エピローグ
「な!?なななななな!!?」
「あら祥子さん、どうしたんですか?」
「な、なんで、なんであんたがいるの?消滅したんじゃ???」
「何言ってるんですか、祥子さん。私が消滅するってどういうことですか?」
「いや、だって!あんた攫われた私を助けに来て、私に力を託して…」
「おい、祥子、攫われたってどういうことだ?」
「え、いや、その、だから」
「祥子さん。寝言は寝てから言ってくださいます?私は消滅なんてしてませんし、祥子さんは攫われていません。何言ってんだかわからない祥子さんなんてほっといて、賢様はメロンを召し上がれ。はい、あーん」
「ちょ、ちょっと!!何してんのよ!!」
祥子はリリィに詰め寄る。
「何するんですか、祥子さん、邪魔しないでください!」
「お兄ちゃんにあーんできるのは妹だけなんだから」
「そんなこと、何時何分何秒に決まったっていうんですか?」
「たった今よ!メロンよこしなさい!」
「二人とも!!やめないか。俺は一人でメロンを食べられるんだから」
「お兄ちゃんは黙っててよ」
「賢様は口を挟まないでください」
「とにかく、お兄ちゃんは私のよ!!」
「義妹の癖に、分身と本体の深い絆に入り込めるとでも?」
「血のつながりは関係ないのよ!!」
賢はベットでオロオロしていたが、二人の言い争いに口なんて挟めなかった。でも、なぜか懐かしく、煩いけど、微笑ましい。
口喧嘩しながら、リリィは考えた。
<ご心配をかけないよう賢様の記憶は一時的に封印させていただきました。そのうちバレてお叱りを受けるでしょうけど。でもなぜわたくしが復活できたのか、わたくし自身もわかりませんね。これこそ賢様の愛の力!…と思いたいのですが、それにしても確率があまりに低すぎます。何か人為的な介入を疑いたくなりますが…誰が?何のために?どうやって??>
考えてもわからない。なので、リリィは今存在できていることを喜ぶだけにしようと思った。だから、
「女子力5のくせに可愛い妹ぶるのやめてくださいます?」
「あんだと!!コノヤロー!!」
「やるんですの!!」
この馬鹿馬鹿しい時間をリリィはせいぜい楽しむのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とあるビルの屋上。スミスの主人。エティエンヌが座っていた。
「あちゃーー。目を離してた隙に、好き勝手やってくれちゃって」
勅命により、『女神』が出現した際にはすぐに連絡せねばならず、殺害などもってのほかであった。
幸いなことに、いや不幸なことではあるが、スミスは『女神』の殺害に失敗し消滅してしまった。
「ま、王様にバレることはないっしょ。好きにしろって言ったの僕だしさ。さて、いつものスタルバクスに…」
大好きな新作フラペチーノを飲みに行こうとして量子転移、したはずだったのだが。
「ん??ここは???」
スタルバクスの店のそばではなかった。何か見覚えのあるような室内。
よく見ると、
「げ!?王様!!」
そこは、王であるリヒャルトの執務室だった。執務椅子に鎮座するリヒャルトの傍には、いつもはヒルダを守護している双子、リザとルイーゼが控えていた。エティエンヌは王によって強制転移させられたのだ。
「やあ、エティ。元気そうだな」
「お、王様こそ、ご壮健そうで」
「時にエティ。単刀直入に聴くけど、『女神』に会ったりしたかな??」
「い、いえ別に、まだ僕の監視網にはかかってないですよ」
「んん??おかしいなあ?そこの双子ちゃんたちは、君の分身が不完全な『女神』を殺害しようとしたって訴えてるんだけど??」
「お、お前らあ!!僕を売ったな!同じ主人の分身なのに!」
「観念しなさい。エティ」
「今度こそあんたは罰を受けるべきよ」
分身最強を誇るエティエンヌとて、王であるリヒャルトに逆らうことなどできない。この場は逃げるが最善。だが、
「ぐウ!転移できない!」
リヒャルトだけならまだしも、エティエンヌに匹敵する分身2人も加われば彼の権能をロックするなど容易かった。
「逃げるんなんてもったいない。せっかく君のために、男の娘用メイドバニー衣装を用意したんだから。超ミニのフリフリスカートに真っ白いニーソ。絶対領域がとても映えるぞ」
リヒャルトが、ゴソゴソと机の引き出しから、件の衣装を取り出し、双子に渡した。
「さあ、これを着るのよ。とても似合うと思うわ」
「我が君に撮影会をしてもらいなさい」
「嫌だ、嫌だああああああ」
「無理やりにでも着させるわ」
「私たちと同じ屈辱と羞恥を味わいなさい」
二人の少女が迫る。
この世で最も残忍な笑顔で。
