フラグ55 送別会(朔斗編)
残暑も少し残る9月下旬、今日は朔斗の最後のバイト&送別会だ。
俺は大学が終わってからいつも通りバイト先へ向かった。
「おはようございまーす」
「たかちゃーん!はよ!」
「うすー」
ちょうどタバコに行こうとしていた朔斗とすれ違い最後であろう挨拶をした。
楽屋に行くと店長がいて、店長にも挨拶し着替えた。
今日のシフトは、店長、竜生(扶養ギリギリ)、歩、愛衣、優人、萌香の7人だ。
ちなみに竜生は本当に扶養ギリギリなので20時入りになっている。他は店長と朔斗以外は17時入りでまだ誰も来ていない。
まあ、ちゃんとシフト時間の15分前に来てるの俺だけだからね。
10分前になると続々と来だし、3分前くらいに愛衣が到着し17時入りは全員揃った。
「今日は朔斗さんのラストなので朔斗さんからなにかありますか?」
「え?いやー頑張りましょう!」
突然?の店長の振りに朔斗らしく適当に答え営業が始まった。ちなみに今日のキッチンは野球部コンビの俺と歩。あ、もう俺は野球部じゃないか。
給料日後の金曜日ということもあって結構来店が続き、19時になる頃には満席となった。
キッチンはそれなりに安定しているのだが、ホールが少しバタついている。
それもそうだ、愛衣は月1回程度のシフトだし、優人と萌香は仕事を覚えてだいぶ動けるようになったが、少し要領が悪い。なので実質、朔斗と店長でまわしている感じだ。
「おれちょろっとホール出てきて洗い場まわしとくから少しの間頼んだ」
「任せてください!」
「きつかったら呼んでー」
「りょうかいです!」
歩にそう伝え、俺はホールに出た。
提供をしつつ空いている皿とグラスを片っ端から回収して、溜まった食器を洗ってキッチンに戻った。
「ういっすーないすー皿大量に洗いやしたー」
「あざます!」
「オーダーどんなん?」
「めっちゃ〆ものきてます」
「おーまじじゃん、やりがいあるねえー。当分洗い場まわせんかも」
「大丈夫です!僕そろそろオーダー切れるんで」
「じゃあよろー」
(といったもののめっちゃ〆もんラッシュだな、たのしんでくかー)
なんとかホールも耐えて、ひと段落したところで竜生が出勤してきた。
「おざすー!」
「ういすー、竜生、今日のラッシュ終わっちゃったよ」
「まじ?」
「キッチンもホールもひと段落したわ」
「じゃあ休憩代わり要員か」
「そうねー」
俺と竜生の会話を聞いていたのか店長が優人に休憩を言い渡した。
「キッチンはそっちのタイミングで休憩行っちゃっていいから」
「わかりましたー」
「どうします?」
「んー腹減ってる?」
「それなりには」
「じゃあ先行ってきていいよ」
「あざす!ゆうとが作り終わったら行きますね」
「ういー」
21時過ぎになり、歩が休憩から帰ってきたので入れ替わりで俺が休憩に行き、楽屋に入ると愛衣が後ろから入ってきた。
「愛衣も休憩?」
「そー賄い一緒につくろ!」
「えーいいよ」
「やった!美味しい作り方おしえてー」
「いや教えても愛衣が作るんじゃ不味くなるよ」
「ひどいー」
そんな話をしてても俺と愛衣はキッチンに行った。
「たかちゃんほんと久しぶりじゃない?」
(ほんとよくしゃべんな)
「そーだなー3ヶ月ぶりくらい?」
「うわーそんな?」
「愛衣がシフト入ってないんだろーが」
「だってえー」
「よくそれでクビになんねえな」
「バイトにクビなんてあるのー?」
「しらんー」
「ところでたかちゃんはなにつくるの?」
「んーてきとー」
「それが美味しいんだからずるい!」
「ずるくはねえだろ、こちとら小1の頃から料理してんだから年季がちがうの」
「えー!そうなの!初知り〜」
「おい、そう言いながら同じフライパンに入れようとすんのやめろ」
「バレたあー」
「あーもういいよ同じもんでいいならやるから入れな」
「わーいありがとーたかちゃんだいすきー」
「はいはい」
「じゃあご飯盛っちゃうね」
「ういーさんきゅー」
(簡単に野菜炒めとかでいいか)
まずごま油で牛バラを焼いて、少し火が通ったら切ってあるピーマンと玉ねぎ、キャベツを入れて炒める。全体的に火が通ったところで塩コショウと醤油を入れれば焼肉屋の簡単野菜炒めの出来上がり。お好みで七味とか温玉を乗せても可。
飯テロ狙ってんの?
