決戦
リリィは、研究所の窓から飛び出して、指定されたビルに向かおうとしていた。『異空間跳躍』で行けない事もないが、決戦に向けて少しでも体力を温存しておきたかった。窓から空中に飛び出すと、声が聞こえた。
「おい、リリィ!あたしも連れてけ!」
声の主はヒナコだった。
空中に浮かぶヒナコとリリィ。
「ショウコが攫われたんだってな」
「貴方、米軍なのになんでそれを?」
「りかに教えてもらったんだ。あいつ電話かけてきて、助けに行けって」
「人類最強だか何だか知りませんが、力不足です。帰りなさい」
「聞いたぜ。あの兄ちゃんを眠らせてきたんだってな。分身とか名乗ってるのに本体にそんなことをしていいのか?」
「賢様は王なのですよ!王の御身体の安全が第一。あんな不埒な輩、わたくし一人で十分です」
「りかが言ってたぜ。リリィは本体と同じように頑固だって。何でも一人で抱え込むなよ。あの兄ちゃん、フェアリーを強化できるって知ってるぞ。報告書で読んだ。オマエもそうゆうことできねーのかよ?」
「—— いいでしょう。貴方を連れて行きましょう。王よりお力をお借りしてるため、貴方を強化できます。けど戦闘に参加できるだなんて思わないでください。強化しても逃げるのがやっと。私が闘っている間に、隙を見て祥子さんを連れて逃げてください。運がよければ逃げおおせるかもしれません」
「分かった。強化頼む」
リリィはヒナコの腕を掴み、『力』を送った。
「!!な!?体が軽い!今までよりも遠くに飛べそうだぜ!」
「通常空間からの『跳躍』距離がおおよそ倍になったと思います。だけど覚えておいてください。エネルギーだけでは戦闘能力は計れません。単純な戦術では敵に読まれて力を『ロック』されてしまい敗北します。分身というのは、あなたがたニンゲンが相手にしてた『妖魔』とは根本的に違う恐ろしい存在なのです」
「ニンゲンって…。人類じゃないって言ってるみたいだな」
「その通りですよ。わたくし達は、人類を素体にしてはいるものの、本質的に異なる存在なのです。さて行きますよ。連れて行く以上、貴方の命は保証できません。国際問題になってもわたくしは知りません」
「わあってるよ。あたしだってフェアリーだ。ちゃんと覚悟はできてんだから」
二人が指定されたビルの屋上に向かうと、例のサングラスをかけた黒スーツの男が腕を組み待っていた。
「遅いぞ。この小娘は貴様の主人の妹だと聞いていたが」
祥子は鉄骨で組み上げられた十字架に縛られて意識を失っていた。なんとも古典的な演出だ。
「多少痛めつけたが問題ない。もう回復している」
おそらく大脳の機能が抑制されて意識を失っているようだが、妖精の『力』の回復力で身体には問題なさそうだ。
「もう一人連れてきたか。俺に隙を作ってこの娘を奪還して逃げるつもりか?ま、試して見るがいい。そこの少女にできるとも思えんがな」
「あんまりナメんじゃねーぜ、おっさん。こっちは人類最高のフェアリーなんだかんな」
「わたくしは王の直臣。見たところ貴方は陪臣のようですね。直臣にはそう簡単に勝てませんよ」
「確かに俺は女王の直臣ではないが、我が主人は最強の分身。その主たる『純白の女王』ヒルダ様は王をも凌ぐお力をお持ちだ。対してお前の主はまだ羽化すらしていない幼虫。いくら王の直臣と言えど、主が幼虫では、最強の女王の眷属の相手は厳しかろう?」
「そんな余裕な態度でいられるのも今のうちですよ」
リリィはヒナコの方に振り向いて
「ヒナコ。下がっててください。絶対に戦闘に参加してはいけませんよ。ちょっと隙があったからって行動を起こしてはいけません。あの男がダメージでピクリとも動けなくなって隙ができるまで待ちなさい。いいですね?」
「それって『隙』って言わないんじゃね?でも分かった。あたしもバカじゃない。あんなのと闘えるなんて、流石のあたしも思ってねえよ」
リリィは右手を横に伸ばし、槍を呼ぶ。
「さあ、おいでなさい、我が槍、グングニルよ」
光の一筋が走り、やがて槍へと変化したそれを、リリィは握った。腰に手を当て名乗りを上げる。
「この次元を遍く照らす太陽の王、我が君賢様が分身、『正義の戦士』、リリィ」
リリィの名乗りに、自らも名乗りで返答するスーツの男。
「『純白の女王』の分身エティエンヌ様が眷属、『戦闘狂』スミス」
再び二人は雑居ビルの屋上で対峙する。
「ずいぶん月並みな二つ名ですこと」
