転校生とライバル登場!
星が瞬く夜空を、黒い布が翻る。あるビルの屋上に立っていた人影はふと夜空を見上げた。雲の間から満月が顔を出し、人影を照らす。それは黒いマントを羽織った男だった。夜風にマントをはためかせた男はしばらく満月を眺めていた。
「ほら席座れー」
朝。三浦永佑の声が騒がしい教室に響く。いつものようにじゃれていた黒野慧悟と相楽竜一が席に付き、他のクラスメートも続々と座っていく。
「全く……もうチャイムは鳴ってんだぞ? いい加減ベル着出来るようになれよ。そんなんじゃ転校生に示しがつかないだろう」
「転校生?」
竜一が聞き返す。
「ああ。時期的に珍しいけどな。入っていいぞ」
永佑は廊下に向かって声をかけた。ドアが開き、入ってきたのは――男だった。黒いリュックを背負った男は教卓に向かってまっすぐ歩き、くるりと生徒の方を向いた。その男の顔を見た生徒は皆驚いた。男は長い前髪で右目を隠していたのだ。左目は綺麗な青だ。
「自己紹介どうぞ」
「はい……高山翔太です。よろしく」
翔太が短い自己紹介を言い終わるや否や、慧悟が立ち上がった。
「その右目、どうしたんだ?」
翔太は突然尋ねられて困惑の表情を見せた。しかし、すぐに真顔に戻った。
「……言えない事情があるんです」
それしか言わなかった。
「黒野……タイミングってもんがあるだろう。高山は緊張してんだぞ? えーっと高山の席は……あ、渡部の後ろが開いてるな」
永佑が指した席は窓際の一番後ろの席だった。
「視力大丈夫か?」
「大丈夫です」
短く答えた翔太は渡部海音の後ろの席に座った。
休み時間。海音はくるりと後ろを向いた。
「高山君、だっけ。僕は渡部海音。よろしくね」
窓の外を眺めていた翔太はゆっくり海音を振り返った。そしてかるく頭を下げると、すぐに窓の方を向いてしまった。
「緊張してるからじゃないのか?」
帰り道。一緒に帰っていた木戸相賀と林拓真に昼間のことを話すと、相賀が言った。
「最初はそうだと思ったんだけど……今思い返すと、そうじゃなかったと思うんだ。緊張して話せなかったというより、自分から僕を避けてるような……そんな気がしたんだ」
「まあ海音の勘は当たるからなァ……。それに雰囲気もなんか独特やし……」
「だよな……俺もそう思ってる。あの右目なんだろうな」
「怪我でもしてるんとちゃうか?」
「怪我なら眼帯してるのが普通だ。前髪じゃ隠さないな。とすると……傷痕でもあるのか……」
「あ」
突然、海音が声を上げた。
「オッドアイじゃない? ほら、僕色んなパーティーに招待されるんだけど……パーティーで会った人の中に、オッドアイだからいつも眼帯してる人がいたんだ」
「……あり得るな」
相賀は腕を組んで考え込んだ。
「まあ、深入りしないほうが良いだろうな。彼が自分から話そうとするまでは口出ししないほうがいい」
「せやな」
その頃。翔太はパソコンの前に座っていた。画面を険しい目で見つめ、椅子から立ち上がる。
パソコンの奥には、写真立てが置かれていた。写真には、翔太とその親らしき男女、そして男性に抱っこされる小さな男の子が写っていた。
「A、何かおかしいよ。この美術館、警備員が十五人いるんでしょ? 一人もいないよ」
ある美術館に忍び込んでいたRは通信機に呼びかけた。
「まだ待機してるんでしょ? 気をつけてよ」
『ああ』
屋上から美術館に忍び込んだAは地下に向かっていた。この美術館の地下には金庫室があり、今回はそこに眠っているダイヤを狙っているのだ。しかし――。
「なっ……!?」
金庫室の扉を開けたAは絶句した。その部屋の中には警備員が何人も倒れていたのだ。全員気絶しているようだ。Aはすぐに通信機のボタンを押した。
「R、脱出だ!」
『盗んだの?』
「いや、誰かに先を越された。警備員が全員金庫室で倒れてたんだ」
『……わかった』
通信を切ったAは金庫室を飛び出した。
(誰が俺たちより先に……実鈴じゃないな。警備員があんなになってるわけないし……一体……)
Aは内心首を傾げながら廊下を駆け抜けた。
屋上についたRはあたりを見回した。
「Aはまだか…」
その時、Rの視界の隅に何かが映った。見ると、屋上の隅にある貯水タンクの陰から黒い布が見え隠れしている。
「誰かいるの!?」
明らかにAではない。Rが叫ぶと、人影がタンクの陰から出てきた。月が出ていないためはっきりとは見えないが、男だ。黒いマントを身に纏った男はくるりとRに向き直った。
「こんな暗いのに僕の姿を見つけられるとは。夜目が利くのかな?」
男が口を開いた。軽い口調に明るい声で、完全に場違い感が出ている。
「あ……あなた誰!?」
Rが尋ねたその時、月が雲の間から顔を出した。月光に照らされ、男の姿がハッキリ見える。
百六十センチ後半あたりの若い男だった。白いシャツに黒いベスト、黒いマントにズボン、黒ずくめの格好をした男は目元に仮面をつけていた。白無地に金色で縁取りされた仮面だ。
「僕かい? 僕は……『怪盗X』。君達が狙っていたダイヤは僕が貰ったよ」
男――Xは懐からダイヤを取り出して見せた。ダイヤが月光を浴びてキラキラ光る。そこにAが飛び込んできた。
「なっ……!? それは俺らの……!」
「君達の? これは僕が盗んだんだから僕のものだよ」
「違う! それはあなたのものでも私達のものでもない! そのダイヤは持ち主の大事なものよ!」
Rが叫ぶと、Xのそれまで浮かべていた笑みが消えた。切なげに「大切なもの、か……」と呟く。
「人は他人が大事にしてるものなんて簡単に壊してしまうのに。君達はそれでも他人の大切なものを守るのかい?」
「え……」
二人が一瞬戸惑った。Xはその隙に屋上から飛び降りた。
「あ!」
慌てて縁に駆け寄って覗き込むと、Xは宙に浮いていた。背中には機械を背負っている。
「チッ、エンジン付きのパラグライダーか……」
Aが悔しそうに呟く。パラグライダーにぶら下がったXはブレークコードを引いて旋回し、飛び去っていった。




