女子力3番勝負:プロローグ
「あ“あ“あ“あ“あ“!お洋服買いに行きたい!マック行きたい!コスメ買いたい!!あ“あ“あ“あ“あ“あ“」
祥子は椅子の上で頭を抱えながら唸っていた。彼女はここしばらく妖精科学総合研究所とその附属病院から一歩も出ていない。妖精研の宿泊棟で哀れにも声を上げる祥子に、友人兼部下のりかが口を挟む。
「コスメなら研究所の売店にも売ってるだろ?」
「あれじゃ選ぶ喜びがないじゃん!わたしはモールに行ってお買い物がしたいの!」
ショートパンツ姿で椅子の上で胡座をかきつつ、りかは面倒そうに返す。
「そんなこと言ってもねぇ。司令の許可が出ないでしょ」
「うわあああああああん!!陽子お姉ぇに直談判に行くわ!」
陽子お姉ぇとは、第1妖精隊司令、袴田陽子2等空佐のことだ。謎の妖魔に襲撃を受けた祥子は、2度目の襲撃を避けるため、妖精研の外に出ることを禁止されている。もう2週間以上外に出られないため、祥子はかなりうんざりしていたのだった。
「外に出れないのにどうやって第1妖精隊司令部に行くのさ。大人しく研究所で待機してるんだね、きひひ」
「うわああああああん!!」
祥子の唸り声が鳴り響く居室のドアを誰かがノックした。
「どーぞ」りかがノックに勝手に応える。
「失礼しますわ」
祥子の居室に入ってきたのは、袴田賢を王と崇め、その分身を自称し、美少女戦士ショーに出てくるようなひらひらミニスカートの衣装に身を包む、自称『正義の戦士』リリィだった。
「あんた何しにきたのよ!」
「ご機嫌斜めのようですね。しかしながらご静粛に。この時空全ての知性生命体にあまねく君臨する、我が君、賢様の御成です。最敬礼を」
手を胸に当て頭を下げるリリィ。
「リリィ。やめてくれ。祥子とりかちゃんじゃないか」
頭を下げるリリィに続き、祥子の義兄、袴田賢も入ってきた。
「おにいちゃん!!」
兄を見ると条件反射的に走りよる祥子をリリィは遮る。
「ちょっと祥子さん!たとえご親族といえど、王権は絶対です。最敬礼を!」
「やめないか、リリィ!」
「も、申し訳ありません、差し出がましい真似を、どうかお許しを」
「いや、君を非難するつもりはないんだ。俺も強く言い過ぎた。許してほしい」
「もったいないお言葉!お許しくださり感激の極みです!」
「うーーん」
一時が万事、こんな調子のリリィに頭を抱えつつ、
「祥子、調子はどうだい?」
「聞いてよお兄ちゃん!陽子お姉ぇが外出許可くれないの!いつもひどいけど今回はほんとひどいわ!!ちょっと結婚を焦っているからって私に当たるのやめてほしい!もう死にそう」
「ねーちゃんが結婚を焦っているとは初耳だが…。いやそうじゃなくて、祥子を心配してるからだよ。姉ちゃんはいつも俺たちの味方だよ」
「だけどぉ!!もう2週間も外出れないんだよ!」
「せめて、何か祥子を元気付ける催しでもできれば」
「それじゃ、賢さん」
「ん?なんだい?」
『女子力対決』ってどうかな?」
「「「はあ?????」」」
唐突なりかの提案にその場にいた面々は思わず声を上げたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「女子力対決って…。ほんとあんたの言うことは、唐突すぎて予測できないわね」
「だって面白そうじゃないか。しょーこがどれほど女子力を発揮できるのか、楽しみすぎるよ、きひひ」
「あ、あんた!もしかしてバカにしてたりする!?」
「祥子さん」
リリィは片目に手を当てて何かを測っているような仕草をしていた。
「な、何よ?」
「失礼ながらあなたの女子力は、5です。ゴミですね」
「なななななななな!突然何よ!?あんた、女子力が、見える、の!?」
「んなわけないだろう?しょーこ。揶揄われているだけだよw」
「ふふふ、祥子さん。結構信じやすいタチなのですねw」
