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比翼連理

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「ねぇ、ねぇ暁人君。体の調子はどう? 辛い? 苦しい? 今にも死んでしまいそう?」

「あはは、心配しすぎだよ華幽ちゃん。前にも言ったでしょ? 大分調子は良くなってきたって」

「そう。そっか。そうなんだ。……もったいない」

「え?」

「あ、ううん、なんでもないの。それより、今日の私、どうかな? これ新しいお洋服なんだけど」


 席を立って全身をくるりと見せる華幽ちゃん。灰色チェックのスカートに肩が出た萌え袖のセーター。俗に言う地雷系っぽいファッションだ。よく似合っている。


「うん。とっても可愛いと思うよ」

「可愛い。ふふ。ふふふふ。ふふふふふふふふ。また、言われちゃった」

 両手で頬を鷲掴むように覆いながら声が連なっている。そんなに嬉しかったのだろうか。

「……ありがとう暁人君。ふふふ。やっぱりあなたからは、格別だよ。じゃあ、私はこれからとっても大事な用事があるから。名残惜しいけど、またね」

「あうん。またね」

 言えば、華幽ちゃんはふらふらとした足取りで僕の病室から去っていった。相変わらず、変な歩き方だった。


 忽瀬華幽(ゆるがせかふか)ちゃん。彼女は僕の家のお隣さんで、幼稚園ほど前からの付き合いである。いわゆる幼馴染ってやつだ。

 華幽ちゃんも度々こうやって僕のお見舞いにやって来ては、安否を心配してくれている。よほどの心配性なのか過激なまでの言葉を連ねることが多いけれど、まぁ、彼女も優しい良い人であることは間違いがないだろう。


 華幽ちゃんがいなくなれば、必然と一人きり。選択すべき行動は既に決まっていた。

 もはや最近の日課のようになりつつある模写。開始した日からそう長い日は経っていないが、次のステージに進んでもいいのではと思うくらいには、上達していた。ここまでの速度で成長出来たのは僕に有り余るほどの時間があったからに違いない。さんざ恨めしく思っていた入院生活ではあるが、そこだけは恩恵と言って差し支えはなかった。


 とは言っても、自分一人きりになる時間が特別多かったというわけでもなく。さっきのように、お見舞いには頻繁に誰かがやって来てくれているので、病人と言う割には人との関わりに時間を費やすこともままあったのである。

 こうしてみると、思いの外僕は人には恵まれていたのかもしれない。……女性ばっかりなのが、少し気になりはするけれど。

 なんて、噂をしていれば。


「おっじゃましますよー! あっくんもとい古木くーん!」

 血に塗れたかのような女の子が、満面のキラキラとした笑みを浮かべながらにやってきた。服装は、以前と変わらず白シャツ黒パンツ。華幽ちゃんと比べるまでもなく、ファッションには全くもって興味がないらしい。


「いらっしゃい花凛さん。そのあだ名で呼ぶのはあの先輩だけでいいよ」

 溌剌とした声の彼女に対して、温度を変えずに迎え入れる。美術部に入ったことは聞いていたが、呼び名までうつってしまうのは勘弁してもらいたかった。

「いいじゃん。可愛くて」

「男の僕に可愛いは要らないよ」

「時代錯誤な発言だ」

「君は未来人だろ」

 僕の苦言に、くすくすと楽しそうに笑っている。この子は、誰に対してもいつもこんな感じで適当な事ばかり言っているのか?


「……はぁ。まぁいいや。それで花凛さん、今日はどうしたの? なんか機嫌良さそうだけど」

「あ、分かる? いやー実は昨日ね、たまらなく良いことがあったのですよ。ようやく積年の恨みをこの拳で発散することが出来たっていう、良いことがね」

 キリっとした顔で自らの手を掲げる花凛さん。何やら物騒な話だ。

それにさ、と彼女は続ける。

「返事ももらえたから」

 表情は、どこか嬉しさを噛みしめるような穏やかさを帯びていた。一体、昨日に何があったというのだろう。


「言っておくけど、詳しくは言えないよ。企業秘密です」

 冗談めかしてまた心を見透かしてくる未来人。秘めごとをする仕草は真琴さんに似ている気もした。

「いや、深く追及するつもりはないよ。どうせ、僕が知る必要のないことってだけなんだろう?」

「おぉ分かってきたね、私のこと」

「そんな感じは全然しないけどね……。で、なら本題は何さ。君が用事なしにここに来るとは思えない」

「あぁえっとね、あなたにちょっとしたお誘いをしようかなって考えてたんだけどー……お?」


 花凛さんの言葉が止まった。何やら首を傾げている。変なものでも僕についていたかと、きょろきょろと辺りを確かめてみるが、花凛さんの視線の先には僕ではなくその隣にある椅子に向けられていたらしかった。


「誰か、来てた? いつもと椅子の位置が違う」

 鋭いというか、めざとい鮮血だった。

「来てたよ。一時間くらい前お見舞いに、僕の幼馴染が」

「忽瀬さんが?」

 当たり前に名前を知っていた。

「……うーん、それはちっとまずいかな。感づかれた可能性があるね」

花凛さんは誰に向けたわけでもないような声を零して、深刻そうな面持ちになる。

「まずいって、何が?」

 上手く飲み込めず、僕は問う。一応僕も彼女の計画は頭に入っているつもりだ。その中で、華幽ちゃんが脅威になるようなことはなかったように思えるのだが。


 未だ顔に真剣さを残したまま、彼女は思案に暮れている。僕の声が聞こえているのかいないのか。

 しばらく待っていれば、返答が返ってきた。


「可能性の話だから、まだはっきりとは言えない。ただ、忠告しておきたいこともあるから後で伝えることにするよ。それまでは待ってて。というわけで、古木君」

 と、花凛さんは言葉を置いた。何がというわけでなのか皆目見当もつかないが、本題が気になっていた僕は次の言葉を待つことにする。

そして。

「――私と比翼の連理といこうか」

 聞き間違いであることを、祈るばかりだった。

 


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