怪盗デビュー!
「まず、俺が今まで盗んでたのは全て盗品の宝石だ」
翌日。放課後に再び木戸家を訪れた瑠奈は、アジトに通されて相賀から説明を受けていた。
「正規ではない手順を使いまくってるが、盗品の宝石の居場所を調べて盗みに行ってる」
「犯罪者って言い方は好きじゃないっていうのは、義賊だったからね」
「そうだ。大体夜の二時くらいに行ってるな」
瑠奈は「やっぱそれくらいの時間になるよね…」とため息をついた。
「俺も瑠奈も部活入ってないし、早めに帰って仮眠をとればなんとかなるさ」
相賀はテーブルからリモコンを取り上げ、操作した。部屋の電気が消え、天井に取り付けられたプロジェクターが壁に映像を投影する。
「今回のターゲットは大粒のサファイア、『人魚の涙』。サファイアの中でも透明度がトップクラスの宝石だ。元々ある大金持ちが所有していたんだが、何者かに盗まれたらしい」
投影された映像には、キレイに透き通ったサファイアが映っている。と、映像が切り替わった。十階ほどのビルが映っている。
「ターゲットがあるのはこのビルだ」
「一見普通のビルだけど」
「それがそうでもないんだ。このビルはある小さな会社が持っているものだが、社長が腹黒でな。社員にロクに給料を払わずに趣味の宝石収集に充てているらしい。このサファイアも、盗品だとわかっていながら闇オークションで競り落としたらしい」
相賀が肩をすくめると、瑠奈はソファの背もたれに体を預けた。
「なるほどね。それで、計画は? 相賀のことだから、綿密なんでしょ?」
「流石。わかってるな。今週の土曜日だ。正確に言えば日曜だけどな。一時半にここに集合して、ビルにつくのは二時くらいだ。警備員が二人正面入口に立ってるから、気付かれないように屋上から侵入する。ターゲットがある部屋は八階にあるから、瑠奈はそれより下の階、五階くらいで騒ぎを起こしててくれ」
「警備員を全員集めて、盗みやすくするのね」
納得した瑠奈は「あ」と立ち上がった。
「ゴメン。五時から空手の稽古だから、もう帰らなきゃ」
「もうそんな時間か。じゃあ瑠奈。明日はアイテムとか渡すからよろしくな」
「うん、じゃあね」
軽く手を振った瑠奈はアジトを出ていった。
瑠奈――いや、怪盗Rはターゲットがあるビルの屋上にいた。少し丈が長いくすんだ赤いジャケットを着て、赤いミニスカート、黒いレギンスを身に着けている。黒いウエストバッグとジャケットの胸ポケットには金色の糸で『R』と刺繍が入っていた。中学校の制服がセーラー服ということもあって、ジャケットは新鮮に感じる。赤いサングラスをかけたRがチラリと横を見る。
そこには、燕尾服のような形のくすんだ青いジャケットを羽織り、黒いスラックスを履いた相賀――怪盗Aがスマホを見ていた。Rの視線に気づいたAが顔を上げる。
「……どうした?」
「え? ううん、何でもない」
否定はしたが、実際は真剣な顔でスマホに記録した計画を見直すAの横顔に見惚れていたのだ。
「そろそろ時間だな。行くか、R」
「OK、A!」
頷きあった二人はビル内に通じるドアに駆け寄った。Aが鍵開けツールでかかっていた鍵を開ける。
「じゃあ、計画通りな。警備員が粗方下に行くまで俺はここで待機してる。このビルにいる警備員は二十人。八割程度集まったら、連絡してくれ」
「その連絡は、これでするんだよね」
Rは耳にかけた通信機を指した。
「そうだ。もし警備員が予想外に強かったら、さっき渡した目くらましを使え」
「OK!」
頷いたRは階段を駆け下りた。
「ぐあ!」
十階のフロアで鉢合わせした警備員に回し蹴りを食らわせると、更に階段を駆け下りていった。