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ロードオブフェアリーズ  作者: 耳無猫(without pockets)
第2章:正義の戦士リリィ
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勇気の女神

「梨々香…。思い出せないけど、感じるわ。あなたって子は」


祥子はずっと賢と梨々香の顛末を見てきた。とめどなく流れる涙。賢を守るために、その存在ごと、世界線から自らを消し去った梨々香。


「でも、お兄ちゃんは、自らを歴史から消し去ったはずの梨々香を、無意識に分身『正義の戦士』リリィとして復活させた。それは、奇跡。いいえ、それは奇跡を超えた奇跡。結局、お兄ちゃんは王になってしまったけど、本来覚えていられるはずはないのに、道理を超えて梨々香を覚えてたんだ」


「そうよ。賢ちゃんはやっぱり王様なんだわ。私への愛が溢れすぎ」


「え!?」


そこには、消えたはずの梨々香の姿があった。


祥子と梨々香は何もない真っ白な空間で対峙していた。


「ふーん、祥子って大きくなるとこうなるのね。可愛くて羨ましいわ。でも胸は残念な感じね。私知ってるの。賢ちゃんはおっぱい星人だって」


「あんだとおお!もう一度言ってみろこのクソガキがああ!!愛に胸は関係ないんじゃああ!!」


祥子は16歳の姿だったが梨々香はあの頃の幼い姿のままだ。


「ふふ。そんな怒りっぽいとこは変わってないのね、冗談よ」


「ったく。で、あんた一体?」


「私は思いの残滓。賢ちゃんが道理を超えて心の奥底にしまった残留思念」


「梨々香…」


「今こそあなたにこの力を託すわ。ちょっと悔しいけど、賢ちゃんを守れるのはもうあなたしかいない。歴史が変わってしまった以上、女王の力を引き継げるのはあなたしかいないの。だからお願い。外で闘っているリリィを助けてあげて。賢ちゃんを守って!」


「わかったわ。任せてなさい。そんでもってお兄ちゃんも心もゲットしてみせるんだから」


「ふふ。どうなるのか、賢ちゃんの心の奥底で見守っててあげる。でもそのガサツなとこ直したさないとスタートラインにも立てないと思うわよ」


「うっさい。残留思念は見守るだけにしときなさい!」


「頑張りなさい!祥子!」


「行ってくるわ。世界とお兄ちゃんを救いにね!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


リリィたちは絶体絶命であった。


エネルギー切れで動けないリリィ。同行したヒナコもスミスの攻撃を受けてダウンしていた。


「ただ殺すのは趣味ではないが、歯向かった強敵を殺めるのは本当に高揚するな、こんな感情は初めてだ。感謝するぞ、リリィとやら」


「あ、あんたなんかに感謝されたくないですわ、この変態!」


「さて、消滅してもらおう、クククク…」


「くそう!!」リリィのすぐそばで、ヒナコが悔しく唸るが、体が動かない。妖精でなければ即死だったろうが、相手が悪すぎる。リリィですら結局手も足も出なかった。


今まさに手刀がリリィの異空間にある『虫核』を貫こうとし、ヒナコがもうどうにもならないと観念したときだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


