第三章 ステージの告白
【第三章 ステージの告白】ーーーーーーーーーーー
文化祭当日。校舎は朝から人の波と音であふれていた。
亮は照明係としてステージ裏を行き来し、汗をぬぐう暇もない。体育館の中は熱気でむっとしている。
午後のプログラム、軽音部と有志によるミニライブが始まる直前、真司が舞台袖に現れた。
「お、準備万端?」
「おう。……お前こそ、緊張してないのか?」
「してるよ。めちゃくちゃ」
そう言いながら、真司は胸ポケットから小さく折りたたんだ紙を取り出した。楽譜でもメモでもない、白い紙片。
「……これ、ステージ終わったら読んで」
亮が問いかけるより早く、スタッフに呼ばれ、真司は舞台へ出て行った。
ライトに照らされる真司の姿は、放課後の音楽室で見たときよりもずっと大人びて見えた。
マイクを通して自己紹介をしたあと、真司はピアノに向かう。静かなイントロ――それは亮が何度も聴いた、あの未完成だった曲だ。
だが今日は、違っていた。旋律が力強く、まるで何かを告げるように響く。
(……俺に、聴かせたいって言ってたやつだ)
亮は舞台袖で息を潜め、指先が鍵盤を走るたびに胸が締めつけられる。曲の後半、真司はふいに観客席ではなく、袖の方を見た。
――目が、合った。
その瞬間、全ての音が亮だけに向けられているように感じた。
曲が終わると、体育館は拍手に包まれた。真司は一礼してステージを降り、亮のもとへ戻ってくる。
「どうだった?」
「……すげぇよ。何か……言葉で言えない」
「それでいい」
そう言って、真司は小さく笑った。
休憩時間、亮はポケットの中の紙を開く。そこには、震えるような文字でこう書かれていた。
お前がいなきゃ、この曲は完成しなかった。
ずっと、亮が好きだ。
言葉を追ううちに、胸が熱くなった。
友情じゃない。この感情は――。
体育館の外に出ると、秋の風が頬を撫でた。遠くでまた音楽が響き始めている。
亮は、真司を探すように歩き出した。
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