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Mastema

青年、エリオは深い森の奥、朽ちた遺跡の中で一人の男と対峙していた。男は黒いフードに身を包み、その顔の輪郭さえも闇に溶け込んでいた。しかし、彼の瞳だけは鋭く光り、エリオを捉えて離さない。


「我々は皆、心の中にMastemaを宿しているのだよ」と、男は静かに笑った。声は冷たく、まるで空気自体が凍るようだった。「善とは何か、悪とは何か。その定義すら、君の生きる世界では曖昧だろう。君はただ、その曖昧さの中で苦しみ、迷うだけだ」


エリオは言葉を返そうとしたが、喉の奥で何かが詰まったように声が出なかった。自らの心の中が、彼の言葉を認めているのを感じたのだ。確かに、彼は何度も善悪の区別に苦しみ、選択するたびに後悔してきた。それは道徳の迷宮だった。だが、こんな男に認めさせるわけにはいかない。


「そんな…ことはない…」エリオは絞り出すように声を出したが、言葉は虚ろに響くだけだった。


「ほら、まただ」と男は小さく笑う。「君は自分自身を騙しているだけだよ、エリオ。人は誰しも、Mastema――心の中にある混沌と欲望、その本質を持っている。善も悪も、全ては自分の解釈に過ぎない。君が恐れているのは、その事実だ」


エリオの胸の中で何かが重く沈んだ。彼は無意識に拳を握りしめた。視線を落とし、胸の奥にある暗い感情が膨れ上がるのを感じた。男の言葉が、かつて感じたことのない痛みを呼び起こした。


「君はその苦しみを避けることはできない。自分と向き合い、Mastemaに従うかどうか、それを決めるのは君だ。だが、忘れるな。どちらを選んでも、代償はある」


その言葉は、エリオの心に深く突き刺さった。彼はその場で立ち尽くし、男の背中が闇の中に消えていくのをただ見つめていた。


遺跡に響く風の音が静けさを強調する中、エリオは心の中で一つの問いを反芻していた。善悪の区別とは、果たして誰が決めるのだろうか? そして、自らの中に潜むMastema――その影に飲まれるか、それとも抗い続けるべきなのか。

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