はい。
「できたぞー」
「わー美味しそうー、水持ってくから先行ってていいよ!」
「はいよーありがとう」
俺は賄いを持って楽屋に入り、すぐに愛衣が入ってきた。
「はい!みずー」
「さんきゅー」
(いただきまーす、、、うん!美味い!やっぱ天才だなー)
「いただきまーす!」
「どうぞー」
愛衣も座って賄いを食べ始めた。
「んー!美味しいよ!美味すぎるよ!」
「ありがとうございますー」
「もうたかちゃん賄いのレシピ作ってよ!」
「えーいやだよめんどくさい、分量とか適当だし」
「えー」
「しかもこれ賄いのルールすれすれで作ってんだから」
「そーなの?」
「一応、肉1人前と他1品ってのは守ってるけどさー、野菜盛りを1品としていいのか」
「あーいいんじゃん?」
「愛衣も店長がいる前であんま暴走した賄い作んなよ」
「わかったー」
特に話すこともないため黙々と食べ、俺が食べ終えたところで愛衣から話しかけてきた。
「そういえばさー、かのちゃんってたかちゃんと同じ部活なのー?」
「そーだよ、引退したからだっただけど」
「この前話してたよー」
「え!なんて?」
「いつも助けられてるって」
「そんな助けてないけどなあ。それほんとおれか?」
「そうだよー、だって部活の話してたし、うちが知ってるのたかちゃんしかいないじゃん」
「それはそうか」
「なんにしてもいい子だねえ」
「愛衣の年上だけどな」
「そう!だからこそこうくるものがあるんだよ!」
「変なこと教えるなよ」
「だいじょーぶだよう、仲良いし」
「ほんとかー?」
「ほんとだって!たぶん」
「たぶんじゃねえか」
「えへへー」
俺と愛衣が休憩戻り最後は朔斗と萌香が休憩に入っていった。
すると、萌香だけがキッチンに賄いを作りに来てこういった。
「たかとさん、朔斗さんが賄い作ってって言ってました」
「えーじゃあつくるかー」
(さっき作ったのと同じでいいか)
俺は自分の賄いと同じものを作り楽屋に届けに行った。
「ほーいおまちどう」
「たかちゃんありがとー!」
「はいよー」
「たかちゃんの賄い食べるのもこれで最後かあ」
「夕飯ぐらいこれから彼女に作ってもらえ」
「絶対たかちゃんのほうが美味いもんー」
「そりゃどーも」
「じゃあいただきまーす!」
「どうぞー」
「うん!やっぱ美味しい!ありがとね!」
「どういたしましてー」
そうして俺はキッチンに戻りクローズ作業をし始めた。
「あゆむーおわったー?」
「はい!洗い場もおっけーです!」
「じゃああがるかー」
今日はホールもキッチンも同時に終わり全員ほぼ同じ時間帯に退勤した。
その後は雑談して終礼をして朔斗は店長から花束をもらい店を出た。
「じゃあいつものとこで予約とってるんでいきましょー!」
歩が仕切り、飲み会の店へと向かった。
店にはもうお馴染みのバイトメンバーが着いていた。もちろん歌乃も。
「おつかれさまです!」
「ういすー」
席順は俺と歩、竜生、朔斗が同じで今日は優人も近くにいる。
全員最初の飲み物を頼み終わるとある人物が来た。
「おつー」
「え!健人!?」
「おつおつー」
「スペシャルゲストです」
「なんかそわそわしてるなって思ったら歩が呼んでたのかー」
「そうっす」
「朔斗の送別会はさすがに行かないとね、あ、ちょっとごめんね」
健人は優人にそう言って竜生の隣に無理やり入っていった。
「健人さん生でいいですか?」
「おうよろしくー」
歩が健人に聞いて店員さんを呼んで追加で注文した。
「健人まじ久しぶりじゃん」
「たかと元気そうでよかったよ」
「今日仕事帰り?」
「そーめっちゃつかれたー」
「社会人おつかれさまです」
「あ、みんな紹介しますね。3月までバイトしてた健人さんです。たかとさんとさくとさんと同じ歳なんで、21の代ですね」
「おねがいしまーす」
全員年下ということもあってか戸惑っていた。
再び各グループで話していると飲み物がきて、乾杯ムーブになった。乾杯の音頭はもちろんこの人。
「はーいじゃあグラスもってもろて、今日は朔斗の送別会なのでみんなで朔斗をベロベロにさせましょー!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「うわー健人もいるこの感じなつかしい!」
