1/189
プロローグ
人々が寝静まる丑三つ時。漆黒の夜空には満天の星と澄んだ満月が浮かんでいた。と、風切り音と共に青いジャケットが翻った。
鳥……? いや、人影だ。ビルの屋上に着地した人影は、ふと左上腕部を押さえた。
「いってぇ……。あの野郎思いっきり殴りやがって……」
ズボンをはいていることや、口調からみて男だろう。しかし、まだ学生と言っていい体格だ。
「やっぱ俺一人じゃなぁ……。アイツ誘ってみるか……」
少年が独り言を呟いたとき、雲に隠れていた満月が顔を出した。少し癖のある黒髪に、青いジャケットと黒いズボンを身に着けた少年はかけていた青いサングラスを外した。淡い月光に照らされて、ジャケットの胸ポケットに金色の糸で刺繍された「A」の文字が光る。
しばらく満月を見上げていた少年はメジャーのような道具を取り出し、ボタンを押した。ワイヤーが発射され、近くの民家の屋根にワイヤーの先についている金具が引っ掛かる。少年がもう一度ボタンを押すとワイヤーが高速で巻き取られ、少年は民家の屋根に飛び移っていった。