第3話
気がつくと森の中だった。
種族によって開始地点が変わるとはいえ人間を選んだβテスターは全員街が開始だったはずなんだが⋯。
辺りを観察しつつ状況を把握しようとする。
森の木々のせいで日差しが遮られているからか周りの詳細が掴めない。
この状態はやばいな。
どうにかして森を抜け出したいがどこを見ても暗い森が続いている。
ここが安全な場所である可能性もあるかもしれないがこんな変哲のない森の一角が魔物も来ないような場所である可能性は低いだろう。
暗いから辺りの詳細は確認できないが今のところ襲撃が起こることはなさそうだ。
今のうちにステータスを確認しておこう。
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名前︰エト(エトロウズ・ノウストカ)
称号︰妖精との縁
種族︰人間
職業︰無し
ステータス
攻撃力︰17 防御力︰15
魔法力︰9 魔防力︰10
力︰12 体力︰8
敏捷︰12 技量︰21
器用︰17 知力︰7
精神︰6 幸運︰2
スキル︰無し
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⋯取り敢えずステータスは記憶しておく。
見た感じ役に立たないけどな。
次はインベントリでも確認するか。
初心者武器の素?
これが取り敢えずの対抗手段になるかもな。
どうにかして武器にならんかな。
念じてみるか。
剣になれ!⋯なった!!
まあ持っとくか。
他にはないか?
ポーション。保険。
金。意味なし。
初期装備。⋯装備した。防御力は期待できない。
謎の宝石。謎。
はあ⋯。
探索するか。
取り敢えず目標は森から出ることだな。
副目標として人に会うと安全な場所探しもしよう。
さて、ゲームだしまずは戦闘でもしてみたいが⋯。
デスペナルティがあるかもしれないし、死なないようにはしとこうか。
⋯剣、邪魔だな。
ちょっと長めの棒にならんかな?
⋯なった!?
もしかして念じれば武器を変更できるのか?
爪⋯槍⋯弓⋯籠手⋯盾⋯斧⋯鍬⋯鎌⋯じょうろ⋯鉈⋯刀⋯銃⋯薙刀⋯釣竿⋯バケツ⋯包丁⋯釘⋯槌⋯ハンマー⋯。
思いつく限り武器を変化させてみたが何でも変化した。
最強か?最強だな。
これは流石に何か弱点はあるのだろうがどこかわからない森にいる以上、今はありがたい。
俺は武器を棒に戻すと森を探索するために歩きだした。
***
森の探索は順調だった。
魔物の襲撃は無く、慣れてきたのか森もだいぶ辺りを見渡せるようになった。
辺りを警戒しつつも魔物が出てこないからヘルプを読むこともできた。
こうなった原因は分からなかったがステータスやインベントリなどのことはよく知ることができたと思う。
目が慣れてきているので辺りがしっかり見えますね⋯。
何か囲まれてますね⋯。
えっと1、2、3、4、5、6、7⋯はい。
無警戒で森を歩いていたらなんか7匹の狼に囲まれる羽目になっちゃった⋯。
どうしようかなー?
まあ、おとなしく喰われるわけにもいかないから頑張って抵抗して逃げるか。
⋯さて、囲まれているから自分から動くのは悪手だな。
できるなら1匹で動いてほしいが囲んでいるとこから見て望み薄だな。
さてどうくる?
少しずつ構えを変えながらいつでも襲ってきていいように警戒する。
すると狼のうち2匹が動いた。
動いた狼の位置は前と後ろ。
同時に俺に飛びかかってくる。
ならまずは前の狼の対処をしようか。
「ふっ!」
飛びかかってくる狼に向かって俺も前進するとそのまま狼の口に棒を突き刺す。
狼は棒が口に入ったことに驚いたがすぐに棒を噛み砕こうとする。
俺は棒の持ち方を変え、そのまま後ろに振りかぶる。
「はっ!」
すると棒を噛んでいた狼がそのまま棒と一緒についていき後ろの狼に当たった。
その衝撃で狼の口から棒が離れる。
これで一旦、2匹を足止めできた。
残り5匹。
左右後ろの3匹と前2匹だ。
俺が2匹の対処をしている間に左右の狼は動き出していた。
俺の背後から2匹が襲ってくるのがわかる。
俺はそれに対してすぐに対処する。
「まずは⋯」
まず棒を右の脇から勢いよく後ろに突き出す。
すると左の狼の鼻に棒が勢いよく当たり、左の狼は勢いを無くす。
俺はそれを確認すること無くそのまま棒を縦に回転させ振り上げる。
「ふん!」
すると右の狼の顎に当たった。
そして棒を勢いを殺すこと無く回転させることで左の狼の頭にも直撃させた。
左右の2匹は戦闘不能だ。
これであと3匹。
最初の2匹は起きかけているが問題はない。
一気に4匹がやられたからか、狼達は動きが鈍っている。
「今度は俺からいくぞ!」
1匹の方の狼に近づいていき棒で突くと狼は気を取り直して後ろに下がって攻撃を回避する。
狼が馬鹿にするように笑ったような気がした。
だが⋯。
「残念だが⋯」
いつの間にか狼の喉に棒が突き立てられる。
「その棒は伸びるぞ」
喉を突かれ苦しんでいる狼を手早く頭を叩き気絶させ残りの2匹の方を見る。
最初の2匹はまだ復活していない。
気絶中の狼は3匹。
残った2匹の狼は恐怖したように立ちすくむ。
「えっ」
そして俺が近づくと素早く逃げた。
俺は呆気に取られながら狼が逃げ出した方を見る。
そして呆然としてる暇はないと狼が逃げた方向を警戒しながらも最初の2匹も気絶させた。
⋯取り敢えずとどめを刺すか。
俺は気絶している狼に近づくと棒を解体短剣に切り替えて首に振り下ろす。
「うん?」
何故か解体短剣は狼の首に一切の傷をつけること無くそのまま首に受け止められた。
⋯衝撃は通った感触はあったんだが傷をつけれた感触はなかった。
なんとなく欠点がわかったような気がするな⋯。
取り敢えず首を斬りつけたり突き刺してみたりしてみたが全く傷がつかない。
他にも剣や槍、細剣にして首に攻撃をしても掠り傷すらつかなかった。
攻撃力が足りないのか、初心者武器では傷がつけられないのか分からないが厄介だな。
刃物類が戦闘で使えなくなるのは戦闘の幅が狭くなって痛いな。
どうにか出来ないだろうか?
⋯やるか。
俺は武器を細槍に変えると気絶している狼の閉じている瞼を開いて瞳に槍を突き刺した。
「っ!」
先程までは無かった傷をつける手応え。
視覚では気持ち悪いがこのまま仕留める!
槍を更に突き刺すと頭の奥と思われる部分にまで突き刺さった。
⋯リアルを謳っていた時から想像していたがしっかり急所を再現しているようだ。
これなら俺もまだこの武器で戦えそうだ。
そう思いつつ、とどめを他の狼にもする。
狼の瞳が同じように貫かれそこかしこにある様子は事件現場のようだ。
俺はそれに少し引きつつ狼の死体をインベントリにしまう。
これで狼の対処は終わった。
改めて振り返れば完勝だが次は出来ればもう少しゲーム的な要素ができて欲しいな。
ステータスとか今のところなにの役にもたってないしな。
さて探索に戻ろうか。
そうして俺は森をまた歩き出した。