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98 「キス」

多忙にて更新が遅れました。

申し訳ございません。

 Eとヴォルフラムが寄り添う姿は、まるで互いに信頼し合っている同志に見えた。

 そこへいつの間にかやって来たジンが合流する。今までジンがいた方向に目をやると、生徒達が全員倒れていた。地面に伏せっていて、何人かは立ち上がろうとしたり、わずかに体が動いているところから察するに、まだ誰一人殺されたわけじゃないとわかって安心出来た。

 それでも全然良い状況とは言えない。ジンはヴォルフラムを睨め付け、それから私……Eへと視線を移す。


「どうやら成功したようだな」

「あぁ、乗っ取りの乗っ取り成功……ってな」


 どういう、こと?

 ヴォルフラムとジンの会話を聞きながら、私がその言葉の意味を考えていたら、また声が響いてきた。


(魔王復活の儀式の時、私はあなたに体を差し出した。だけど意識体はそのまま肉体に残していたのよ)


 今、喋ってるのは……まさか、E……なの?


(そう、私はこの肉体の持ち主。本物のE……、イビル。初めましてじゃないでしょ。私が見せた記憶の中で、一度私を見てるはずだから)


 やっぱり……っ!

 あれはあんたが、あえて私に見せた過去の記憶ってわけね?

 これは一体どういうこと?

 私の今の状態は何!?


(魔王復活の儀式の時、肉体は空にしておく必要があった。そうしないと過去の生贄達のように、魔王の魂と生贄の魂とが反発してしまって、儀式が成功することはない。でも私達の思う通りに動いてくれるかどうかわからない魔王をそのまま復活させるつもりなんて、私達にはなかった。実際、あなたは邪教徒達の思想とは全く逆の思想で動いていた。だから、私は自分の魂を肉体に残した状態で、魔王にこの肉体を乗っ取らせることにしたの)


 魔王のことなんだと思ってんのよ。

 でもEの魂が残った状態だったら、魂は反発し合うんじゃなかったの!?


(……存在感、というステータス値を忘れた?)


 え、それ……って……。

 でもいくら数値を高くしたとしても、完全にいなくなるなんて出来ない。

 抵抗値とか、そういう数値が高い人間には存在感を見破られるって、確かに……っ!


(私の存在感のステータス値は、もうこれ以上上がらない。最大値にまで到達させた存在感は、任意で存在を抹消させることが出来るみたいよ。でも自分は自分の存在を認識しているから、この世から消え去るわけじゃない。存在感を極限にまでかき消した私という存在は、魔王の魂に認識されることなく儀式を成功させることが出来た。モブディラン家のみが持つステータスが、こんな形で役立つとは。正直思ってもいなかったけど)


 まさか、だなんて思いたくないけど。

 魔王復活の儀式で、魔王を復活させた上でさらに乗っ取る為に……、その為にモブディラン家を引取先に選んだなんてことは……。


(それ以外に理由なんてない。養子縁組をして、モブディラン家当主がステータス付与することで『存在感』を得られるようになっている。全ては私と、ヴォルフラムの願いを叶える為なの。その為にはどんなものも利用してやる)


 酷い、あれだけ愛されていたのに……っ!

 そんな風に切り捨てられるなんて、E……あんたがそこまで酷い女だなんて思わなかったわ!


「あんたには一生わからないことよ。会う者全てから石を投げられる人生が、どういうものか知らない奴には、一生……」

「どうかしたか、E?」

「ううん、なんでもないわ、ジン。それより早くこの顔をどうにかしてくれない? 魔王再臨に、この地味な顔は相応しくないから」


 私が急にヴォルフラム達と馴れ合い出したからだろう。事情を知らない先生達が、怪訝な顔で私を見る。

 違う、これは私じゃない。

 だから……、近寄っちゃダメ!


「モブディラン、危ないからこっちへ来い!」


 先生は自分がこんな目に遭っても、私を気遣う。

 生徒を思いやる。

 片手に細身剣を握ったまま、もう片方の手を私の方へと差し伸べた。


「顔を戻す前に、見せつけてやろうぜ」


 ヴォルフラムが良からぬことを考えたのか、Eの体を自分の方へと引き寄せた。

 そして何をしようとしているのか察したEは、ヴォルフラムに身を委ねるように体を寄り添わせる。

 確かにその身体は私の身体じゃない。

 でも、その見た目でそんな奴とくっつかないで!

 先生に見られてる。中身は私じゃないのに、私がヴォルフラムとイチャついてるって誤解されちゃう!

 やめてよ!

