探偵の推理
「事件が起きたのは今日の午前三時頃。あなたのペンダントと通帳等を盗まれたのね?」
「うん……」
「とりあえず朝井さんの口座を凍結させてるから、お金を引き出されることはないわ。ところであのペンダント、何か高価なもの?」
リビングのテーブルについた実鈴は、雪美から話を聞いていた。三人は椅子に座ったまま話を聞いている。
「ううん、そんなんじゃなかったよ、確かに石は綺麗だけど……」
「あれ、ぱっと見ペリドットに見えるから勘違いしたのかもね……。今、防犯カメラや目撃情報を元に犯人の足取りを追わせてるわ。小学一年生からの仲だからね。絶対に捕まえてみせるから、安心して」
ハッキリ言い切った美鈴に、雪美は「……ありがとう」とうっすら微笑んだ。
雪美の家から帰ってきた相賀と瑠奈は、相賀宅の地下室にいた。
「……相賀。私の言いたい事、わかる?」
ソファに座った瑠奈は、少し怒気をはらんだ声で言った。
「ああ。次のターゲットだろ?」
相賀も同じ考えだった。
その夜。アジトでパソコンを操作していた相賀はハッと目を見開いた。
「おいおい、マジか……。ま、面白くなってきたな」
ニヤッと笑って操作を再開する。画面のウインドウには、壁によりかかる実鈴が映っていた。
「ターゲットの場所がわかった。星の丘の高級住宅街の一つ、山口家の地下室だ。犯人はコイツの可能性が高い」
翌日。瑠奈は再びアジトに来ていた。スクリーンに映っていた屋敷の写真がスライドされ、若い男の写真が映る。
「服部優馬。この屋敷で働く使用人だ。昨日の午前三時頃から周辺の防犯カメラを洗ったら、コイツが屋敷に入っていくのが映っていた。朝井さんの家は高級住宅街から近いからな。ただの偶然では片付けられないだろ?」
「……確かに」
「予定だが、今週の金曜日……いや、土曜って言ったほうがいいな。に実行する。明日もう一度来てくれ。それまでに計画を固めておく」
「OK」
実鈴は、山口家の屋敷に来ていた。後ろにはスーツを着た中年男性が立っており、更に刑事も数人いる。
「五島警部。獲物が網に掛かりました」
「本当か! 実鈴君」
五島と呼ばれた男性が尋ねる。
「ええ。後は網を巻き上げるだけですよ」
実鈴は不敵な笑みを浮かべた。
金曜の夜、山口邸には多くの刑事や屋敷関係者が集まっていた。その中心にいるのは――佐東実鈴だ。
「皆さん、火曜日にこの近所でおこった窃盗事件を知っていますか?」
実鈴は良く通る声で話し始めた。
「ああ、ニュースになってたな。しかし、それが何か?」
この家の主人の山口禮士が尋ねる。
「この中に、その犯人がいます」
実鈴の発した言葉に、全員がざわめいた。
「お、おい、実鈴君?」
五島警部が慌てるも、実鈴は平然と話し始めた。
「事件が起きたのは火曜日の午前三時。何者かが朝井さん宅に侵入し、通帳や朝井さんのお嬢さんのペンダント等を盗んでいきました。その犯人は……」
実鈴はおもむろに右手を上げ、ある人物を指差した。
「服部優馬さん、あなたです!」
人混みの奥にいた使用人の服部優馬は驚いて目を見開いた。
「どうして僕が……!」
「朝井さん宅周辺の防犯カメラを火曜日の午前三時頃から探ったら、あなたらしき人影が映っていました。マスクで口元は見えませんでしたが、髪型や目の形はあなたとよく似ていました」
「それは不確定要素だろ? よく似ている。それだけで犯人扱いは乱暴すぎないか?」
服部の言うことは最もで、五島は実鈴に顔を近づけた。
「おい、実鈴君――」
「もちろん、これだけじゃありません。火曜日の午前三時二十分に、あなたがこの屋敷に入っていくのが映っていました」
「え……」
服部が初めて狼狽える。
「あなたはこの屋敷に勤め始めたのが最近ですから、どこに防犯カメラが仕掛けてあるか分からなかったのでしょう。しかし、普通に考えれば玄関に仕掛けてあるのは予想できたはず。けれどもバッチリ映っているということは……」
「切羽詰まっていた……だろ?」
服部は諦めの笑みを浮かべて実鈴の言葉を引き継いだ。
「服部! お前……!」
禮士が服部の胸ぐらを掴む。
「元はと言えばお前のせいだ!」
突然服部が吠えた。禮士の手を乱暴に振り払う。
「お前が……お前が給料の値切りをしたから! そんなことしなければ……っ」
「値切りをした……そんな理由?」
それまで黙っていた実鈴が怒気をはらんだ声で尋ねた。
「私欲じゃない! 妹の……清香の手術費が必要なんだ! 僕は両親も親族も皆いなくて一人で清香を育ててきた! けど……手術をしないと清香は後二ヶ月しか生きられないんだ……それなのに……この男はそれを知りながら……!!」
服部が殺気のこもった眼差しで禮士を睨みつける。
「……朝井さんの家を狙ったのは?」
「たまたま見つけた女の子の家がそこだったんだよ」
服部が答えると、実鈴は冷静な声で言った。
「服部優馬さん、あなたを逮捕します」
「なっ……!? 今の話聞いてなかったのか!? 僕がいなくなったら清香は……」
「わかってるわ。山口さんが、清香さんのことを知りながら給料の値切りをしたのなら、あなたは怒るのも当然。でも、だからといって犯罪を犯していい理由にはならないわ。ましてや、何も関係のない人達も巻き込んでいる。手術費は……山口さん、払って頂けますよね?」
禮士は実鈴を睨みつけたが、それよりも強烈な実鈴の圧に負けた。
「……わかった」
「なんで……? なんでそこまで?」
泣き崩れていた服部が顔を上げた。
「……これ以上、味わってほしくなかったから。家族を亡くす、あの悲しい思いをね」
実鈴の脳裏には、葬式会場が蘇っていた。男女四人の遺影が花の中に飾られていて、幼い実鈴と更に小さい女子の肩に、中学生くらいの男子が手を置いている。
その時、ある刑事が「五島警部!」と声を上げた。その手には無線機が握られている。
「屋敷に侵入者が!」
「何だと!?」
五島は慌てたが、実鈴はすぐに察しがついた。
「警部! 侵入者はきっと、RとAです!」
「何だって!?」
「この屋敷の地下室には宝石が数個あります! それを狙いに来たのかもしれません! A班は屋上! B班は地下室! C班は私に着いてきて!」
矢継ぎ早に指示を飛ばした実鈴はC班を引き連れて走り出した。




