第1話
『本物の異世界のような世界へ』
そんな謳い文句で全世界に発売されるVRMMO『Endlessly Possibility Online』。
それはVRMMOとしてはありふれた文言であり、大体のVRMMOはその謳い文句への期待感を下回った。
そうして想像の中での異世界を思い浮かべ期待しながらもVRMMOは決して異世界とは言えなかった。
『今回も結局ダメなんだろうな』
そんなVRMMOに対する諦観を持っていた人に対し、『Endlessly Possibility Online』は真っ向からぶつかってきた。
全世界同時発売。
βテストのゲーム内から現実世界への配信。
配信内でのNPCの豊かさ。
βテストでは味わえない未知の世界のCM。
CM内での現実では決してない綺麗な景色。
その様々な情報は人々を過去最高に期待させVRMMOの歴史、そして世界が動くまでになっていた⋯!
「大体そんなところだな」
「はえ〜。そんなことになっていたのか」
「ふっ。お前にとってはどうでもいいことか」
「正直、手に入れれるような気がしなかったからな」
「俺もそう思う」
そんな雑談をするのは男二人。
世界が動く?
歴史が動く?
そんなもん一般人には関係ないねと思う。
だって値段がすごいことになってるだもの。
普通に買えんだろこんなもん。
それよか他のことに意識割いてたほうがマシだな。
そう思っていたのは共通らしいが急にそんな話をしだした相方に質問してみる。
「なんで急にそんな話を?」
「いや、そろそろ発売日だな⋯と」
「ほーん。結局やりたかったのか」
「ガチでやりたいっ!」
血涙を流す勢いで返事をする相方。
正直わかる。
わかるが仕事の邪魔はしないでほしい。
「わかるが俺の仕事の邪魔をしないでくれ」
「ぶっちゃけその仕事やらなくてもいいやつだろ」
「そうだがこういうのはやれるときにやらないと面倒くさくなる」
「真面目だなぁ」
そう言うお前は⋯と言いかけたがよく考えると相方は馬鹿そうだが仕事を途中で放るやつでもない。
終わらせているんだろう。
「なーあー。愚痴り合おうぜー」
付き纏われてって鬱陶しいな。
だがまあいいか。
後ででも終わらせれる。
そういうのもわかってるから相方も絡んでくるんだろうし。
「はいはい。と言っても情報が全くないから話すことはこちらから無いぞ」
「わかってる。わかってる。面白いの見つけたからお前とやろうと思ってなー」
ちょっと待っとけー
相方は言うと腕輪を操作する。
すると俺の腕輪に情報が送られてきた。
ん?
『アポ人を作ろう!』?
「なんだコレ」
「さあ?」
「さあってお前なあ」
「いやいや詳細確認してみろって」
「なになに⋯」
Endlessly Possibility Online内のキャラクターを作りましょう!
職業、種族、スキル、年齢、性別。
すべて自由に設定可能!
もしかしたらあなたの作ったキャラクターがEndlessly Possibility Onlineにでるかも!?
「嘘くせー。どこから拾ってきた?」
「なんか流れてたから拾ってみた」
相方は何でもかんでも拾う癖がある。
それで俺も巻き添えで色々と被害を受ける。
「げ!ウイルスとか入ってないだろうな」
「入ってない。入ってない。大丈夫」
「ほんとかぁ?」
「それで面白いのが情報元のセキュリティが固くてな。これの元が辿れない」
「お前が!?マジか。こんなふざけた情報にどれだけ金かけてるんだ⋯」
「で軽く触ってみたんだがまじで自由に何でも書き込めるくせして一回限りっぽい」
「怪しい⋯が面白そうだな。お前が調べて無理なら大体のやつは無理だろう。それでお前が持ってきたってことは害はないか小さい。やってみるか」
「そうこなくっちゃ!二人で作ってから見せあって送信しようぜ!」
「うい〜」
ということになった。
改めて『アポ人を作ろう!』を開く。
こういうのでありがちな選択式ではなく何でも書き込めるタイプだ。
こういうのは理想のやつを作りがちだがどうしようか。
お!
質問書に答えていく形式もあるのか。
うーん。
前もって温めて置いた小説用のキャラをやっていこう。
まず髪は黒で⋯
***
とりあえずできたかな。
思ったよりいい感じじゃないか?
こういうので執筆欲を解消するとスッキリするな。
とりあえず相方はどうなったんだろうか?
あれ?
「!」
「どうした?」
「どうしたじゃないが!話しかけても無視するし時間はかかるし!」
「すまん。思ったよりも面白くてな」
「好きそうだから誘ったけどここまで熱中するとは思わなかった!」
「まあまあ⋯」
「別にいいけどな!それでキャラはどうなった?」
「うーむ。俺のキャラは⋯。あれだな魔術教師」
「魔術教師?」
「ああ。国で一番の魔法使いで魔術という神秘を使える。魔法は大体のやつが使えるが魔術というのは昔の魔法のようなもので使えるのは一握りしかいないんだ。そして魔術を復活させようとしているが魔術が昔のものだからあんまり信じられていない。魔術の説明をしても基本、魔法の隠匿だと思われている。それを打破したくて魔法を教えながら魔術を教えれる人を探している。だから信頼できる相手には魔術教師と名乗っているんだ。そして「はいはいわかった!」お⋯うん?」
「そんなに設定を練ったのは分かった。なかなかいいじゃん!次は俺の番ね」
「あ、ああ」
「俺のやつはそのまま見たほうがわかりやすいかな」
そうやって相方が見せてくれた『アポ人を作ろう!』は変な文字化けで埋め尽くされていた。
「⋯これはなんだ?」
「これはEndlessly Possibility Onlineに出てくるかもしれない設定だろ?こんな感じでデータが文字化けしているやつとか詳細がわからないやつは定番じゃん?」
「とは言えこれはキャラ作成か?」
文字化けを適当に書き殴ってるだけじゃね?
「これにしっかりと意味は込めてるんだよなぁ。こういうのを文字化けにするってのをやってみたかったからさ!意味ある言葉を文字化けサイトにぶち込んだ!」
微妙に手間がかかってるな。
俺が微妙な顔をしていたのだろう更に相方が言葉を続ける。
「これのコンセプトはズバリ理解不能!もし普通のゴブリンとかオオカミとかが出てくるんだったらそいつらはゴブリンやオオカミってわかるだろ?そんな中で不気味な外見で不気味なオーラを放っている化け物が出てきたら怖いだろ?」
「あー。クトゥルフ神話みたいな?」
クトゥルフ神話とは不気味な化け物が出てくることが多い創作の話だ。
「そうそうそうそう。それを参考にした!」
「それは精神力が試されるな」
「めっちゃ不気味な外見に設定したからあったらやばいタイプの化け物だな!」
「これアポ人か?」
「種族も自由にしていいし別にいいんじゃないか?これは真面目に受けるタイプのやつじゃないだろ」
「確かにな」
そうやって俺達は互いのキャラについて話しながらその『アポ人を作ろう!』に送信した。
そうして日々は過ぎていった。
ゲームが始まらない⋯