 私の声はEには聞こえてるはず。そんな私の必死な叫びを嘲笑うように、Eは嬉しそうな顔をして両目を閉じた。

 そしてヴォルフラムと唇が重なり合う。


「……っ!!」


 最初は唇を重ねただけで、やがてお互いに舌を絡ませる。

 Eは身をよじらせてヴォルフラムの動きに合わせた。

 そんな激しいキスを全員が見ている前で……。


「何……、してんだっ! Eから離れろ! ヴォルフ兄!」


 ルークが叫ぶ。その声があまりに悲痛で、私もショックを隠せない。

 先生に見られてる。

 私の身体が他の男性とキスしてるところを、見られてる……っ!

 やめて、やめて、もうやめて!


 Eは両手をヴォルフラムの背中に回して、しがみつくように求めた。

 ヴォルフラムもまた、Eの腰を、お尻を、手でまさぐる。

 私がしてるわけじゃないのに、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。


「モブディランから……っ、離れろっ!」

「レイス君! 待ちなさい! ダメだ、罠だ!」


 溜まりかねた先生が、同僚と先輩を傷つけられて、生徒を傷つけられて、そして……好きだと言ってくれた相手を他の男に汚されて……。

 いつも冷静な先生が完全に怒りで我を忘れてしまったように、差し伸べていた手を剣に持ち替えて、ヴォルフラムとEの元へと向かっていく。

 サラが、ウィルが、先生に手を伸ばすけど、届かなかった。

 罠だと……、ナーシャが叫んでいた。


 ゾフィとジェヴォーダンは少し離れた場所で、気を失っている二人の先生と共にいる。

 咥えていたライラ先生を地面に落とし、地面に倒れたままのソレイユ先生と並べていた。それをゾフィが屈んで、時々指で血をすくっては舐めている。そんなおぞましい光景。

 あいつらがいる場所から、何かこちらに仕掛けているとは考えにくかった。


 ヴォルフラムとジンが何かしようとしている、ということ?

 確かにジンはレイス先生のことを勝手にライバル視していた。

 あいつが何かを……?

 

 そんな風に、ナーシャの言う罠について思考を巡らせている間に、先生がすぐ目の前まで迫っていた。

 普段なら真正面から向かって来るようなことはしない先生が……。


 ヴォルフラムの唇が、離れていった。

 ニヤリと笑っている。あぁ、こいつが何か仕掛けるんだ。

 ヴォルフラムは剣術も魔術も人並み以上の実力を持っている。考え無しに、しかも『スキル無効化』を弱体化させられてるこの状況で、先生の剣術がどこまで通用するのか私にもわからない。

 せめて弱体化させられてなかったら、魔術と特技を封じることが出来ていたかもしれないのに。

 左目を失う時、ヴォルフラムは同時に『弱体化ナーフ』を使っているはずだ。それはゲーム内でも同じ。

 だから、何か策がないと……。


 先生の方へと、Eが振り向いた。

 そして2、3歩ほどヴォルフラムから離れて、先生が向かって来てる方へと歩み寄って、右手を差し出す。

 笑顔で先生を見つめる。先生もEのその笑顔を見て、疑いながらも少し気を緩ませてしまっていた。

 優しい微笑みから、口を歪ませて、企みの微笑みへと変わる。

 その変化に先生が気付いたけど、遅かった。

 Eは手で何かを鷲掴みするような仕草をして、大きなドアノブを回すように、手首を捻る。


 ガラ空きだった先生の、左の脇腹にブラックホールが生じた。

 ギュルギュルと渦を巻いて、そこにあったものを吸い込んでいく。

 とても小さなものだったけど、威力としてはそれで十分だった。

 先生の脇腹のほとんどが抉れて無くなり、血と……何か……臓物のようなものがはみ出ている。


 わかってた。

 私がーー、聖女覚醒を拒んでいた理由がーー。


 バチンと弾けて、ほんの一瞬だけだけど、Eの肉体を乗っ取ることが出来た。

 力一杯に叫ぶ。

 なりふり構っていられない。


 先生が、死んじゃう!


「サラ! 今すぐレイス先生の元へ走って……っ、自分の全ての気持ちを込めて……、キスを! そしたら……っ、聖女の奇跡でみんなを……っ、先生を救えるからっ!」


 もう、他の女の子と先生がキスしてるところを見たくない、なんて……言ってられなかった。


 聖女覚醒のトリガー。


『心から愛する者と、接吻による契りを交わすこと』


 それが、サラが聖女として覚醒する為の条件ーー。

もうすぐ100話です。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

E達の行く末を楽しみにしてもらえたら幸いです。

よろしくお願いします。

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