第十三章 好き過ぎて、壊れていく
【第十三章 好き過ぎて、壊れていく】ーーーーーー
春が過ぎ、梅雨が近づく頃。
亮は最近、よく眠れなくなっていた。
スマホを握りしめたまま朝を迎える日もある。
真司からのメッセージは、以前よりも少なくなっていた。
――「今日も遅くまで練習」
――「疲れた、また明日」
それだけのやり取りが、一週間に何度も続く。
亮は「お疲れ」と返しながら、画面に映る自分の打った文字がどんどん薄っぺらく見えていくのを感じた。
一方、真司も疲弊していた。
新しい環境、新しい仲間、厳しいレッスン。
でも一番疲れるのは、亮の沈黙だった。
「大丈夫か?」と訊いても、「大丈夫」としか返ってこない。
本当は、もっと話したい。
もっと、近くにいたい。
なのに、会えない距離が、心の中に冷たい壁を作っていく。
ある夜、亮は通話中に泣きそうになった。
「……もう分かんねぇよ。お前が遠すぎて、好きなのに苦しいんだ」
真司は沈黙したまま、何も返さなかった。
その沈黙が、亮の心を深く傷つけた。
電話が切れた後、真司は暗い部屋でひとり、額を押さえていた。
(どうして、好きなのに……こんなに壊れていくんだ)
ペンダントを握る手に力が入りすぎて、指が白くなる。
――好きすぎて、壊れていく。
その事実だけが、二人の間で確かなものになっていった。
雨が降り出した。
窓に当たる音が、まるで互いの心の中で崩れていく何かを告げているようだった。
#BL