ものすごい唸り声と共に、自身を貼り付けていた十字架を粉々にし、祥子が突っ込んできた。


「んん!!?」


スミスは、攻撃を受ける直前に量子転移で距離をとり空中に浮く。


「祥子さん!!」「ショウコ!!」


「二人とも!!もう大丈夫!夢の中で大体の状況把握してるから説明いらないわよ。このスーパーヒロイン、祥子に任せなさい!」


「ヒロインが、うおおおおおおお、なんて言わないと思いますわ」

「可愛くない、1点」


「うっさいおまえら!!外野は大人しく寝てれ!!」


祥子は外野を一喝すると、転移で移動し空中のスミスと対峙する。


「ククク。今のは避けなければ我が虫核ごと破壊してたかもしれんな。やはり目覚めたのか?女王に。いや、貴様らの方は、『女神』と呼ぶのが正しいのだったか?」


「女神…。ニナって女も自称してたわね。んじゃ、今から私は『勇気の女神』とでも名乗るわ!」


「何ですか、その安直な二つ名は」

「その厨二っぽい名乗りあたしは嫌いじゃないぜ」


ヒナコはインカムから、リリィは分身の能力である『パス』を使って祥子にチャチャを入れる。


「だからおまいらは黙ってなさい!んじゃ、行くわよ、変態!!」


「最初から全力で来い。主人が幼虫ではすぐエネルギー切れするかもしれんがな」


二人がリリィの頭上で対峙する。意識を失っていた祥子がまさか『女王』いや「女神』として目覚めるとは。もしやあの記憶に触れたのだろうか?


リリィの思いをよそに、二人の激突が始まった。


祥子は多数の槍を空中に生成した。


「祥子さんがグングニルを!?やはりあの記憶を!」


多数の槍がスミスの周りを飛び交う。

いくつかの槍がスミスを狙う。狙うたびにスミスは量子転移を繰り返し、槍を破壊していく。


「あのリリィとやらよりも多数の槍を生成できるのか。だがいくら作ったところで当たらなければ意味がないな」


「じゃあこれでどう?」


直後、空間が茶色い何かに覆い尽くされる。


それは…


大量のクマのぬいぐるみだった。


「クマのぬいぐるみですって!?祥子さんの頭の中ってどうなってるんですの?」

「はは!さすが自称『女神』は一味違うぜ!そこに痺れる憧れねえー」


二人の容赦ないツッコミにいちいち反応するのが面倒なのでとりあえず無視。


「なんでクマのぬいぐるみなのかわかりませんけど、もう『女神』の力を使いこなしているんですね、祥子さん」


祥子の振るう能力は、『物体生成』。材料となる元素が近くにあれば、それらからどんなものでも作り出せる。ただし本人が強くイメージできるものだけである。リリィは槍と戦闘服(という名の衣装)そして氷の壁を作り出りだしたが、よりによってぬいぐるみを作り出すとか、謎の発想力にリリィは驚かされる。


スミスを囲むぬいぐるみたちがスミスに殴りかかった。


「ふざけた攻撃だな」


スミスは量子転移するが、転移したすぐそばのぬいぐるみがスミスを襲う。


「鬱陶しい!」


スミスは全身から光弾を放ちぬいぐるみを一掃しようと、


「かかったわね!」


スミスの真ん前に祥子が。そして全力の蹴りを喰らわせる。


「ぐっ!」


スミスは咄嗟に量子転移を行い祥子の背後を取ろうとしたが、


「『女神』に背後なんてないわ」


背中から光弾を発射し、それを量子転移で再度避けるスミス。


「どう!?結構ダメージ食らったんじゃない?」


「『女神』を自称するだけあるな。多少は食らったぞ」


「あんたが量子転移をいくら使おうと『女神』には通用しないってわかった?」


「だが量子転移できる俺に致命的なダメージを喰らわすこともできんぞ。持久戦ではお前が不利だ、少女。貴様の主人が幼虫だということを忘れるな」


「…。そうね。んじゃ、お互い全力の一発で決めない?その量子転移ってのも禁止。ロックさせてもらうけど」


「ククク。華奢なくせに豪胆な少女だな。俺はパワーでは自信があるが?」


逃げ回って祥子の消耗を待つ方がスミスにとって有利だ。いかに『女神』を名乗ろうと、賢が完全体ではない以上、いずれ力が尽きてしまうからだ。しかしそこは『戦闘狂』。祥子の提案にスミスは敢えて乗った。


