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枯れた花

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「はぁ、全く。損な役回りだよ」

 私の隣を歩く長髪の彼は、果たして私に向けてかそんな悪態をついた。

「まぁまぁ、ナイスな演技だったよ」

「別に、演技というわけでもないんだがね……」

 再度嘆息する柊さん。普段とは似合わぬことをしたために疲れているようで、体がやや前傾姿勢になっていた。アンニュイな彼の背中を私はポンポンと叩く。


 デート後の古木君と柊さんを邂逅させたのは、私だ。この親戚に私が、彼に計画を断念するよう説得してみてくれと頼んだのだ。

 というのも、古木君が手ずからお母さんをデートに誘うことは予想していたことだった。失敗することも。なので連絡が取れなくなる最後っ屁に古木君に連絡したように、お母さんにも一つ伝えていた。

「古木君がいつか何かしらの理由をつけてデートの約束を取り付けてくると思うんですけど、了承してもしなくてもどっちでもいいです。どのみち計画に大きな影響はないはずなので」

 と。私的には了承してくれない方が助かったのだが、お母さんの優しい性格を考えると断れない可能性の方が高かった。案の定、それで気まずい空気感になったわけで。

 ならば、と私はこの機に乗じて試してみたいことがあった。

 それは。


「結果なんて、最初から目に見えていた」

 柊さんの諦観じみた声が続く。

「彼が諦めないことは自明だ。それにそもそも諦めるなら今とは言ったが、君の母に計画が伝わっている時点で計画は否応なく進んでいく。ゆえにこれは、始まる前から終わっている、茶番にすらならない寸劇だ」

 そうだ。分かりきっていたことだった。私は、古木君が断る想定など一切頭に入れていなかった。

 それでも。

「それでも君は私に命じた。何故か? ……ただ、確認がしたかったんだろう? 自分の計画の要が、リーサルウェポンが、私たちの未来の彼と同じ考えなのかそうでないのか、それらをもう一度確認したかった。自分の行いが、間違っていないと君は思いたかったんだ。違うかい?」

「……ふふっ。流石だね柊さん。その通りだよ、ご明察ー」

 私は笑う。そうだ。確認がしたかった。単に、それだけのことだった。今更臆したわけじゃない。死にたい気持ちはずっと変わらない。

 ――ただ、もしかしたらと思ったのだ。もしかしたら、彼の想いが私の望まぬ形に変わっているのではないかと。だから試してみた。単に、それだけのこと。


「まぁ、結果として安心は出来たかな。これで心置きなく私は最後を完遂出来る」

「そうか。なら、私の行いが功を奏したようで何よりだ」

 言って、柊さんは切り替えるように大きく体を伸ばした。釣られて私も。どこかの関節がポキリと小気味の良い音を鳴らす。私たちの歩幅は、変わらなかった。

「……花凛」

 ふと、柊さんが呼ぶ。

「さっきも言ったが、彼を説得するために使った言葉は演技というわけじゃないよ。もちろん計画が難航しているとか、強制帰還の機械を壊したとかは嘘だったが。――でも、君に対する言葉は、全て本心だ」

 二人分の足音が奏でられる中で、柊さんの声は、私の恩人の声は、いたく耳に突き刺さった。


「……分かってるよ」

 私は言う。

「あなたが私を本当はどうしたいかも、この計画が受け入れきれていないことも、全部分かってる。……でもね柊さん。あなたにも分かって欲しいんだ。私は、これが、この計画を達成させることが、何よりの喜びなんだ。これからをやり直すことよりも、未来を生きることよりも。だから、だから柊さん。私たち二人の物語は、バッドエンドなんかじゃない。メリーバッドエンドでもない。お互いが幸せなハッピーエンドなんだよ。そう、思わせてよ」

 彼の顔は見ない。見てしまったら何かがダメになるような気がするから。私は、未来を見ずに前だけを見つめる。


「……あぁ」

 零れた声は、枯れた花を眺めているようで。

 歩む足どりが、少しだけ重くなった気がした。


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