第7話
ジリリリリリ
スクランブル スクランブル
同僚たちとの雑談もそこそこに、待機中のF-15Jに飛び乗る。領空侵犯の恐れがある航空機をレーダーが補足したため、スクランブル待機任務についている皆がすぐに戦闘モードに入る。
私は今、この基地で領空侵犯に対処するためスクランブル任務についている。海外から飛来する航空機に対処する重要な任務だ。
整備員たちがミサイルの安全ピンを外しゴーサインを出す。彼女たちに敬礼をしながらタキシング、滑走路へ向かう。後ろには真希が乗る僚機が滑走路に入ってきている。
<< VALKYRIE01 離陸を許可する >>
<< VALKYRIE01 離陸する >>
<< VALKYRIE02 離陸 >>
TWRから離陸許可が出た。スロットルを最大にし愛機を加速させ蒼空へ駆け上がっていく。あっという間に雲を越え上空に到達する。私はこの景色が好きだ。どこまでも続く空、この空をアユンと自由に飛んでみたい。だが今は任務中、気を引き締め直し真希と交信する。
僚機の真希とフォーメーションを組んで指定された空域に向かう。
<< VALKYRIE01 方位340 高度3万フィートを維持せよ。 >>
<< VALKYRIE01 了解、方位340高度3万フィート。 >>
GCIとの交信を終え指定空域に向かっていると真希から通信が入った。
「センパイ、任務の終わりかけにスクランブルなんてついていませんね」
「そうね、でも最近は色々活発だし仕方ないよね」
「早く終わらせて羽伸ばしたいー」
「何事もないと良いわね。ほら真希、集中して。もうすぐ見えるはずよ」
「はーい」
後輩の真希は最近慣れてきたのかやや緊張感に欠けている。彼女は飛行訓練を受けて来たときからの付き合いで、この部隊へも一緒に転属になった。気の合う彼女と一緒に飛べるのは嬉しいが、彼女の緊張感のなさには少し心配になる。
とはいえ私も早く任務を終わらせて休暇を満喫したいのは同じだ。24時間気を張り詰めているスクランブル任務はやはり身体に堪えるものだ。
<< VALKYRIE01 レーダーコンタクト、国籍不明機2機 >>
「センパイ、妙ですね。いつもとちがくないですか」
「確かに、このサイズは偵察機ではないし速さもかなりある。 警戒して」
「見えてきました、1機はファルクラムですよね。 もう一機はなんでしょうね、同じ機体じゃない……? フランカー?」
「1機はMiG-29(ファルクラム)で間違いなさそうね。 確かにSu-27(フランカー)に見えるけど……国籍マークは星だから連邦の機体所属ではない、J-11かな?どちらにせよ大陸機よ。」
「了解。撮影も完了しました。 センパイの援護に回ります」
<< こちらVALKYRIE01 国籍不明機を目視した。一機は共和国所属のMiG-29。もう一機は大陸所属のJ-11と思われる。 >>
<< こちらGCI。 VALKYRIE01 見間違いではないのか。なぜ違う国籍の機体が飛んでいる >>
<< こちらVALKYRIE01 見間違いではない。 1機は間違いなく共和国のMiGだ。 もう一機は判別がつかないが国籍マークは大陸のもので間違いない。Su-27もしくはJ-11。 >>
<< GCI了解。引き続きコンタクトを続けよ >>
<< VALKYRIE01 了解>>
今回の相手は様子がおかしい。普通複数機で来る場合同じ国籍だ。今回は違う国籍の機体が並んでいるだけではなく戦闘機だ。ここのところ活発とはいえこんな自体は初めてだ。亜東共和国と天朝の共同演習……?
いつも以上に警戒をしながら呼びかけを開始する。
<< 警告・警告、共和国並びに大陸機に告げる。こちらは航空自衛隊、貴機は日本国領空に接近している。直ちに進路を変更せよ。 繰り返す直ちに進路を変更せよ>>
日本語・英語・韓国語・中国語で呼びかけたが応答はない。
機体を前に出し進路を塞ぐ。侵犯の恐れのある航路から少しずつ反らし領空から遠ざける。しばらくすると共和国機は旋回して帰って行った。大陸機は翼を振った後、私に向かって信号を出してきた。
大陸機は私たちの周りを一周した後、共和国機を追いかけるように去って行った。
(さっきのモールス信号……また会いましょうってどういうこと。ただの挑発?)
<< VALKYRIE01 対象機は去って行った。これより帰投する >>
<< GCI レーダーでも確認した。両機帰投せよ、ご苦労だった >>
<< VALKYRIE01 RTB >>
<< VALKYRIE02 RTB >>
二人そろって基地に帰投すると直ぐに司令部へ報告に赴く。対処内容、口頭での呼びかけには応じず、機体を寄せて進路を示した後、進路をかえて2機そろって引き返していったこと。最後の不可解な行動は二人で相談した結果、伝えないことにした。メッセージは私しか見てないはずだし、ただでさえイレギュラーが多い今回のスクランブル。疑念を抱くような事は避けたかった。
司令部からいくつか質問をされ報告は終了、真希と共に部屋を辞する。
今回のスクランブルは今までに無く緊張したが、無事に待機任務を終え私と真希はしばらく休暇をとれることになった。
仕事終わりに真希の馴染みのバーに足を運ぶ。私にはアユンがいるから興味は無いがここは女性が恋愛対象の人が集まるバーらしい。
「真希、遊びはほどほどにしなさいよね」
「遊びじゃないですよ、センパイ。全員本気です」
「本気でいろいろな女の子に手を出してるって言うの。いつか刺されても知らないわよ」
「そういうセンパイはどうなんですか?アユンさん以外に相手を見つけないんですか? ほら、あの女の子。センパイのことずっと見つめていますけど」
「んー今はいいかな」
そもそも私は女性が恋愛対象、というわけでもないと思う。アユンだから好きなんだ。
小一時間飲んだ後真希と別れ帰宅する。真希は今日もこの後バーで意気投合した女の子と一緒に遊びに行くらしい。やれやれ。
その夜、私は何者かに拉致されたのだった。