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ロードオブフェアリーズ  作者: 耳無猫(without pockets)
第2章:正義の戦士リリィ
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在りし日

「賢ちゃん!早く、早く!」


「待ってくれ、梨々香」


「早く行かないと祥子に見つかっちゃう」


「いや、祥子に見つかってまずいことは…」


「私は賢ちゃんと二人がいいの!」


本阿弥梨々香は、袴田賢の手を取り強引に引っ張っていった。


本阿弥梨々香、7歳。袴田賢の住む家のすぐ近所に住む少女だ。袴田賢は彼女より3歳年上だったが、いつだってイニシアティブは梨々香の方がとっていた。


梨々香が賢を引っ張っていったのは、近くの公園。『王様と戦士ゴッコ』をするためだ。王様役は賢で、戦士役は梨々香と決まっていた。


「梨々香が王女様、俺が騎士というのが普通じゃないのかい?」


「そういうの、『すてれおたいぷ』だって、ママが言ってたもん。とにかくう、あたしが賢ちゃんを守るの!」


梨々香に押し切られてしまう、いつもの日常だ。


「さあ、王冠とマントをつけて、つけて!はやく、はやく!」


おもちゃの王冠とマントを賢は無理矢理装備させられる。その前に梨々香は跪き、


「王様。ごめいれいを」


「めいれい?えっと」


「ねえ、早くしてよ」


「あ、うん、リリィよ。お前を正義の戦士ににんめいする。わるい奴らを討伐せよ。だっけ?」


「はい、王様。あなた様のために、悪い奴らを退治して参ります!」


梨々香は、用意してあったおもちゃの槍を手にすると、公園を駆け回る。


「やああああ!せいぎのやり、ぐんぐるるを喰らいなさい!!」


「り、梨々香!危ないよ!」


賢は槍を振り回して走り回る梨々香を注意したが、いつもの如く聞いてくれない。


「王様をいじめる奴はどこ?正義の戦士リリィが退治してやるんだから!」


『正義の戦士リリィ』こと本阿弥梨々香はひとしきり公園を走り回った後、


「王様。悪い奴らはみーんなやっつけました!」


「はあ、はあ、はあ。えっと、うんと、よくやった、リリィよ。そなたの働きにより世界のへいわは保たれた、だっけ?」


走り回る梨々香を追いかけて、息も絶え絶えな賢。


「わーーい!」


なおも走り回る梨々香。二人がこんな遊びを始めたのは、賢が梨々香にヒーローもののテレビシリーズの話をしたのがキッカケだった。民を導こうとする王様と、王様を守護する戦士の物語。これまでそんなヒーローものの番組など見たこともなく、大人しい少女だった梨々香だが、賢に教えてもらった番組を視聴して衝撃を受け、以来、正義の戦士として公園を走り回るようになり、今に至る。


「そろそろ、終わりにしよう、梨々香」


「えーー。まだ遊びたいんだけど…」


梨々香は賢の顔を覗き込む。優しく笑っている賢の顔に疲労の色を感じ取ると、


「そうね。今日は終わりにしましょ。王様のおことばだもんね」


「はははは」


二人は、小道具を片付けて帰り支度を始めた。そこに、


「あ”ーーーーーーー!また私のお兄ちゃんを勝手に連れ出して!!」


公園に賢と梨々香を発見し、猛烈な勢いで走ってくる賢の妹、幼い荒川祥子が現れた!!


「私のって!!なんで賢ちゃんがあんたのものなのよ!」

「だってお兄ちゃんは妹のものって決まってるじゃない!」

「そんなのいつ決まったのよ!何時何分何秒に!?」

「生まれる前からに決まってるじゃない!」

「本当の兄妹じゃないくせに!」

「あ”—!!今言っちゃいけないこと言った!!このお!!」

「何すんのよ!!」


二人の喧嘩はヒートアップ。賢はオロオロして、


「二人とも!喧嘩はやめてくれ。仲良くしてくれよ」


「お兄ちゃんは黙ってて!!」

「賢ちゃんは黙ってて!!」


哀れな賢にはちっとも発言権などなかった。これも日常。いつものこと。祥子は不機嫌ながらも小道具の片付けを手伝う。なんだかんだ実は仲の悪くない二人の少女。賢も梨々香も祥子も、この日常はずっと続くと、疑問にも思わなかった日々。


もしあんなことがなければ、もし、あそこに行かなければ、あれに見出されれなければ、きっと。

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