兎と龍
???~side
竿をい泉に垂らして獲物が来るのをひたすら待つ。もっぱら最近は、これがワシの日課になりつつある。
そう言えば、数年いや、数百年前じゃったか?
八雲と言う大妖怪に仕えた九尾が主に会ってほしいとやってきたので、普段は妖怪や人間を招き入れないワシの庵に迎え入れた。
なにやら、昨今の人間による妖怪狩りの事についてワシの他に神や仙人賢者の助言を得ているとの事。
興味を引かれた、何しろ外界を隔絶して妖怪と人が共存して暮らす理想郷を創ると言う行動をとっておるとか?
その美しい大妖怪の提案に最初は疑い半分、一部の望みを託して八雲の庇護下に入った人間や弱小妖怪も
多いと聞く。本来ならワシは仙人の端くれとして参加する…… と、言った所じゃが、今は【まだ】興味が無かったので、遣いの九尾に丁重に断る旨を伝えた。
「九尾殿、その申し出は大変ありがたいが、今は【まだ】協力する事が出来ない。まだ【もう暫く】は人の【世】を見ておきたいのでな。じゃが、【時】が来ればこの【ワシ】もご助力致しましょうとお伝え下され」
「かしこまりました。兎の賢者殿。でも残念です。この大陸で仙人と呼ばれた【左慈】と呼ばれた聖緋殿をお招きすることが出来ないとは。 はぁ……。紫様も残念がられるでしょう」
「ワシはそうは思わんよ。これは安請け合いではない。いずれ、人と妖怪のバランスを司るものが現れる。今はそれしか言えんのぅ」
狐殿は少し考えこむと「ふむ、貴女がそう仰られるとそうなのでしょうね」と考え込む。幻想郷の外界を遮断する博麗大結界を執り行うに当たっては人間の霊力の高い博麗の一族がその儀式を執り行うから
さほどそれは問題ない。
問題は、一部の妖怪が【その掟に素直に従うか】と言ったところじゃが、そちらは余り心配なかろ。何せ大妖怪に反旗を翻す愚か者はそうは居るまいて。
ワシは九尾殿を丁重にお見送りすると庵を後にした。
さて、客人も無事帰って行ったので釣に行くかのぅ?
ワシは笠を被り竹の釣竿を持って何時もの沼に脚を運んだ。
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???~side
紅美鈴~side
あの兎の仙人に呼ばれて久しぶりに、この沼にやって来た。彼女曰く此処は邪魔が入らない数少ない穴場なのだとか? それにしても、ここ最近は人間の妖怪狩りが多発していて、私と技を競える
相手も次々に人間に狩られしまい、大半は山奥か別の地域に移り住んでしまって少々暇を持て余しています。
そんな時、あの兎の仙人から手合わせを挑まれて、まぁ、私も油断していたのですが、まだまだ世界は広い兎と侮っていたのも悪いのですが物凄く強かったので本気で【修行】をして、何度か手合わせをしているうちに彼女とはいい友人になった。
それでも、人間の妖怪狩りが活発になり、お互いに山奥に潜んでいましたが、私はこの地を離れる事を決めました。
(でも、その前に彼女と一試合をしてから、この地を離れるのもいいですね?)
