第3話
「アユン、会いたかった。一人で海外に行くのって初めてで緊張するね。韓国語もあまりわからないし……」
「凛桜、私も会いたかったよ。韓国へようこそ。大丈夫、私がずっとついているよ。それに凛桜の韓国語は普通に通用するよ、心配しないで」
「うん、すごくすごく楽しみにしていたの。そうかな、じゃあ色々挑戦してみるね」
「何事も挑戦だよ! さて、疲れたでしょ。まずは荷物を起きに私の家においで。」
韓国では、一人暮らしをしているアユンの家へ招いてもらった。韓国料理は私にはちょっと辛いものが多かったけれど、アユンが居たから何をしていても楽しかった。アユンの大学も見せてもらったし、一緒に遊園地にも行った。以前よりももっと彼女のことを好きになっていた。
「凛桜、今日は色々疲れたね。疲れているところ悪いんだけど大事な話があるんだ。聞いてほしい」
「なぁに、アユン。改まって。なんでも言って」
「実は私、来年から兵役に行くことになるんだ。今までと同じように連絡は取れないけど待っていてほしい。必ず連絡する」
三日目の夜、私は初めて韓国では兵役があると聞かされた。多くの韓国人は在学中に休学をして兵役に行くという。今は男女ともに徴兵が義務づけられたが、兵役と言っても昔とは変わっていて、私物のスマートフォンを使うこともできるし連絡は取れると言っていたので、少し頻度が落ちるだけで心配はないと伝えられた。それでも寂しいという気持ちが顔に出ていたのだろうか。
「そう、徴兵に行ってしまうのね。寂しいけど、韓国では絶対に行かなきゃいけないんだよね。私、ずっとアユンのこと待ってるね」
「そんなに悲しい顔をしないでくれ。もう一つ、こっちが本当に伝えたかったことなんだけど」
「凛桜、実は前から言おうと思っていたんだけど、私と付き合ってくれないか。前から君を私のものにしたいと思っていた。どうだろうか」
私はすでに彼女に恋をしていたけれど、彼女が私に恋愛感情を持っていることはわからなかった。
「私も、いや私はあなたと初めて逢ったときから恋していたの。私で良ければ彼女にして」
もちろん嫌なはずはない。彼女にはすでに恋していたのだ。断る理由なんてあるわけがない。
「ああ、そんな気はしていたが口に出すのは緊張したよ。凛桜、好きだ。」
「そんな気をしていたってなに、気づいていたの!? もう、言ってよ。あなたにバレないように隠してたんだから」
「あれで隠していたつもりだったのか……」
その日私たちはお互いを知った。それから数日恋人同士になった私たちは付き合いたてのバカップルみたいなことをずっとしていた。
「はい、凛桜。口を開けて あーん」
「あーん。 んーおいしー! 」
「凛桜 口についているよ 」
「ちょっと、みんな見ているよ」
「なぁに、誰も気にはしないさ」
「私が気にするんだよー」
「アユンのアイコンってかっこいいよね」
「真似してみる?」
「……うん、こんなのどう?豹と桜のマークを組み合わせてみたの」
「凛桜のマーク、かわいいね」
「かっこいいって言ってほしいのに……、もうっ」
「ふふ……凛桜もかわいい」
「アユン、ちょっとあれ見て」
「なんだ、なにもないじゃない」
「ふふ、隙あり」
「なんだ、凛桜。 悪い子にはお仕置きだ」
「きゃー!! 」
「んっ、もうアユン積極的なんだから」
「いや、そんなこと言って激しいのは凛桜じゃないか」
「ふーん、まだそんなこと言える元気があるのね。いいよ今日は立てなくさせてあげる……」
「おはようアユン、昨日は可愛かったね」
「おはよう、流石に疲れたな。シャワー浴びようか」
「良いよ別に、まだまだこれからでしょ? 」
「ま、まさかね。私は目覚めさせてはいけないものを起こしてしまったようだ……」
私たちにとって忘れられない日々だった。
楽しい時間はすぐに終わってしまう、日本への帰国の日が来たけれど、すぐに再開できると信じていた。私にはアユンに貰った指輪がある。
「送ってくれてありがとうアユン。またね!」
「素敵な日々だったよ。また近いうちに日本に行くよ」
「私のことが忘れられなくなった?」
「もちろんだよ」
それからアユンが兵役に行くまでは頻繁にやり取りをしていた。約2年の兵役は短くはないけれどすぐに終わって前までと同じようにいや、今以上に親密になれると信じて疑わなかった。どっちかの国に移り住んで一緒に生活するのも悪くないな、それなら私ももっと韓国語を話せるようにならなきゃな。大学では語学を選択するのも良いのかな、進路についてもアユンと相談する日々。お互いの将来を話し合うのもとても楽しかった。