「じゃあ、こっちはこれで勝負させてもらうけど」


祥子は今度は、超巨大クマのぬいぐるみを出現させた。


「どこまでもふざけた技だな。いいだろう。パワー勝負で行かせてもらうぞ」


巨大クマさんとスミスが空中で対峙する。


「あたし、りかに聞いて知ってるぜ。ショウコがクマのぬいぐるみを自分の兄貴に見立ててよなよ…」


「あああああああああああ、重症者は黙って寝てろって言ったでしょうが!!」


ヒナコの暴露話を大声で封じて、祥子は構えをとる。クマのぬいぐるみも同じ構えをとった。


スミスとクマのぬいぐるみが動いた。


凄まじい衝撃波がリリィとヒナコを襲う。




強い光が、二人の頭上で輝いた。



「祥子さん!!」

「ショウコ!!」



長引く光球。一体激突はどうなったのか。もどかしい。


光の中から降りてくる影があった。

祥子だ。祥子はゆっくり着地すると、膝をついた。


「力使いすぎて眠い…」


「祥子さん!!」

「ついにやったのか!?」


が、


もう一人降りてきた。勿論スミスだった。彼は片手を抱えてつつ、着地した。


「さすがに無傷とは言えないが、まだお前を殺す力は、残っているぞ、クク」


「くそ、こいつ!!」


「『女神』を殺したら王からお咎めを受けるだろうがそんなことはどうでもいい。俺は勝負にはきっちりケリをつけるタイプなんでね」


「もうちょっとだけ力が残ってたら、こんな変態野郎なんかに負けないのに!!」


今度こそ絶体絶命 —————-


「ヒナコ。お願い。ほんの1秒、いいえ、0.5秒でいいから時間を稼いでください!!祥子さんを助けます!!!」


リリィが叫んだ。


「わかった!!!これでも、食らええええええええ、おっさん!!!!!」


うつ伏せに倒れたままでヒナコは最大級の『渦糸』を放った。糸のように細い強力な渦がスミスを襲う。


「ん!?」


コンマ五秒、いやコンマ1秒の隙が生まれた。これだけあれば十分だ。スミスにロックされずに展開できる。『時間停止』を。


祥子とリリィを除く時間が止まる。


「な、何!?何なの!?」


「賢様のお力でちょっとだけ時間を停止しました」


祥子のそばには、いつの間にか、幼い頃の梨々香が立っていた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「梨々香!!」


「…。この姿を知っているってことは、やっぱり見たんですね、あの記憶を」


「あんた、リリィ?」


「そうですよ、これがわたくしの最終形態です」


大人の美女形態だったリリィは今度は、幼女の姿、梨々香になっていた。


「あんたに力を譲り受けて、私は『女神』として目覚めたの」


「そうなんですね。では、最後に残った力も託しましょう」


「え?何言ってんの?そんなことをしたらあんた!?」


「ええ、消滅するでしょう」


「分身だからお兄ちゃんが願えば復活できるんだよね???」


「残念ながらそれはほぼ不可能です。奇跡を超えた奇跡でも無理。もしかしたら同じ姿形の分身が生成されるかも知れませんがそれはもはや別人です。梨々香の記憶もないでしょう」


「それじゃ!!あんた本当に消えちゃうじゃない!!」


「仕方のないことです。私ではあいつを倒せませんし」


「仕方ないって、何言ってんのよ!だって、ようやく復活できたんでしょ!奇跡を超えた奇跡で。道理を超えてお兄ちゃんの心の中の残留思念で!!なのにまた消えるっていうの!私とお兄ちゃんを巡って喧嘩して、でも最後は笑い合うんじゃなかったの!!!」


「祥子さん…。わたくしは梨々香そのものではないのですよ。わたくしは彼女がこうありたいという願いの結晶。賢様は、梨々香の願いを叶えてくださったのです。それは望外の幸せ。それで十分なのです」