「あんた達!!最後の『w』は何よ!『w』って!!バカにして!!やってやる、やってやるわ!!女子力を振るって、私がお兄ちゃんに最も相応しい女だって証明してやるわ!」
「あなた、そもそも女子力ってなんだかわかってらっしゃるんですか?お料理とかやったことないって言ってませんでしたっけ?」
「う!!そ、そんなの教えて貰えばできるようになるわ。要は愛情よ!」
「そんな付け焼き刃じゃ、とても賢様のお口に合う料理などできるはずもありませんわね」
「研究所の研究員さんに料理が得意なお姉さんがいるわ。仲良しになったから教えてもらえるわ!!今から頼んでくる!!うがああああああああああああ!!!」
唸りながら、祥子は部屋から走り去っていった。
「ちょっと!祥子さん!!」
「行っちゃったよ。ま、あの謎の行動力は彼女らしいけどね、きひひ」
「りかちゃん、ありがとう。これで祥子も元気が出るはずだ」
「ちょっとからかっただけなんだけどさ。てゆうか、賢さん、体はもう大丈夫なのかい?」
「もうあの気持ち悪さも無くなったよ。もう直ぐ退院できるはずだ」
「お言葉ながら、賢様は幼虫でいらっしゃいます。何とぞお力を無理にご使用なさらぬよう」
「よくわかんないんだけど、幼虫って、賢さんは…」
「美世さんや南条先生にも申し上げましたが、賢様は未だ力を解放なさっておられません。賢様のお体は完全ではないのです。もし力を無理に解放すれば、御身に回復不能なダメージを負いかねません」
「リリィ。俺は、必要ならいつでもこの力を使う。そうしなければ誰かを守れないのであれば。その誰かにリリィだって含まれるんだよ」
リリィは跪いて言う。
「勿体無いお言葉。しかしながら、お力が必要ならばこのリリィにお命じ下さい。幼虫であられる賢様を守護するのがわたくしのお役目でござますゆえ」
「リリィの意見に僕も賛成だよ、賢さん。彼女の説明じゃ幼虫ってのが結局なんだがわかんないけど、兎に角賢さんはまだ完全じゃないってことは僕も感じるよ。妖精の王様だって言うなら、賢さんはきっと前に出ちゃダメだよ」
「りかさんの言う通りにございます。どうか、ご自愛くださいますよう」
「わかった、わかったよ。リリィ。君を困らすのは俺の本意じゃない、さあ立ってくれリリィ」
「はい、我が君」
賢が手を差し伸ばすと、リリィは嬉しそうに、本当に嬉しそうにその手を取り、立ち上がった。
「さあ、りかちゃん、リリィ。その『女子力対決』ってやつの準備を始めよう」
「畏まりました。部屋に戻って必要なものを手配いたします」
「僕は南条先生や美世さんに話を通しておく。賢さんは部屋に戻って静養しててよ」
「いや俺も…」
「これは上官命令ってやつだよ。これでも2等空尉なんだからねっ」
「ははは、これは失礼しました、小隊長殿。病室に戻ってるよ」
「王に命令など不敬にも程がありますが、りかさんの意見に賛成です。どうかお部屋にお戻りいただけますよう」
「2人に言われちゃ形無しだ。2人ともよろしく」
「頼まれた」
「仰せのままに、我が主」
「リリィは病室に帰る俺の護衛をしなくていい。1人で戻るからさ」
「し、しかし、御身の安全が」
「リリィ。たまには俺の指示を聞いてくれ。分身なんだろう?」
「も、申し訳ありません、我が君。これより勅命を果たして参ります」
「頼りにしてるよ、リリィ」
「は、はい!!」
「頼りにしている」という賢の言葉が本当に嬉しかったのか、頭を下げるとすごい勢いで部屋を出ていった。
「こっちも祥子に負けず劣らずわかりやすい性格してるね、きひひ」
「そうだね、2人とも良い子達だ。2人とも俺が、必ず守ってみせる。勿論、りかちゃんもね」
守るなんて言われて、りかはなんだか無性に跪きたくたが、恥ずかしいのでやめておいた。やはりこの人は妖精達の慈悲深き王ということなのだろうか、そう思うりかであった。




