……俺、怖いんだよ。もしバレたら、周りから何言われるか」
真司はしばらく黙っていたが、やがて深く息をついた。
「分かった。無理にとは言わない。でも俺は……お前といること、隠したくない」
亮は返事ができなかった。
窓の外は群青色に染まり、音楽室の中だけが淡い蛍光灯の光に包まれている。
真司の弾く旋律は、少しだけ寂しそうだった。
帰り道、二人は並んで歩かず、数メートルの距離を置いた。
風が冷たくなり始めた秋の夜、亮はポケットの中で握った拳をほどけなかった。
――好きなのに、どうしてうまくいかないんだろう。
胸の中で、答えのない旋律が鳴り続けていた。
#BL