「貴様もな。だが、二つ名など捻らず分かりやすいものの方が良い。その方が自分の本質を表現できるからな」
「それには同意しますわ。だって」
リリィは槍を構え突っ込みながら、
「これは正義の槍ですもの!」
スミスは上に飛んでリリィの避ける。
「ん!?」
リリィが振るった槍先がスミスの飛んだ先から突然出現する。
スミスは加速していたため物理的に避けるのは難しいが、亜空間跳躍は時間と空間を合わせた4次元とは別の方向に『跳躍』することで槍を避けた。
が、
「『跳躍』で逃げても無駄!」
異空間では物理法則が通じないため、攻撃するのは難しい。しかし、『跳躍』の名の通り、長時間異空間方向にズレていられない。すぐに戻らなければ凄まじいエネルギー消費してしまう。しかも通常空間への再出現位置は比較的予測しやすい。異空間内でフェイントするのは難しいからだ。
「串刺しになりなさい!!」
黒スーツの男、スミスが空中に再出現した。
そこに、複数の槍先が虚空から出現し、宣言した通り、串刺しにしようとする。そうすぐに亜空間跳躍はできないはず。このまま串刺しになるかと思われたが、
スミスはリリィの背後に『いた』
「な!?」
スミスは強烈な蹴りをリリィに喰らわせる。
リリィは咄嗟に亜空間跳躍で避けたが
「ぐ!」
完全には避け切らず少し蹴りをくらってしまった。
「貴方、『跳躍』とは違う技で避けましたね」
「そうだ。貴様らでは絶対に避けられないし出現位置も予測できん」
亜空間跳躍で避けても出現位置はある程度予測できる。しかし、さっきの瞬間移動はスミスの言う通り全く予測できなかった。最初にスミスと闘った時にも同様の技を披露していた。警戒すべき技だ。
しかし、こんな大技、短時間にそう何度も使えるとも思えない。どんな致命的な技だって隙さえあればロックして封じることも不可能ではないはず。
「知っているぞ。貴様は力を隠しているのだろう。さっさと出せ。本気ではない貴様を消滅させてもつまらんしな」
「見てたんですね、覗き見男。いいでしょう、私の真の美貌をお見せしましょう!!」
リリィたちが闘っている場所からはだいぶ遠い場所で身を隠しているヒナコ。彼らの会話は本来聞こえるわけはないが、リリィがモニターして彼女の亜空間波インカムに届けていたので聞いていた。ので、
「そこは真の美貌じゃなくて、真の力だろ」
と突っ込むのであった。
☆ ☆ ☆ ☆
「待っててやる。さっさと変身とやらをするがいい」
「どうぞご期待ください。美貌も強さもワンランク上になりますから」
リリィは、神槍グングニルを放り投げる。
「行きますわよ!リリィアダルトチェーーーンジ!!」
リリィの体が強い光に包まれ、その肢体膨らみ、布が巻き付いて、ホットパンツ、胸元を大胆に見せた見事なプロポーションの美女が出現した。そして放り投げて落ちてきたグングニルを再び掴み、セクシーに見栄を切った。
「アダルトリリィ見参!この見事なプロポーションをご覧なさい!!」
「プロポーションなど知らん。そもそも大きな乳房など闘いにくそうな要素に思えるがな」
リリィは眉を顰めると
「本当にそうかどうかはその体でお確かめいただきます!」
と言い放ちつつスミスに向けて突撃する。スミスは構えるが、
「遅い!!」
リリィは蹴りを繰り出す。その足だけが転移して、スミスにヒットする。
さらに槍先が四方から出現し、スミスを襲う。
「グアアあ!」
ダメージを受けたスミスはまたあの検知できない転移を行おうとしたが、そこに光弾で追い討ちをかけられ、墜落してビルの屋上に叩きつけれらた。
だが、
「ヒナコ!!まだ動いてはダメです」
ヒナコに待機を伝えた。そして
「さあ立ってください。お遊びはここまでです。ほとんどダメージを受けていないことはわかっています。貴方も実力をお出しください。わたくしが出しているのだから」
「くくく。確かにダメージを受けていないが、今のは全く反応できなかったぞ。お前は俺の実力を見せるのに相応しい相手ということか。では俺も変身とやらをさせてもらうぞ」
「早くしないと攻撃しますよ。わたくしは貴方みたいに気が長くありませんから」
「ふ。待っていろ」
スミスは腕をクロスさせ、
「ぐぐぐぐぐっっがあああああああ!!!!」
恐ろしい形相で唸り、クロスした両腕を上げた。きていたスーツは破け、筋骨隆々の体が出現した。
サングラスだけをかけ、あとは何もつけていない、素っ裸の変態が。