「でも!!」


梨々香の姿をしたリリィは祥子を抱きしめた。


「!!!」


「聞き分けのない子は賢様に嫌われますよ」


「梨々香のばか」


「ふふふふ。ではお願いしますよ。賢様はお優しすぎてとても心配。いつも人のことばかり。だから、託します」


「託されるのはこれで2度目よ。貸しは、高いんだからね!」


「時間停止もこれでおしまい。ほんのコンマ1-2秒しか止まっていません。動き出したらご注意を」


祥子は涙を拭って言放つ。


「これも2度目だけど、わかったわ。行ってくる!!」


世界が、動きだす。


ヒナコが放った『渦糸』を難なく手で払いのけるスミス。彼は、力を取り戻し眼前に対峙する祥子にすぐに気がつく。


「な!?どうやったか知らんが、リリィとやらのパワーを吸収したのか?奴の存在が感じられん」


「そうよ。もう一回勝負する?」


「そうだな。お違いもはや拳で一撃程度だろう?量子転移は勿論、お互い異空間ジャンプも使えんようだしな」


「つべこべ言わず拳で勝負するの、私大好きよ」


「はは!同感だ」


祥子もスミスも拳に最後の力を込める。


「純白の女王の陪臣、『戦闘狂』スミス」

「王の妹、『勇気の女神』荒川祥子」


二人は、唸り声をあげた。


「うおおおおおおおおお」

「だあああああああああ」


スミスの強烈な右ストレートが飛ぶ。


だが、


リーチで劣るはずの祥子のアッパーカットが先にクリーンヒットした!!


声もなく、飛ばされるスミス。そしてズドンと地面に落ちた。


「…あんたって意外と体術弱いよね。パワーに頼りすぎなんじゃない?」


「俺が、負けた、か」


「私たち妖精はよわっちいから小さな力で最大限の攻撃ができるよういつも体術を磨いているの。あんたみたいに生まれた時から強者ってわけじゃないのよ、か弱い女の子なんだから」


「ククク。貴様のような強者が、自らをか弱いなどと言って周りの者から反論されたりせぬのか?」


「うっさいわね!!女心わかってないやつはぶん殴るわよ!」


「ごめん被るね。さっさと我が中核を破壊するがいい。それが勝者の特権だ」


「躊躇しないわよ」


「ククク。それでこそ『女王』、いや『女神』だ。せいぜい自分の王を守るといい」


祥子は横たわるスミスの胸に手を置いた。それだけで虫核は消滅した。


「最後に言い残すことは?」


「ない。俺は楽しんだ。主人の分までな」


スミスは薄くなり、やがて消失した。


祥子は、スミスが消滅したのを確認した後、必殺技で力を使い果たして気を失っているヒナコの元に駆け寄る。


「ヒナコ!!!ヒナコ!!!しっかりしなさい!!」


「ううウ。。ショウコか?」


「今、体力をほんの少しだけど回復させてあげる」


ヒナコの手を握り、力を送る。


「少し楽になった。助かった。ところで、リリィが見当たんねえぞ。あいつはどこいった?」


「リリィは…。私に全てを託して消滅したわ」


「…そか。そんな気がしてた。りかの店の店員にしようと思ってたんだけどな…」


「私は戻るわ。あんたをかついで米軍基地に連れて行く体力の余裕はないのだけど」


「大丈夫だ。ヘリを呼ぶから。お前はできるだけ早く兄貴や姉貴のとこに行ってやれ」


「わかった」


異空間ジャンプする体力は残っていないので、とりあえずビルを飛び降りて妖精の力で着地。そこから飛ぶ力も残っていないのでやむなく徒歩で基地へと戻った。歩くのもしんどいが、まずはお兄ちゃんにことの顛末を話したい。リリィが梨々香の想いの結晶だったこと、祥子に全てを託して消滅したこと、全てを話したい。梨々香の願いを継承し、不完全ながらも『女神』として覚醒したことも。お兄ちゃんに抱きついて少しの間泣きたい。そして決意を新たにしたい。


そんな沢山の想いを胸に、賢の病室の扉をガラッと開いた。


「お兄ちゃん!!話があるの!」






しかし病室では…




「賢様、差し入れのメロンにございます。はい、あーーーん」

「リリィ。俺は一人で食べられるんだが」


消滅したはずのリリィが甲斐甲斐しく賢のお世話をしていたのだった。


「え”!???」

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