第十二章 届かない距離
【第十二章 届かない距離】ーーーーーーーーーーー
真司が東京へ行ってから、一か月が経った。
スマホの通知音が鳴るたびに、亮は条件反射で画面を開く。
「今日は基礎練だけでヘトヘトだ」
「新しい友達できたよ」
そんな短いメッセージに、亮は「頑張れよ」と返す。
でも、本当は「俺のこと、忘れてない?」と聞きたくて仕方なかった。
夜、布団の中で通話をする日もあった。
真司の声は、スピーカー越しでも優しい。けれど、その声の向こう側には、亮の知らない景色や時間が確かに流れている。
「そっちはもう桜散った?」
「うん、こっちはもう葉桜だな」
そんな会話の隙間に、どうしようもない距離が横たわっていた。
ある晩、真司から連絡がなかった。
「忙しいんだろう」と自分に言い聞かせても、スマホを握る手は汗ばんでいく。
明け方、通知がひとつ届いた。
――「ごめん、寝落ちしてた」
たったそれだけ。
亮は返事を打ちながら、胸の奥に黒い塊が広がるのを感じた。
(このまま、少しずつ薄れていくのかな……)
そんな考えが頭をよぎる。
握りしめたペンダントは冷たくて、あの日の温もりが嘘みたいだった。
窓の外、街灯の下で雪が舞っていた。
白い粒が積もっては消えるように、二人の距離も埋まらず、心の中で静かに溶けていく。
――会いたい。
その言葉を、画面越しには言えなかった。
#BL