恐らく、このじゃれ合いが私にとっての今生の別れに成るかも知れないとそう感じていた。
でも、彼女ならどんな状況でもやって行けそうな気がする。
何しろ逸話が多い仙人ですからね。
やや、森を抜けるとそこに広がった沼と言うか湿地が見えてきた。そこに人一人が腰を下ろすのに丁度いい岩があって笠を被った彼女が腰を下ろし釣り糸を垂らしていた。
何時もの様に釣竿とその横には魚を入れる篭と時々人間に変装して手に入れる酒の入った徳利がある。
それを杯に入れて彼女はゆっくりと飲み干す。そして、振った竹の釣竿を沼に垂らし魚が掛かるのを待つ。その姿は自然と一体化していて並みの者では彼女の気配どころか存在すら認識出来ないほど
【気配】を自然と同化していた。
(しかし、私にあまり意味のない対策ですね? では、少し仕掛けてみますか)
自分の気をかなり抑え込んであたりの気配に溶け込む。そして、あの兎の後ろに回り込んで背後を取ってみよう。と考えて一歩足を動かそうとすると。
兎がこちらの動きを感じ取って振り返らずに語り掛けてくる。
「ほぅ、龍殿は意外と小心のようじゃな? 兎を相手に気配を隠すとは?」
「やはり、バレてましたか?」
あくまでもこれは陽動で本命はこの沼地から誘い出す事にある。この沼地には何時【龍】になってもおかしくない巨大な怪魚が住んでいて、もしこの兎に共闘でもされたら流石に厄介なことになる。
だから、出来れば沼ではない場所で勝負したかったのですが、それも読まれていましたか?
「お主、自分の策を読まれたと思っているようじゃが…… 生憎とそれは違うぞ。
此処の主殿は儂等の勝負には【興味】が無いと言っておってな、最初からだんまりを決め込んでおるのじゃよ。まぁ、主殿も変わり者故、此処で勝負を鑑賞したいとか?」
「成程、それは上々。私も手練れの妖怪を二人同時に相手にするのは骨が折れますからね」
沼の主が手を出さないなら十分やりあえる。では、先手必勝で行きますか?
気を操り無数の弾丸を編み出すと一斉に彼女に目掛け放つ。私の気を操る程度の能力を使えば彼女の気配やその動きを感じ彼女が避ける位置に弾丸を撃ち込む事みその後格闘戦に入る事も可能。
しかし、その考えは直ぐに無意味な物に変わる。
「まだ、詰めが甘いのぅ。それ!!」
彼女が初めて【気】を私に感じ取らせると、背後から無数の気で作り出した弾が私にめがけて一気に襲い掛かって来る。ソレらは全て私の【気】を読み取り追尾を始めた。
(成程、こちらの気を感じ取り追尾して仕留める。鬱陶しい技ですがこうも数が多いと他の相手なら……
特に【人間】が相手なら十分脅威ですね? しかし)
これらの弾幕はあくまでも私と言う【気】を追尾するだけのモノ、なら、その【気】を無散させてしまえばいいだけの話。
と、私の気を全て消してしまうと私を追っていた全ての弾は追尾を辞め見当違いの方向に飛んで行った
弾が通用しないと踏んだ兎はこちらに体術で接近戦を仕掛けてきた。
だが、彼方もかなりの修羅場を潜ってきたのか、私の打撃を全て捌いてしまう。
「ほう、その構え、拳法か? ならばワシも暇の気晴らしに覚えたモノでお相手をしよう」
「成程、貴女も拳法が得意なのですか? 残念ながら私は妖怪ながら妖術がからっきしでして、この通り人間の武術家の真似をしているだけですよ」
「そうは思えんのう。どこかの名のある御仁の元で修行でもしたのかね?」
と、あたいの無い会話をしながら、格闘と弾幕を繰り出していると……。
ぶくぶくと水面が泡立ち波紋が大きく広がり、水中からこの沼の主が姿を現した。どうやら、私たちはこの主を怒らせてしまったようだ。
「まったく、人が止めんと、お主らは、この沼を更地にする気か! もう少し場所を考えてからどったんばったんして欲しいものだ…… まったく」
「かかか、許されよ」
「すみません。つい熱が入ってしまって」
私たちはそれぞれ、詫びると、さっきの仕合で荒れた沼の周辺を片づける事にした。一通り片付けが済んだ後、兎殿が一つの徳利を取り出し木の盃を袋から取り出すと、私達に宴会の提案をする。
「さて、ここらで少し宴というのも良いじゃろう? どうじゃ? 主殿に竜殿?」
「そうじゃの、ではご相伴に預からせていただこう」
「そうですね。では一杯だけ頂きましょう」
そうして、私達は盃をそれぞれ手にし、銘々近況やそれぞれの立場を話し合った。
「最近は、やたら、妖怪を退治して名を上げてようとする人間が増えて困りますね?」
「そうじゃのぅ、まあ、来るなら、ワシはそやつを喰うまでじゃか、兎殿は此か、らどうなされるか?」
沼の主にそう訪ねられる。正直な話、私は外見は一見人間に近い雰囲気をしているのと、気を操る事が出来るのでそう、あの手の手合いを欺くのは容易いが、最近はかなりの手練れも増えて来たので、しばらくこの地を離れるのも悪くないと考えている。
「そうじゃのう、折角じゃし、ワシは暫くは人間に紛れ込んで暮らしてみるとするかのぅ」
「?」
「そう言う考えも有るのか?兎殿」
人間の街に溶け込み、妖怪と悟られずに隠れて潜む。木を隠すなら森の中と言う訳ですか?
