第十四章 声が届かない夜
【第十四章 声が届かない夜】ーーーーーーーーーー
梅雨の真夜中。
亮はまた眠れずにいた。
机の上には、返事のないメッセージが点滅している。
真司の既読は、つかないままだった。
午前一時を過ぎたころ、ようやく着信音が鳴った。
「ごめん、遅くなった。レッスン長引いて……」
真司の声は疲れ切っていた。
亮はその声を聞いた瞬間、胸の奥で溜め込んでいたものが一気に溢れ出した。
「……俺のこと、もうどうでもいいんだろ」
沈黙が落ちる。
真司は「そんなわけない」と言いかけたが、言葉は途中で棘になった。
「じゃあ、なんでいつも責めるような言い方しかできないんだよ。俺だって必死なんだ」
「必死なのは分かってる。でも、俺は……お前が遠くで笑ってるのが、怖いんだよ」
「怖い? 何それ」
「俺以外の世界に染まっていくお前が……どうしようもなく怖い!」
真司は息を詰まらせた。
亮の声は震えていて、それが余計に胸を締めつける。
でも、その震えが、真司には責められているようにも聞こえた。
「……もう今日はやめよう」
真司がそう言った瞬間、通話は切れた。
残された亮の耳には、発信音だけが虚しく響く。
亮はペンダントを握りしめた。
冷たい金属が手の中で小さく震える。
真司もまた、東京の部屋で同じペンダントを握っていた。
でも、その重みは――もう温もりを感じられないほど冷えていた。
雨は夜通し降り続き、二人の間に横たわる距離をさらに深く、暗くしていった。
#BL