前回のお仕置きに自分だけ逃げ出したことを根に持っている二人によって、この場でひん剥かれて無理やり恥ずかしい衣装に着替えさせらるのはもはや避けることはできそうにない。だから、彼にできるのは、
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
絶望の叫びをあげることだけだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『新緑の女王』アンネローゼの分身、ワーウルフは怪鳥コッカトリスを肩にのせ、アンネローゼの居室に訪問した。彼女に呼び出されたためである。
「姉さん、呼び出しに応じ参上しましたぜ」
「サンジョウシマシタ!!サンジョウシマシタ!!」
一人と一匹が玉座に座る女王に挨拶をした。
「ああ来たわね、ワーちゃんとコッカチャン。ところで女王を姉さんって呼ぶのやめてくんない?」
「それなら、わーちゃんとかもやめて欲しいですけどねえ。そもそも、なんで俺ら、固有名じゃなくて種族名なんです?」
「いいでしょ?だって世界にそれぞれ一人と一匹しかいないもの」
「イッピキ、イッピキ!!」
「うるせえ、コッカトリス!!で、用向きは何で?」
「そうそう、ヒルダ様から頼まれたのよ。分身を貸して欲しいって」
「えー。ヒルダ様ですかい?あの人怖いから苦手なんだよなあ。あの双子の護衛も目つき悪いし」
「こら!!聞かれたらどうするのよ!!」
「そんな聞かれるわけ…あるか。やばい権能をお持ちであられるようだし」
「まったく。で、『博士』がついに『遺跡』調査を始めるらしいからその監視をして欲しいって」
「そんなこと、分身のエティ坊やにやって貰えば…」
「そのエティエンヌくんが我が君のお仕置きで再起不能になって閉じこもってるとか」
「あー。王様も変態なご趣味をお持ちですからねぇ。仕方ねえ、行ってきますや」
「お願いね」
「了解しやした、姉さん」
「もう!その姉さんってやめてちょうだい!」
そんなわけで、ヒルダの居室に。ワーウルフは豪華な玉座に鎮座するヒルダを前にして跪き、挨拶の口上を述べた。
「ヒルダ様におかせられましては、ご機嫌麗しく。女王アンネローゼ様が分身、ワーウルフとコッカトリス、只今参上いたしました」 「サンジョウ、サンジョウ!」
「よくきてくれました。ワーウルフさん、コッカトリスさん。用向きは既にお伝えしたと思いますが、『博士』が実施する『遺跡』の調査の監視です。よろしいですか?」
「はい、心得ておりや…、じゃなかった、心得ております、ヒルダ様」
ワーウルフは慌てて言い直した。ヒルダは優しそう微笑んでいるだけだったが、そばに控える二人の少女リザとルイーゼは、冷たい表情でワーウルフ達を睨む。とても怖い。
「ではお二人にお願いします。エティエンヌが閉じこもってしまって、ごめんなさいね」
「いえ、お気になさらず」
「それではあなた方に量子転移能力を貸与します。これで現地に向かってください」
一礼して、ヒルダの居室から退出すると、さっそくヒルダから貸与された能力で、転移する。行き先は、日本。
「おう、量子転移ってのは便利だな。ところでここが日本ってとこか」
初めて目にする日本だが、君主リヒャルトの経験や知識を共有しているのでまったく知らなかったわけではない。そもそも『城』での公用語は日本語なのだ。しかし、
「なんか王様の知識とはちょっと違うよな。あの方、色々知識が偏っているからねえ」
結構間違った知識も多いんじゃないかと何となく疑ってはいたのだった。
「ともかく、寝床を探すかねえ」
分身なんで飲食も睡眠も必要ないが、どちらもあったほうがいい。とりあえず、拠点が欲しいとこだ。
「ま、ぶらぶらして探すとするか」
『博士』が動き出すまでにはもう少しかかるらしいので、のんびり探す事にした。ワーウルフの姿から大男の姿に擬態して、コッカトリスは、ただの九官鳥になった。そしてその大男は九官鳥を肩に乗せ歩き出すのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そこは、『遺跡』の最深部。その『意思』は新たな王を待ち望んでいた。
<頼むぜ。もうそんなに長く持たねえ>
『ニナ』と人類に命名されたその意思は消耗し、もう、祥子にも賢にも声を届けることはできない。彼女の元に到達するには、多数配置された『守護者達』を突破しなければならない。
<あの王様、それにあのバカな妹、本当にここまでやってこれるのか?不安しかねえ。ったく、なんであんな沢山配置するかねえ、あのクソジジイ>
ボヤくニナだが、信じて待つしかない。そして今度こそ守ろうと誓った。新たな王とその世界を。
もう、あんな結末を人類にもたらしてはならないと。




