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95 「最低で最悪な真実」

今回ほぼ会話で進行してしまいますが、ご了承ください。

よろしくお願いします。

 ヴォルフラムが、どうやって空を飛んでいるのか。私にはわからないし、今はそんなことどうでも良かった。

 あいつから落とされたのがレイス先生だとわかって、みんなが混乱している。もちろん私だって。

 体が震えて動かなくて、頭の中は真っ白で、何がどうなってるのかわかっていない。

 ウィル達が懸命に先生に声をかけ続けている。サラが先生に回復魔法を使っている。

 横たわる先生の顔が見えた。気を失って、身体中ボロボロで、特に酷いのは左目だ。血がどくどくと流れて、目を……抉られていた。


 ひどい、なんてむごいこと……っ!

 

 襲われる日にちは違えど、サバイバルキャンプで先生がヴォルフラムと遭遇した時。

 レイス先生はヴォルフラムによって片目を抉られ、あいつのスキル『弱体化ナーフ』で先生のスキルが弱体化させられることになっている。

 それと同じ状態だということは、恐らく先生はすでにスキルを弱体化されてしまってるんだ……。

 最も避けなくちゃいけない事態になってしまった。

 あぁ、どうしよう。最悪だ……。私は自分の命よりずっと大切な人を、守ることが出来なかった。


 涙が溢れてくる。

 今度のは、血の涙なんかじゃない。

 私自身が流している、本物の涙だ。


「おい、ヴォルフラム! 奴と戦うのは私だと言っただろう!」

「そうだっけ? 忘れてたわ」


 そんな日常的なやり取りが聞こえてくる。

 うるさい、黙れ……。先生をこんな目に遭わせておいて、何を呑気に会話なんてしてるのよ。

 許せない。ーー赦せない。


「……ヴォルフ、兄さん?」


 先生にずっと声をかけ続けていたルークが立ち上がり、上空にいるヴォルフラムを見つけて、そう呟いた。

 あぁ、そうだ。最悪はまだ続くんだ。

 ラヴィアンフルール国の王子二人の、兄弟の確執が……。

 ルークに落ち着くように、冷静になるように声をかけてあげたいのに。

 私自身が、今は一番の役立たずになってる。


「久しぶりだなぁ、ルーク。元気だったか?」

「そっちこそ。今まで一体どこで何をやってやがったんだ! 俺達を……、母さんや妹のメリルを捨ててどこほっつき歩いてんだよ!」


 ルークが珍しく怒鳴っている。普段のルークはあまり感情を昂らせることがない。それは元々の天然な性格がそうさせているのかもしれないけれど、こと父親や兄が関係すれば激情に駆られることがある。

 無理もない、仕方ない。本来は第一王子であるヴォルフラムが王位を継承するはずなのに、邪教にハマったことで父親と対立して……。国王である父親の逆鱗に触れて、勘当された。

 そして父親の怒りは、そのまま残された母親、息子、妹に及ぶことになったんだもの。恨んでないはずがない。そのせいで怒りの矛先が自分達に向けられたんだもん。

 私はそれを知っている。ルークから聞いたわけじゃないけど、この中で唯一ルークの心情を理解出来るのは、きっと私だけのはず。

 だからルークの心が壊れてしまう前に、私が支えてあげなくちゃいけないはずなのに……っ!


「ルーク、お前もわかってんだろ? 全部あのクソ親父の撒いたタネだってよ。悪いのは俺達の親父だ」

「あぁ、そうだ。全部あの親父が悪いのはヴォルフ兄さんのいう通りかもしれない! だけど! ヴォルフ兄さんが出て行ったことで、母さんとメリルがどれだけ辛い目に遭って来たか!」

「何だよ、一緒に連れて行けば良かったか?」

「そうじゃない! せめて一目会うだけで、母さんは安らげたかもしれないのに! 母さんは兄さんのことをどれだけ大切にしているか、わかんねぇのかよ!」


 ルークは気持ちの全てをぶつけているけど、ヴォルフラムにはきっと届いてない。あいつは父親である国王を殺すことしか、きっと考えていない。そのせいで周りがどうなろうかなんて、頭にないんだ。

 ゲーム内でも、ヴォルフラムが改心することなんて最後までなかったくらいだ。ルークの言葉でヴォルフラムが揺らぐなんてこと、悲しいけどきっとない。


 私は何とか立ち上がって、そばにいたエドガーが肩を貸してくれた。

 呼吸が苦しい。もしかしたらさっき吐血した時に、血の塊が喉の奥で少し詰まっているのかも。


「そんなことより、母さんは元気か? メリルは?」


 何を今さらそんなことを聞くんだろう。

 さっきどうでもいい、みたいな反応をしてたじゃない。それとも少しは気にかけているとでも?


「一応元気だが、昔のようにはいかない。当然だろ。俺達の家庭はとっくに崩壊してんだよ」

「そうか、そりゃそうだよな。ところでメリルはもう何歳になるんだっけ?」

「は? もうすぐ5歳になる。それがどうしたんだよ。メリルは兄さんが出て行ってから生まれたのに、どうしてそんなに気にかける!?」


 ルークの言葉に、ヴォルフラムは感じ入るように深いため息をついた。

 それから空を仰いで、また地上にいるルークを見下ろして、いつもの嫌な感じのニヤつき方をする。


「そりゃあ気にするだろ。だって、お前にとっては妹であり……姪でもあるんだからなぁ?」

「……どういう、意味だ?」


 ヴォルフラムは、何を言ってるの?

 私は早く先生の元へ急ぎたいのに、ヴォルフラムの次の言葉が気に掛かった。

 すごく嫌な感じしかしない。あいつの言葉ひとつひとつが不気味で、不吉で、さらに最悪な方向へと導かれているような……。

 ヴォルフラムは両手を広げて、それから紳士のようにお辞儀をする。


「そういや、誰も教えてくれてないんだっけ? ラドクリフ家の闇の闇。家系図を作ろうとしたら、ややこしくってしょうがなくてな。口で説明するのもややこしいぜ?」

「もったいつけてないで、さっさと言ったらどうだ!」

「俺の父親はオルレアン・ラドクリフだが、母親はお前達が知る女性とは違う。俺の母親はサキュバスの娼婦パドメ、というらしい。そしてオルレアンとエスペランサの間に、ルーク。お前が生まれた」


 ヴォルフラムは、私がジンから聞いたことをルークに話して聞かせた。

 これは私もジンから聞くまで知らなかった情報だ。つまり、ゲーム内でも設定されていない初の情報。もしかしたら、もうすでにゲームとはかけ離れた世界になっているのかもしれないけど。

 ダメだ、この先何を言うつもりか知らないけど。きっと良くない。

 でも私は酷い貧血で思うように体が動かせなくて、思考も鈍って、どうしようもない。ただでさえ役立たずなのに、何で私……こんなに無能なの。


「そして父親の不貞の真実を知った俺は、復讐してやろうとした。親父から、母さんを奪うという形でな! 心苦しかったよ、本当だぜ? でも俺もサキュバスから生まれた息子なんだよな。男の場合はインキュバスってのか? まぁどうでもいいや。とにかく、俺は母さんを犯し、孕ませた。生まれて来たのがメリルってわけだよ!」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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