どちらにせよ、この兎が大人しく隠れ潜んでいる訳がない。とは言え、私もこれ以上、この地に踏み止まるのも愚策と言える。なら、外見が【人間】に近い妖怪は人の群れの中つまり、人間の街に紛れ込んで隠れるのが一番無難な生存方法ともいえる。
しかし、その考えを彼女は即座に否定した。
「いや、ワシの場合はただ単に、人の国、そこの中の営みと凋落等を見てみたいのじゃよ」
「なるほどのぅ、それも一理あるが。大半の妖怪はこの地を離れる事を選んでいると他の者からきいたぞ?
ま、儂はそうじゃのぅ、この沼まで静かに暮らすとするかのぅ。ああ、すまん話を遮ってしまったのう」
と笑いながら、彼女は私を見て私はそれもあり得る話だと納得する。確かに妖怪の上位になると外見は人間に似て妖気のコントロールが出来れば人間に気が付かれずにそのまま暮らしていける。ただしそれは人間の街の貧民区や訳アリの組織に属していれば多少は下手な事をしなければ気が付かれる事もない。
ただ、私の場合いまだ、何処に行けばいいのか? さえ、これっぽっちも考えていなかった。
「ええ、そうですね。兎殿はともかく、私もあちこち放浪するのも良いと考えてました。とりあえずは気のみ気のまま彼方此方を当てもなく渡り歩てみようかと思いますね。」
「……行き当たりばったりじゃな?」
「なら、ワシが一つ占ってみても良いかな?」
そう言うと彼女は、こちらの顔をじっと見て、ふむふむ。頷き少し間を置いてから、うなづくと
おもむろに語りだした。
「お主、なかなか、面白い相が出ておるの。お主が進むべき道は二つじゃな。まず一つ、絹の道を通り天竺を目指せば、誰にも見つからづに怠け者で終える道とここよりはるか先の西に向かえば、西の妖怪に使える事になる」
「西の妖怪?」
「そうじゃよ、そこなら、お主は退屈をせづ、赤い館の門番をしておるぞ」
これは、面白い事を言いますね、私が宮仕えしかも西の妖怪の門番と?
ご冗談を、と兎に言おうとしたら、真顔だったので、つまり本当の事なのだろう。
この兎、昔にとある国の王を予言で気絶させた事があるから、これは本当の事なのだろう。
「ふふ、それも良いですね。人間に使えるより、こちらの与太話のような占いに乗って、一度、西を目指しましょうか?」
「ああ、それと、天竺は止めておけ、そこに行くとお前さんは【怠け者】妖怪として一生を無駄にするとワシの占いに出ておるぞ」
はは、なるほど。あの国は確かに止めておきましょう。毎日、問答や修行を勧められて流石の私も少し気が滅入りますからね。その日は、互いに宴会をした後、早々に私は旅支度をして人間が言う絹の道を通ってひたすら西に向かうことにした。