相賀の過去
「俺が怪盗になったのは母さんの影響だ」
相賀はゆっくりと話し始めた。
「知ってるか? 三年前、数ヶ月日本を騒がせて忽然と姿を消した怪盗Mを……」
「あー、そういえばニュースで見たことあるよ」
「それが俺の母さんだ」
「……え!?」
相賀が言ったことを理解するのにたっぷり五秒かかった。
「母さんが病気で死んで、親戚のはからいでここに引っ越してきたって、瑠奈ん家に挨拶に行った時に言ったろ?」
「言ってたね」
「引っ越してくる前に家の片付けをしてたら、母さんからの手紙を見つけたんだ」
三年前。母親――真優の葬儀を終えた相賀は真優の部屋を片付けていた。机の引き出しを開け、中に入っているものを取り出していく。とある引き出しを開けたとき、白い封筒が入っていることに気づいた。
「何だ? これ……」
何気なく開いてみたそれには、驚きの内容が記されていた。
「それには、母さんが怪盗Mであること、ずっと騙していて悪かったという謝罪、そして、俺に怪盗を継いでほしいという頼みが書かれていた」
「……」
瑠奈は何も話せなかった。
「もちろん、最初は驚いたさ。でも、怪しい節もあったから納得できた。母さんは医者だったけど、出張っていってしょっちゅう家を開けてたんだ。その時期がMが出没していた時期と毎回重なってたから、もしやとは思ってた」
空はもうすっかり暗くなり、一番星が光りだしていた。
「でも、どうして怪盗をやっていたのかはわからなかった。手紙には、ある人を止めたいから怪盗をやっていたとしか書いてなかった。母子家庭だったから、母さんにめちゃくちゃ迷惑かけてきたし、親孝行の意味もあってAを始めたんだ。でも俺一人じゃ限界があった。武道とか、やってなかったからな。この三年で少しは身につけたけど。使えんのはこれだけだ」
相賀は人差し指で自分の頭を指した。
「だから瑠奈を誘ってみようと思ったんだ。お前、空手の黒帯持ってるだろ? 俺よりは戦力になると思ってな」
「……事情はわかった。それで、何でここに引っ越してきたの?」
「前にここのテレビ特集を見たことあったんだよ。天の川がハッキリ見えるってところに惹かれてな。幸い俺が元々住んでいたところはここからそう遠くなかったからここに決めたんだ」
「なるほどね。それで、どうしろと?」
「別に。話しただけだ」
「怪盗やるんでしょ? どうすればいいの?」
相賀は驚いて瑠奈を振り返った。
「……犯罪者になるぞ」
「犯罪者って言い方は好きじゃないって言ってなかった? 相賀だけにそんな重圧背負わせない。二人で背負えば少しは軽くなるでしょ?」
「瑠奈……」
相賀の目にはうっすらと涙が浮かんできていた。