第5話 時は現代
すぐ終わると言われていた戦争は思いのほか長引いている。もう8年になる。
私は防衛大学を卒業後航空自衛隊のパイロットになっている。アユンから時々くる連絡で彼女が韓国空軍のパイロットをやっていると聞いていたからだ。
私はアユンに自分が今自衛隊にいて、パイロットをしていることは伝えていない。そのことを知ったらアユンはとても心配するだろうし、負担になりたくない。自衛隊に入ってから彼女の言うことがよくわかるようになって、彼女の報告を聞くのは密かな楽しみでもあった。
昨日は敵軍基地を爆撃したらしい。アユンは強いし勇敢だ。でも人を殺すことに慣れてしまっていないかちょっと不安になる。戦時中の今こんなことを思うのは不謹慎かもしれないけれど、やはり愛する人が人の心を失ってしまったら悲しい。幸い私はまだ平和な日本にいて、人に対して武器を向けるという経験はないけれど、実際に直面したらちゃんと自分の役目を果たせるのか不安だ。アユンは最初どうやって乗り越えたのかな。
ある日思い切って聞いてみることにした。
『ねえ、アユン。どうしても聞きたいことがあるの……』
『なんだい凛桜』
『こんなこと聞くのはひどいことかもしれないけど……初めて人を殺した時、アユンは何を思っていたのかな』
『なんだ、凛桜。私の心配をしてくれて嬉しい。そうだね……、最初私が敵を倒したときは現実味がなかった。ただただ夢中で味方を守るために敵を倒した。無事に基地に帰ってからやっと気づいたよ。……私と同じように落とした飛行機にも人が乗っていて、家族がいるんだってことを。早くこの戦争を終わらせて平和な世界で凛桜と暮らしたい、いつでもそう思っているよ』
そうか、アユンはもう乗り越えているんだ。でも心の傷は戦争が終わってから開くと言う。早く戦争が終わって一緒になれたら彼女を癒してあげなきゃ。なんてそんな他人事みたいなことを考えていた。私は現実が見えていなかったんだと思う。