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第二章 距離の縮まる午後

【 第二章 距離の縮まる午後】ーーーーーーーーーー


 九月の空は、夏の名残を残しながらも高く澄んでいた。


 二学期が始まり、教室は文化祭の話題で騒がしい。クラスの出し物は、軽音部と有志による「ミニライブ」に決まった。亮は楽器も歌もできないが、裏方として照明とステージ設営を手伝うことになった。


 昼休み、真司が亮の机に近づいてきた。


「なあ、ステージのピアノ伴奏、俺に決まったんだ」


「おお、すげーじゃん」


「でもさ……例の曲、まだ完成してないんだよな」


 真司は小声で続けた。


「お前も手伝ってくれよ。放課後、音楽室で」


 ――まただ。


 胸の奥が、理由もなく高鳴る。


 放課後。音楽室は相変わらず静かで、外の夕焼けが窓枠を赤く染めていた。


 真司は鍵盤に向かい、昨日よりも滑らかな旋律を奏で始める。亮は譜面台に置かれた楽譜をのぞき込むが、音符はまるで暗号のようだ。


「ここさ、もっと静かに入ったほうがいいと思うんだけど……」


 亮のつぶやきに、真司は手を止めた。


「……やっぱ、お前センスあるわ」


「いや、俺、楽譜も読めねーし」


「でも、聴いてて感じたんだろ? それ、けっこう大事なんだよ」


 二人は顔を近づけて譜面を見ながら、音の強弱やテンポを試す。ふと、真司の肩が触れた瞬間、亮は息を呑んだ。


 距離が近すぎる。


 けれど離れる理由も見つからない。真司は平然とした顔で、また鍵盤を叩く。


 そのとき、ガラリと扉が開いた。


「……お、お前ら、何してんの?」


 軽音部の女子が立っていた。視線が二人の近さを捉え、微妙な沈黙が流れる。


 亮は慌てて身を引き、机の上の楽譜を手に取った。


「ちょっと……曲の相談」


 女子は「あっそ」とだけ言って去っていったが、亮の心臓はまだ速く打っていた。


 練習が終わり、昇降口へ向かう帰り道。


 真司がふいに笑った。


「なあ亮。さっきの女子、誤解してるかもな」


「……何の?」


「俺たちが、付き合ってるとか」


 亮は足を止めた。


 冗談っぽいのに、真司の声は妙に低く、目が真剣だった。


「……もしそうだったら、どうする?」


 夕闇の中で、その言葉だけがやけに鮮明に響いた。




#BL

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