「そうっすね、このフルメンバーで飲むの久しぶりっすもんね」
「そうだなー、竜生とか朔斗とかとはたまに飲みいったりするけどたかとと歩とあんま行ってないからなー」
「仕事は順調なんすか?」
「んーめんどい」
「社会人だー」
「なんだよその返し」
「あ!そういえばたかとさん気になる人ができたらしいですよ」
ゴフっ
「なにそれきかせてよ」
「できてねえできてねえ」
(あーもうだりいなあ)
「たかちゃんにも春が来たのかあ、これで思い残すことなく去れるよ」
「だからできてねえって!」
「健人さん、朔斗さんまだ早いってことです。もうちょい飲んでからだそうです」
「そういうことね」
「おい!話進めんな!」
(でもこの感じ久しぶりだな)
みんなが酔っ払う前に恒例のプレゼントと寄せ書き贈呈式を行った。ちなみにプレゼントは喫煙者にはお馴染みのジッポー。
この日は健人と久しぶりに会ったからか結構飲んでしまい、少し気持ち悪くなったので一旦外に出て、地べたに座った。
きもちわりい、いまなんじだ?3時かあ、終わりまでもつかなあ。今年もあと3ヶ月で終わりか。3ヶ月、、
俺はふとさゆりとの約束を思い出していた。
クリスマス、お互い相手がいなかったら、、ねえ。
「たかとさん大丈夫ですか?」
(びっくりしたあ、歌乃か)
「あーへーきへーき、どした?」
「歩さんがたかとさん見てきてって」
(またあいつか)
「かの、ありがとね。だいじょーぶだから戻ってへーきだよ」
「いえ、わたしはわたしの意思できたので」
「歌乃らしいな」
「えっと、、ききたいことがあって、その、、さっき歩さんたちと話してた気になるひとがいるっていうのは」
「いや!違うから!じゃなくて!いないいない!」
「ほんとですか?」
歌乃は俺の顔を覗き込んだ。
(その上目遣いはやめてくれえ)
「ほんとほんと!」
「わたしはてっきりさゆりさんのことかと」
「いや、まあその気になるっていうかさゆりはおれにとって、、、ごめん吐きそうだから水買ってくる!」
(吐きそうなのは事実だし、うん、逃げたわけじゃない)
俺は走ったせいか酔いがまわり、側溝に向かって吐いた。
ふぅーすっきりしたあ、じゃない!歌乃一人にしちまった!
俺は大急ぎで店の前に戻った。歌乃はまだ店の前で座っていた。
「ごめん!もう大丈夫だから中戻ろっか」
「はい」
(ちがう!そうじゃない!)
俺は階段を上がろうとしたところで立ち止まり、歌乃の目を見て言った。
「歌乃、さっきのことだけど」
「はい」
「俺はたぶんさゆりのこと好きなんだと思う。けどまだわかんない、好きの中に尊敬もあるしこれを好きと言っていいのかもわからない状態なんだ」
「そう、ですか」
「答えになってない答えでごめんな」
「いえ!たかとさんらしくてわたしはいいと思いますよ!ちゃんと話してくれてありがとうございます!」
なぜ歌乃にこんなことを言ったのか歌乃がなぜ気にしていたのかわからなかったが、頭も回らない状態でなにも考えずに出たその言葉が今の俺の気持ちで本心なのだと思った。
「あ!たかちゃん帰ってきた!」
「おまたせしやした!」
俺はすぐに歩の隣に座り、小声で説教した。
「おまえまじよけいなことすんな!」
「いやだって歌乃のほうからたかとさんどこ行ったんですかねってきくから」
「え、そうなの?」
「がちっす」
「信じるぞ」
「僕、なんだかんだでたかとさんに嘘ついたことないですよ」
「たしかに」
「じゃあお詫びで、かんぱい」
「かんぱい」
「たかちゃーん、ちょっとちょっと」
「今度は朔斗かよーなに?」
「この寄せ書きの朔斗へ、、」
「おい!音読すんな!」
「えーだってうれしかったんだもーん。この最後の一緒に大学もバイトも卒業したかったって、そんなふうに思ってくれてたんだー」
「もうやめてくれえー恥ずかしいからやめろー」
いつも通りいじって朔斗は満足気な顔をしてから真剣な顔をして感謝を伝えられた。
「たかちゃん、ありがとね」
「おう!」
結果、俺、竜生、健人、朔斗の同学年or同じ歳メンツは酔いつぶれ、歩が最後に会計と諸々やってくれたそうで、使えない先輩たちでごめんなと思った。こういうところしっかりしてんだよな。
でも、朔斗をベロベロにするっていう目標は達成できたからいっか。




