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あえかな未来

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 僕が今いるのは、未来だ。彼女――日暮花凛がいなければ実現し得なかった、そんなあえかな未来に僕はいる。

 彼女と出会って、真琴さんと付き合ってから、どのくらいの時間が経っただろうか。あの非現実的で思惑めいた日々は、懐かしいような気もするが昨日のことのようにも思える。それほどまでに、あの赤髪の少女の存在は僕の人生に大きな影響を与えていた。

 彼女には、感謝しかなかった。僕の諦めていた願いを叶えてくれた彼女。頭が上がらないという言葉は、きっとこういう時に使うだろう。

 ……今はもう、見上げなければこの想いも届かないだろうけれど。


「――古木くーん」

 遠くから、僕の大切な人の声が聞こえてくる。この幸せな状況だって、あの未来人の賜物だ。

 今は二十歳。大学生。青春のステージは、校舎を飛び越えて自由に華々しく舞い踊る。

 陽気に手を振る彼女に軽く振り返して、僕も歩みを寄せる。

「古木君これからお昼?」

 真琴さんは僕の隣にやって来て、こてんと小首を傾げる。耳には、僕がクリスマスプレゼントのお返しにと、前に渡したイヤリングが着けられていた。

「うん。学食に行こうと思って」

「そっか、それなら良かった。お弁当作ってきたの。一緒に食べない?」

 言って、彼女は自信満々に提げていたバッグを僕に掲げる。当然、了承した。


 近くのベンチに座って、真琴さんの弁当を頂く。色合いも栄養も均整のとれたとても絶品な弁当だ。前々から真琴さんの料理を頂くことはあったが、何だか日に日に上達しているような気がする。

「こうやってベンチに座ってると、あの日のことを思い出すね」

 僕が彼女の家庭的なところを噛みしめていると、真琴さんはやや上を向いてそう言った。きっと、告白をした日のことだろう。

「あの日から比べると、僕たちは結構お互いのことを知れたよね」

「そうだね、古木君は思ったよりもずぼらだった」

「真琴さんだって、朝はびっくりするぐらい不機嫌だった」

 互いに挑発的な視線を向け合って、そして笑い合う。あれから、色んなことを知った。知らない部分、知るべき部分、知らなくていい部分、知りたくない部分、沢山のことを知った。

 それでも僕らは、今もなおこの関係が続いている。より、強固になって。

「……ねぇ、真琴さん」

「んー?」

 だから試しに、訊ねてみることにした。

「君はまだ、自分が冷たい人間だって、何かが欠落しているって、思ってる?」

「うーん。そうだなぁ」

 僕の問いに間延びした声で返事をして。彼女は弁当の箸を置き、口を拭う。

 そして。

「これが答えかな」


 僕の頬に、口づけをした。

「…………」

 数秒固まって。

「なっ、なっ……」 

 上手く言葉を出せない僕。もう付き合って随分と経つというのに、初心すぎる僕だった。

 そんな僕を見て、真琴さんはおかしそうに笑っている。からかう真琴さんも未だ健在だ。

「そういうところは、ほんと変わらないね。古木君」

 彼女も僕に対して同じようなことを思っていたらしい。眇めるように僕は彼女に視線を送る。ともあれ、彼女が自分のことを少しは信頼出来ているのなら、好きになれているのなら、僕としては十分だ。

 ただ、やられっぱなしというのも性に合わないので、僕は少し反撃をしてみることにした。


「真琴さん、もう付き合って二年以上は経っているんだ。そろそろ名前呼びに変えてくれてもいいんじゃない?」

 僕のカウンターを想定していなかったのか、真琴さんはきょとんとする。

 それから僅かに、彼女は逡巡し。

「……そうだね」

 笑って。

「えっと、じゃあ改めて。これからもよろしくね」

確かに、僕の名前を呼んだ。

「――涼夜君」


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